10. コンロン、夜の営業

 お昼はあの冒険者さんたちのあと、引っ切りなしにお客様がやってきた。

 おかげで用意していた食材はすべて売り切れ、ほくほくである。


 そんな形でお昼の営業は終えたが、今日は試しに夜も営業を行ってみることにした。

 どの程度お客様が入るのか試してみたかったのだ。

 そのための食材も追加で仕入れてきたからね。


 メインは昼と同じでオーク肉のさっぱり焼きと生姜焼き、それに夜営業の間はポトフというスープを売ることにした。

 材料となる腸詰めウインナーや野菜は市場で買えたし、スープのベースになるコンソメの素は食材販売機で買える。

 腸詰めがたっぷりなのでそれなりの値段になってしまうが、売れ残ったら諦めて私たちの晩ご飯にしよう。


「よお! 夜も営業してるんだな!」


「あ、昼間の」


「ああ、覚えていてくれたんだな」


「はい、初めてのお客様でしたので」


「へへっ。嬉しいねぇ」


 夜の営業を始めて最初にやってきたのは、昼も最初にやってきてくれた冒険者風の男の人だった。

 どうやら一仕事終えて帰ってきたところ、私たちが仕込みをしているのを見かけて立ち寄ってみたのだという。

 後ろには残りのふたりも一緒に来ていた。


「夜も生姜焼きは食えるのか?」


「はい、作っていますよ。あと、ポトフっていうスープも売っています」


「ポトフ? 聞いたことがないな」


「たっぷりの野菜と腸詰めを煮込んだスープです。腸詰めの数をたくさん入れているので少々お高めになってしまいましたが、味は保証します!」


「なるほど、そいつは楽しみだ。ポトフはいくらなんだ?」


「腸詰め4本が入って銀貨1枚です。2本の場合は銅貨6枚ですね」


「それなら4本入りと生姜焼き、あと、パンも付けてくれ」


「はい、ありがとうございます」


 出だしから好調な滑り出しになった!

 残りのふたりもパン付きの生姜焼きとさっぱり焼き、それにポトフを頼んでくれたので気合いを入れて作っちゃう!

 ポトフは器に盛り付けるだけなんだけど。


「はい、お待たせしました!」


「お、来たな! これがポトフか。野菜もたっぷり入っていて美味そうだな!」


「熱いのでお気を付けてお召し上がりください」


 私はにっこりと笑顔で商品を渡す。

 気持ちよく受け取ってもらうのが大事だと料理ギルドで教わってきた!

 残りのふたりの分も器に盛り付けて完了っと。


 さて、評価の方は?


「美味いな、このポトフってスープ!」


「ええ、野菜も大きめに切られているのに柔らかくほくほくしているわ!」


「腸詰めも美味い! 暖かくて疲れた体に染み渡る!」


 大好評みたいだね。

 この調子で売れないかな。


「お、嬢ちゃん、この店はなんだ?」


 あ、新しいお客さんかな?

 男の人がやってきた。


「はい。オーク肉のさっぱり焼きと生姜焼き、ポトフっていうスープを売っています」


「ふうん。この香ばしい匂いは?」


「生姜焼きの匂いですね。オーク肉にタレを絡めて焼くんです。野菜と一緒にパンに挟んで食べると最高ですよ!」


「ほう。じゃあ、それをひとつもらおうか。いくらだ?」


「パン付きですと銀貨1枚です」


「結構するが、味に期待だな。よし、ひとつ頼む」


「はい、すぐ作りますね!」


 私はテキパキと生姜焼きを1皿仕上げる。

 すると、その匂いに釣られてまた新しいお客さんがやって来た。

 なかなかに忙しい。


 ポトフの方もなかなかの売れ行きだ。

 野菜も腸詰めもたっぷり入っていて銀貨1枚なのは結構良心的だと思う。

 コンソメの素が安くなかったら赤字になるしね。


 そうこうしているうちに食材が尽きてしまった。

 ポトフが少し残っているけど、私たちの晩ご飯にすればいいかな。


「お前たち、そこでなにをしている」


 私たちがお店の片付けをしていると、衛兵の制服に身を固めた女の人に声をかけられた。

 女性にしては身長が高く、目つきも鋭い。

 一体なんの用だろう?


「夜の屋台は営業が禁止されている。商業ギルドで教えられなかったのか?」


「いえ、私たちは料理ギルドの許可を得て営業をしています。これが証明です」


 私は女の人にギルドからもらった営業証明の札を渡す。

 この札には夜も営業して構わないことが書かれている。


 女の人はそれを確認すると札を私に返してくれた。


「いや、すまない。露店の無許可営業だと勘違いしてしまった。許してほしい」


「いえ、大丈夫です。それよりもお仕事、大変そうですね」


 私がいたわると、女の人は少し表情を緩めてくれた。

 うん、好印象を持たれたね!


「まあな。夜の街は治安が乱れることも多い。昼の見回りも大変だが夜も大変だ。暗がりに逃げられては見失ってしまうからな」


「そうですよね。暗いところって怖いですよね」


「ああ、十分に気を付けろ。それよりも、それは魔道車か?」


「はい。キッチンも付いていますが魔道車です」


「ずいぶんと珍しいが……なるほど、この大きさでは商業ギルドの屋台許可は下りないか」


「はい、そうなんですよね」


 私は苦笑いを浮かべる。

 料理ギルドの会員になった理由がまさにそれだからね。

 出店の手数料なども料理ギルドの営業許可の方が高いけど、コンロンで営業するためには仕方がないのだ。


「事情はわかった。もう店じまいか?」


「はい。食材も売り切れましたので」


「わかった。帰り道は気を付けるんだぞ」


 女の人は一言残し去っていった。

 衛兵のお仕事はやっぱり大変そうだ。

 私のお仕事も大変だけどね。


 さて、後片付けを済ませてしまおうっと。

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