14. 初めての野営とカレーライス

 街道を逸れて走り続け、やがて辺りが暗くなってきた。

 そろそろ野営をするとしよう。


「今日の移動はここまでかな」


「わかった。野営の準備をしてくる」


「え? 野営の準備?」


「獣除けのたき火とか必要じゃない?」


 ああ、なるほど。

 確かに普通の野営だとそれも必要かもしれない。

 でも、コンロンを使った野営ならその必要もないんだよね。


「大丈夫だよ。コンロンなら守ってくれるから」


「守ってくれる?」


「とりあえず、外に出てみようか」


 私は不思議な顔をしているリコイルちゃんを連れてコンロンを降りた。

 林のすぐそばに止まっている真っ白いコンロンはすごく目立っている。

 でも、ここからがコンロンのすごいところなんだよね。


「コンロン。不可視モードに」


『承知した』


「不可視モード? うわぁ!?」


 私たちの目の前から急にコンロンが消えた。

 それを見てリコイルちゃんは、驚きのあまり転んでしまっている。

 ちょっとやり過ぎたかな。


「コンロン、不可視モードを解いて」


『了解』


 私はコンロンに命令を出しつつ、リコイルちゃんに手を差し伸べて立ち上がらせる。

 その間にコンロンは何事もなかったかのように真っ白い車体をその場に現していた。


「すごい。これが、ミラクルカーの力」


「これともうひとつの機能のおかげで、私たちは護衛なしでも旅をしてきたんだよ」


「もうひとつの機能?」


「コンロン、シールドを」


『わかった』


 コンロンが命令を受け付けると、その車体から薄い青色の壁が浮かび上がり周囲を取り囲んだ。

 これがもうひとつの機能、『シールド』である。


「これって結界?」


「そんな感じかな。これの中にいると外からの侵入や攻撃を防げるの」


「どれくらい強い?」


「どうだろう? 私が知っている限りは破られたことがないんだけど」


「じゃあ試してみる。私の装備を持ってきたいから、一度シールドを解いて」


「わかった。コンロン」


『了解だ』


 コンロンがシールドを解くと、リコイルちゃんはコンロンの車内に行き自分の装備を持ってきた。

 そして、再びコンロンのシールドを展開してもらい、どの程度の強度があるのかを試している。

 喜々としてシールドをガンガン叩いているけど、大丈夫かな?


 結局、30分くらいリコイルちゃんにできるありとあらゆる方法でシールドを殴り続けた結果、シールドは揺らぎもしないことが判明した。

 うん、ここまで強いとは思ってもみなかったよ。


 でも、リコイルちゃんも相当強いのがわかった。

 私たちの護衛としてはあまり必要がなかったけど、普通の旅をする上での護衛なら本当にひとりでも務まりそう。


「はあ、はあ。楽しかった!」


「そ、そう。よかったね、リコイルちゃん。でも、これで私たちが安全な理由はわかってくれたかな?」


「安全な理由はわかった。それでも人からの不意打ちは危険。シールドも展開するまで時間がかかるようだし」


 ふむ、普段は車体の周りにぴったり寄り添う形で展開しているけど、言われてみるとそうかもしれない。

 ドアを開けているときは無防備だし、車外にいるときも無防備だ。

 そう考えると、護衛も必要かもしれない。


 ……いや、護衛が必要なのは私だけかもしれないな。

 グリッド君もサクラちゃんも非常に強いし、組み付かれてもそれぞれの方法で脱出できる。

 さらに、ホムンクルスだから毒物も効かない。

 私の専属護衛がいるな。

 あるいは、私も毒に対する完全耐性を得たり、防備を整えたり。


 まあ、次の街まではもう少し時間がある。

 次の街に着くまでに考えをまとめておこう。


「マスター、リコイルさーん! 夕食ができましたよー!」


 あ、コンロンの側面にある窓からサクラちゃんの元気な声が響いてきた。

 サクラちゃんに頼んでおいた夕食が完成したみたい。

 早く戻らなくちゃ。


「リコイルちゃん、とりあえず夕食にしようか」


「わかった。お腹ペコペコ」


「じゃあ、いっぱい食べてね」


「うん。今日の夕食はなに?」


「『カレーライス』って言う料理だよ」


「『カレーライス』?」


 リコイルちゃんは小首をかしげるが、実物を見てもらった方が早い。

 私はリコイルちゃんと一緒にコンロンの中へと戻った。


 すると、スパイスの香ばしい匂いが車内に立ちこめている。

 どうやら成功したみたいだね。


「なんなの、この香り。嗅いだことがない」


「なんでも複数のスパイスを混ぜ合わせて作ったスープみたいな物を、ライスっていう穀物にかけて食べる料理だって。新しい街に着いたときの看板メニューにしようかと思って」


「わかった。実際に食べてみる」


 私はグリッド君とサクラちゃんに配膳を頼み、カレーライスを持って来てもらった。

 出て来たのは白いつぶつぶに茶色い液体がかけられた食事である。

 いい匂いなんだけど、見た目はあまりよくないかな?


「いい匂い。でも、食べられるの?」


「食べられるよ。これをスプーンですくって……ん!? スパイスがピリピリする!」


「なるほど、こう。……んぅ!?」


 私もリコイルちゃんも食べ慣れない味に驚いてしまう。

 だけど、癖になる味でスプーンが止まらない。

 結局、私は2皿、リコイルちゃんは3皿も食べてしまった。

 それくらい美味しかったのだ。

 これはいい看板料理になりそう!


「美味しかった。これを目玉にするの?」


「そのつもりだよ。煮込み料理だからあらかじめたくさん煮込んでおいてお客様に渡すときはライスにかけて渡すだけだからね」


 その私の言葉を聞いて、リコイルちゃんは少し考えてこんでしまった。

 なにかまずいことを言ったかな?


「私は平気だったけど、食べ慣れない人にはこの辛さはきついかも。あと、ライスも食べると甘みがあって美味しいけど、少し独特の匂いがある。気にする人は絶対に出てくるはず」


 なるほど、お客様目線で案を出してくれたんだ。

 すっごい助かる。


 それなら、カレーは『甘口』というのもあるので、そちらも並行して出すことにする。

 あと、ライスはパンと選択式にしようと思う。

 これならリコイルちゃんも甘口の辛さ次第で納得してくれた。

 甘口カレーは明日の朝食に作るとして、どの程度の辛さなのかな。


 翌朝食べてみた甘口カレーは本当に甘い仕上がりになっていた。

 甘味と言うにはほど遠いけど、これなら子供でも安心して食べることができそう。

 次の街ではこのふたつが看板メニューだね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る