第五章 コーラル伯爵領レイテスへ

28. ワリブディス、出発!

 エリンシア様によると、レイテスに向かって出発するのは、コンロンの営業終了日の3日後らしい。

 つまり、営業終了日の翌日とその次の日は食材の補充に充ててほしいそうだ。

 食材販売機のことはなるべく隠したいから、ありがたく使わせてもらおう。


 営業日が終わると、料理ギルドへ営業許可証を返却し、いよいよ食材の買い取りである。

 何事もなく進んで14日間ということは、雨などで動けない日も含めると20日間くらいの食糧は用意しておかなければ厳しいだろう。

 150人が毎日3食で20日間分……4500食か、無理だな。

 可能な限り食材を買い占めてコンロンに積み込み、どうしても足りなくなったら食材販売機を使おう。


 まずは、肉屋だ。

 オーク肉を全部買い占めたいと言ったら、さすがにそれはできないと言われてしまった。

 ほかのお客様の分もあるからね。

 仕方がないので、買える分だけ買い占めて次のお店に向かおう。

 肉屋だって一カ所じゃないし。


 野菜は本当にいろいろな店で買う。

 基本となる3種類のほか、付け合わせ用の葉物野菜やトマトなどを購入していく。

 どこも大量購入になるけど、リコイルちゃんにも付き合ってもらっているので、彼女のマジックバッグに入れることができ、コンロンの収納は一時的にごまかせる。

 あくまで一時的になんだけど。


 肉と野菜を買い終わったら次は酒屋だ。

 お酒は飲み物として提供するのではなく、ハヤシライスのコクを出すための材料として使う。

 そのため、あまり高くない、でも悪い品種じゃないものをある程度まとめて買った。

 さすがに大商いで混ぜ物をしているワインは売れないと判断してくれたようだしね。


 あと、それからミルクも買っておく。

 今回の旅では、また新しいメニューを出す予定だ。

 その材料としてミルクが必要なんだよね。


 それに、パンもたくさん買っておく。

 これは初日に注文して2日目に取りに来るスタイルを取った。

 どのお店でもそんな大量発注して大丈夫なのか疑われたが、お金を先払いして黙らせる。

 そして、翌日できたパンを回収していくのだ。

 150人ともなると1回の食事だけでも相当消費するだろうからね。

 足りなくなったら、これも食材販売機だ。


 このように、関連する肉や野菜をほぼ買い占めて2日間の準備時間は終わりを告げた。

 明日はいよいよエリンシア様が出発するときに同行することになる。

 私たちが使っている駐車場は決まっているから、そこまで使いの人が迎えに来てくれる手筈だ。


 翌日、早い時間に使いの人がやってきて一緒に来てもらいたいと案内してくれた。

 案内された先では、すでに何十人もの歩兵と、数十騎の騎馬が並んでいる。

 少し遅くなったかな?


「ようこそ、コンロンの皆様」


 外の様子を見ていたら、ひとりの女の人が近づいてきた。

 立派なドレスに身を包んでいるし、身分の高い人かな?


「はい。初めまして、コンロンのオーナーで料理人のミリアと申します」


「私は、今回の旅でコンロンの皆様のサポートを務めさせていただく、ファムと申します。以後、よろしくお願いいたします」


「よろしくお願いいたします。それで、もう出発ですか?」


「あとはエリンシア様の準備が終われば出発でございます」


 ファムさんはちょっと困ったような顔をしながら出発予定を告げてくる。

 なにか困ったことでもあるんだろうか?


「その、エリンシア様は朝が苦手で……」


 なるほど、なかなか起きられないのか。

 実際、エリンシア様が出てきて馬車に乗ったのは、この会話の1時間後くらいだった。

 本当に朝は苦手らしい。


 ファムさんによると、ファムさんはこのまま私たちの魔道車、つまりコンロンに同乗していくらしい。

 ベッドはともかく席は空いているから問題ないけど、夜はどうするのかと聞いたら、さすがにその時はほかの人たちと野営をするそうだ。


 ファムさんのお役目は、私たちが料理に変なものを混ぜないかどうかとエリンシア様の料理の毒見らしい。

 結構大変なお仕事である。


 今回の旅の間はなにも起こらないと思うけど、用心しなくちゃね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る