第三章 コンロン、次の街へ

13. 次の目的地は

 最終営業日の翌日の朝、約束通りリコイルちゃんがやってきた。

 ただし、いつも背中に背負っていた剣だけではなくメイスや盾、槍、あと、私は見たことがなかったんだけど魔道銃らしき物まで多種多様だ。

 なんでも、状況に合わせてこれらを使い分けるらしい。

 普段は剣一本で大体対応できるから剣しか持ち歩かないらしいね。


 リコイルちゃんと合流したら料理ギルドに行って屋台の許可証を返却する。

 それから、市場で買い物だ。

 移動する間の食料を買っておきたい。

 リコイルちゃんがいないなら食材販売機でもいいけど、リコイルちゃんがいる間はなるべく使いたくないのだ。


 リコイルちゃん的には腐らないか心配だったみたいだけど、魔道具の冷蔵庫があるからしばらくは平気だよと答えておいた。

 しばらくどころか永遠に大丈夫らしいけど。


 これで出発の準備は整った。

 あとはどちら方面に向かうかなんだけど、どうするべきか。


 シュメルクナーから繋がっている道は全部で3本ある。


 北に抜ける道を行くとワリブディスという港街に着く。

 リコイルちゃんの説明では、この街は交易港でもあるため珍しい物も多いそうだ。


 北西に進むとテリラサイだ。

 ここは林業と農耕の街らしい。

 目立った特色はない。


 西部に進むと大きな森を迂回する形でさらに道が分岐し、北に進むとクシィラバス、南に進むと私たちがシュメルクナーの前にいたマインドキナだ。

 クシィラバスは各地から作物が集まり、畜産も盛んなため、食の一大都市になっているんだとか。

 ちょっと私たちにはまだ早いかな。


 この中でリコイルちゃんがお勧めなのはワリブディスのようだ。

 クシィラバスは食文化が発展しており、私たちでもあまり目立たない可能性がある。

 テリラサイは新興の都市で、あまりお金に余裕がない。


 消去法的な意味でも貿易港でお金の回りがいいワリブディスがお勧めみたい。

 私としてもそこが無難な選択肢かな。


 ワリブディスまでは一般的な馬車だと2週間ほどかかるらしい。

 魔道車だと10日だ。

 だったらコンロンだと5日かな?


 ともかく、向かう先が決まったら街の北部にある門を抜けて街道に入る。

 街道に入るのだが、前を行く乗合馬車のスピードが遅くてこちらもスピードを上げられない。

 どうも魔道車を使っても10日かかる原因はこれにあるらしい。

 結局のところ、馬車を追い越せるタイミングが限られているために時間がかかるということだ。


 さすがにこれはちんたら街道を走ってられないね。


「みんな、シートベルトは付けてる?」


「はい、主様」


「もちろん!」


「シートベルト、ってこれ?」


 横目で見るとリコイルちゃんもしっかりとシートベルトを付けていた。

 これなら大丈夫そう!

 それ、行け!


「うわ、わ、わ」


 リコイルちゃんが驚いているけど、私たちは街道から外れてなにもない平地に出た。

 道が整備されていないため最初は揺れていたけど、そこはコンロン、道にあわせて揺れを制御してくれる。

 揺れも1分ほどで収まった。


「なんなの、この魔道車。普通、街道の外を走ったら、すぐに壊れる」


「コンロンは特別製だから平気だよ! コンロン、次の街までの地図を出して!」


『わかった』


「魔道車が喋った!?」


 あ、リコイルちゃんの前でコンロンが喋ったことってなかったっけ。

 ついうっかり。


 とりあえず、心底驚いた表情をしているリコイルちゃんに事情を説明する。

 このコンロンは遺跡の奥で見つけてきた魔導車なのだと。


「遺跡の奥に眠っていた魔導車。それってミラクルカー!」


「ミラクルカー?」


 聞き慣れない単語が出てきたので説明してもらうと、ミラクルカーというのはリコイルちゃんの一族に伝わるおとぎ話のようなものらしい。

 古代遺跡の奥深くに隠されており、自我を持ち様々な奇跡を起こせるという。

 うん、コンロンがまさにそれだ。


 興奮冷めやらぬリコイルちゃんをなんとか落ち着かせ、コンロンも似たような状況で発見したと説明した。

 ただ、ミラクルカーという物と同じかはわからないとも。


「ミラクルカーならなんらかの加護や恩寵があるはず! それはないの!?」


「あー、加護や恩寵かぁ」


 食材を食べてパワーアップとかまさにそれだなぁ。

 だけど、それをリコイルちゃんに教えてもいいものか。


「大丈夫。教えてもらっても誰にも話さない。なんなら、あなたの専属護衛として働いてもいい」


「専属護衛?」


「冒険者などを一定の商人が無期限で雇い入れること。条件は雇われる側が決めることができる。私はコンロンの美味しいご飯を毎日食べられることを条件に雇われる。どう?」


 どうと言われても……。

 とりあえず、護衛の件は保留とし先へ進むことを優先することにした。


 コンロンの地図によると道は大きく蛇行してワリブディスまで繋がっているらしい。

 蛇行している部分にも川があるとかじゃないみたいだから、一気に突っ切れば移動時間の短縮になりそう。

 専属護衛も含めてこの旅の間に決めておかなくちゃね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る