21. ワリブディス営業初日、夜の部

 お昼の販売が終わると少し休憩時間を挟み、夜の仕込みとクレープ販売の再開だ。

 今回は冒険者風のお姉さんたちだけじゃなく、普通の町娘の恰好をした人たちも多く集まっていた。

 順調に噂が広まっているらしい。

 でも、初日でこれって大丈夫なんだろうか?


「……まあ、なるようにしかならないよね」


「どうしましたか、主様?」


「あ、ううん。考えごと」


 グリッド君に心配をかけさせてしまったかな。

 クレープの注文も失敗するわけにはいかないし、どんどん作っていくぞ!


 クレープ屋台の時間も終了し、いったん休憩を挟んで夜営業の時間だ。

 屋台の前にはもうすでにたくさんの人だかりができ始めている。

 これはちょっとまずいんじゃないかな?


「グリッド君、屋台の横にお客様の列を整理して!」


「わかりました」


「サクラちゃん、屋台を開けるよ!」


「はーい!」


「皆様、お待たせしました! これより営業を始めます! 係員が列を誘導いたしますのでそれに沿ってお並びください!」


 そのあとはどんどんカレーライスが売れていく。

 お昼の3倍は作っているのに、それお昼も早く売り切れそうだ。

 これはまずいかも!


「サクラちゃん、カレーの作り足しってできる?」


「できるけど、一度お客様が途切れちゃうかも」


「それでもいいからお願い!」


「わかった!」


 元気よく答えてくれたサクラちゃんに追加のカレーを任せ、私は一心不乱にカレーライスを売っていく。

 パンを求めてくるお客様もいるけど、それはまれでほとんどがライスだ。

 やっぱり『カレーライス』という食べ物の珍しさが勝っているんだろう。


 やがて、最後の鍋も底を突き、ついにいまあるカレーはなくなった。

 グリッド君にもお願いして、いまカレーの追加を準備中であることを告げて回る。

 帰っちゃうお客様もいるけど、残るお客様もいる。

 ライスは途中で炊いてあるから大丈夫だし、最後まで保つはず。


 カレーの追加ができたあと、まだ買えなかったお客様を優先して買ってもらったけど、やっぱりすごい勢いでカレーがなくなっていく。

 なんとかカレーを食べたことがない人がいなくなるまでに売り切ることができたけど、お代わりを求める人の分はほとんど残らなかった。


 代わりと言ってはなんだけど、オーク肉の生姜焼きを勧めると、生姜焼きのタレがライスとよく合うらしくこちらも好評だった。

 結果、オーク肉の生姜焼きを目的とした列もできあがり、ライスが品切れになるまで列は途切れなかった。

 本当に大盛況である。


「おー、コンロンって本当にシュメルクナーにあったコンロンじゃねえか!」


「本当だな。街を移ってたのか」


「本当。ワリブディスで見つけるとは思わなかったわ」


「いらっしゃいませ。……あ、シュメルクナーで初めて来てくださったお客様!」


「正解! よく覚えていてくれたな!」


 あの時の3人組だ。

 なんでワリブディスにいるのか聞くと、片道依頼の護衛を受けてここまで来たらしい。

 魔道車での移動だったから私たちより先に着いていたんだね。


「しかっし、ワリブディスでも大盛況だったみたいだな。この辺りで食事を取っている連中、みんなここの客かよ」


「そうですね。ワリブディスで始めたカレーライスっていうのが爆発的にヒットしていまの状況になっています」


「新作か! もう残ってないのか!?」


「申し訳ありません。売り切れです」


「そうか、まあ、仕方がない。俺たちも冒険者ギルドで『コンロン』って屋台が出ているって聞いてかっ飛んできたんだからな」


 少し落ち込んでいるようだけど、こればかりは仕方がないよね。

 まさか予約してもらう訳にもいかないし。


「それにしても、これだけの人数をさばくのは大変だったのでは?」


 もうひとりの男の人が心配そうに聞いてきた。

 もうそりゃ大変でしたよ。


「やはりな。今日はうまくいったようだが、明日以降もうまく行くとは限らない。事前に打てる手は売っておいた方がいいのではないか?」


「打てる手?」


「まず、営業時間を伝えておくことだ。これは冒険者ギルドの有料掲示板に広告というかたちで貼っておけばいいだろう」


 なるほど。

 今日は自然発生的に集まってきたけど、明日からはどうなるかわからないものね。

 早速、貼り紙を作ろう!


「それから、人が増えてきたときのために列を整理する人手がほしいな。下級冒険者を何人か雇うべきかもしれない。下級冒険者を賄い付きという条件でなら安く雇えるだろう」


 賄い付きの雇用か。

 それはいいアイディアかもしれない。

 下級冒険者が食堂などで働いたとき、まかないなどが出るなら安くても働いてくれるからね。

 その案も採用だ。


「あと、トラブルが起きたときのために腕の立つ冒険者がいると楽なのだが……」


「あ、それはグリッド君がやってくれます」


「この少年が? 大丈夫なのか?」


「試してみますか?」


「わかった。よい座興にもなるだろう」


 グリッド君の実力を見せるというわけで、冒険者のお客様対グリッド君の試合が始まった。

 お互い素手のため、最初は間合いを量りあうことから始まる。

 やっぱりグリッド君は子供のためリーチでは不利である。

 でも、動きが素早い分、相手の懐に回り込んで何度もパンチを叩き込むことができた。

 その結果、グリッド君の試合は勝利で終わった。

 やったね、グリッド君!


「あいたたた。確かに、その少年なら短気を起こした者がいても取り押さえられるだろう」


「ですよね」


「しかし、わかりやすい武力というのも必要だ。そこも考えておいてほしい」


 そういう考え方もあるのか。

 少し考えておこう。

 ……やっぱりリコイルちゃんには一緒にいてもらった方がいいかもしれないな。

 ちょっと打算的だけど。


 この日はこの3人に料理を作って営業終了とした。

 営業が終わったあとは営業時間などを知らせる貼り紙を作り、下級冒険者向けの依頼を出すため冒険者ギルドに向かう。

 貼り紙の掲示板への貼り付けも許され、下級冒険者向けの依頼も貼り出されることになった。


 あとはこの結果がどういう風に生きてくるかだけど、それは明日になってみないとわからない。

 明日も元気に営業しよう!

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