20. ワリブディス営業初日、昼の部
ワリブディスに着いた翌日、いよいよ営業開始だ。
この街での営業場所は公園内の池のそばである。
リコイルちゃんも朝には出発しちゃったし、今日からまた3人での活動だね。
さて、公園内ということもあって人通りはわりと多い。
でも、シュメルクナーのように街の目抜き通りに面しているわけじゃないから、食事処としてはちょっと不利かも。
ただ、今回は近くにがっつり食べられるお店はないんだよね。
そこが狙い所かな。
まずはカレーの仕込みをしながらクレープ販売だ。
クレープに入れる果物は、昨日市場で仕入れてみて美味しかった物をチョイスしている。
バナナっていう果物がかなり美味しかったんだよね。
1房あたりの値段とクレープの値段を考えれば、かなりの儲けが出そう。
最初は売れるようになってからだけど。
「……あら、こんなところに屋台なんて珍しいわね。なにを売ってるの?」
本日、最初のお客様は魔術師風のローブを着込んだ女性だ。
この人も冒険者だろうか?
「いらっしゃいませ。いまの時間帯は『クレープ』っていうお菓子の販売です」
「お菓子……甘いの?」
「ええ、甘いですよ。甘いクリームと果物を薄く焼いた皮で包んだお菓子なんです」
「それ、ひとつちょうだい。いくら?」
「銀貨1枚です」
「むう、結構高いわね。まあ、話のタネにはなるかしら。作ってくださる?」
「はい、かしこまりました」
熱した鉄板の上にクレープ生地を丸く広げて両面を焼き、火から下ろしたら生クリームとバナナを載せて完成!
うん、手際もよくなった!
「はい、どうぞ」
「ずいぶん簡単な作りなのね。味はどうかしら……甘くて美味しい!」
「それはよかったです。ごゆっくりどうぞ」
ごゆっくり、と言ったけど、その女性はすごい勢いでクレープをひとつ食べ終わり、もうひとつ注文して持ち帰っていった。
やっぱり女の人って甘い物に目がないよね。
私も甘い物は好きだもん。
そのあと、引っ切りなしに冒険者風の恰好をした女性客がクレープを求めてやってきた。
どうやら初めのお客様が冒険者ギルドで話を広めてくれたらしい。
それで、まだ依頼に出かけていなかった女性冒険者がこぞって押しかけてきたというわけだ。
本当にクレープだけでいい稼ぎになった。
クレープを作っている間もお昼の仕込みは続く。
私はクレープ作りで手が離せないため、代わりにサクラちゃんが野菜を切り、オーク肉の薄切りと一緒に鍋で炒める。
炒め終わったら水を張り、火にかけてしばらく煮込んでいく。
煮込み終わったらカレールーを投入してカレーの完成だ。
カレールーを入れて煮込み始めると、カレーのスパイシーな香りもあたりに立ちこめ始める。
もちろん、その場にいたお姉様たちにもその香りは伝わっていた。
そうなると、当然気になるわけで、なにを作っているのか問い詰められる。
「カレーっていうスパイス料理です。いろんな香辛料を混ぜて作ったスープのような物を、ライスっていう穀物にかけて食べる料理ですよ」
「スープを穀物にかける? パンをスープに浸すようなもの?」
「ちょっと違いますが感覚的には似たようなものかもしれません。お昼になったら販売を始めますので、ぜひどうぞ」
軽く宣伝もしながら私は追加のクレープを作っていく。
その横ではサクラちゃんがオーク肉を薄切りにしているし、コンロンの外ではグリッド君がお客様にクレープを渡しながら料金を受け取っている。
何気に忙しい。
立地条件とは。
慌ただしいクレープ販売時間も終了し、いよいよ昼食の販売時間になった。
今日のメニューは予定通りカレーライスとオーク肉のさっぱり焼きと生姜焼きだ。
さて、お客様の反応はどうかな?
「カレーというものを食べに来たわよ」
やってきたのはローブ姿の女性、朝最初のお客様だ。
どうやらカレーの噂を聞きつけてまた来てくれたらしい。
「あ、朝の。わざわざ、ありがとうございます」
「いいのよ、今日は休暇だもの。それよりも、カレーっていう食べ物を早くちょうだい!」
「はい。カレーですが、ライスとパン、どちらにしますか?」
「え、選べるの?」
「はい。ライスは食べ慣れていない方もいると思いまして」
ローブ姿の女性は私の提案を受けて少し悩んだ結果、私のお勧めということでライスを選択した。
なので、私は器にライスを盛り付け、その上に鍋からカレーをかける。
これでカレーライスの完成だ。
「はい。完成です」
「え、それがカレーライス? 色が……独特ね?」
「使っている香辛料の関係でこうなるんですよ。味は保証いたしますので、どうぞ」
女性の周りにいる人たちも、女性のことをじっと観察している。
香ばしい香辛料の匂いと見た目とで注文するかどうかを悩んでいるのかもしれない。
まあ、食べ慣れないものって怖いよね。
「……うう、冒険者は度胸! ……ッ!?」
女性は勢いよくカレーライスをスプーンですくい、口の中へと運んだ。
その瞬間、目を見開き、そのあとは無言で食べ始める。
そうだよね、癖になるよね!
「……あら、もうないの。カレーライス、お代わりをいただける?」
「かしこまりました。辛さは大丈夫でしたか?」
「少しピリッときたけど、香辛料を使った料理ならこのくらい普通だと思うわ。それよりも、かなりふんだんに香辛料を使っているようだけど、1皿銀貨1枚でやっていけるの?」
「はい。たくさん作れば香辛料の量も抑えられるので」
「わかったわ。それではお代わりを」
「少々お待ちください」
このあとはカレーが売りきれるまで注文が相次いだ。
最初の女性は、また冒険者ギルドで宣伝してくれたらしく、今度は男性のお客様もたくさん来てくれた。
カレーライスが売り切れたあとはオーク肉のさっぱり焼きと生姜焼きに切り替わったけどこっちもよく売れた。
珍しいということも相まって売れているのかもしれない。
夜の仕込みはもう少し量を増やしてもいいかな。
これでもかなり大きな鍋いっぱいに作ったんだけどね。
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