第二章 コンロン、営業中

9. キッチンカー『コンロン』営業開始!

 昨日はばっちり睡眠もとった。

 朝市でしっかりと食材も仕入れた。

 料理ギルドの手配で街の中心部にある噴水広場に屋台場所も確保できた。


 営業準備はバッチリである!


 とりあえず、営業初日の今日はオーク肉の生姜焼きとさっぱり焼きのみでいこうと思う。

 生姜焼きは銅貨8枚、さっぱり焼きは銅貨6枚、そのほか、パン1個が銅貨2枚だ。


 パンはあまり仕入れていない。

 この近くにパン屋さんがあるので、追加でほしくなったらそこで買ってきてもらう。

 私が売るパンもそこで買ってきたしね。


 さて、営業開始!

 だが、なかなかお客さんが来ない。

 やっぱり新しいお店って人が来ないものなのかな……。

 コンロンの中で準備している私とサクラちゃんも暇である


「お客様、来ないですね、マスター」


「そうだね。呼び込みとかした方がいいのかな?」


「呼び込み! 行ってきましょうか!?」


 サクラちゃんはやる気だけど、見た目子供なサクラちゃんをひとりで出すのも気が引ける。

 なにかいい策はないものか。


「主様、ひとつ提案があります」


「なにかな、グリッド君?」


 コンロンの外でひとり待ちぼうけを食らっていたグリッド君に、なにかアイディアがあるみたいだ。

 どんなものか早速聞いてみよう。


「生姜焼きを焼きましょう」


「え? まだ注文が入っていないよ?」


「はい。ですが、お客様はどんなメニューを置いているかわからないと注文しにくいものです。それに生姜焼きの匂いなら、物珍しさもありたくさんのお客様を引き寄せることができるでしょう」


 おお、なるほど。

 そこまでは考えていなかった。

 早速試してみよう!


 窓を開けたままフライパンに油を引いて肉を焼き、そこに生姜焼きのタレを絡めてもう少し焼いたら……できた!

 さて、これでお客様は釣れたかな?


「ん? こんなところに店なんかあったか?」


 お、冒険者風の男の人が現れた!

 最初のお客様になってもらえるかな?


「いらっしゃいませ。今日から始めたんですよ」


「ふうん。……それにしても、うまそうな匂いをただよわせているな。なにを売っているんだ?」


「オーク肉のさっぱり焼きと生姜焼きです。この匂いは生姜焼きの匂いですね」


「なるほど……その生姜焼きってのはいくらだ?」


「1皿銅貨8枚です。あと、付け合わせにパンもおつけする場合は銅貨2枚プラスになります」


 私が値段を告げると少し考え込んでしまった。

 やっぱり高いだろうか?


「なるほど、少し高めな料理なわけだ。まあ、話の種に食ってみるかな。生姜焼きを1皿くれ。パンはいらん」


「ありがとうございます! これからお焼きしますね!」


「ん? できてるのがそこにあるだろう」


「やっぱり焼きたてを食べていただきたいので」


「その考え方は感心するが、屋台の料理なんてできあわせを売るのが基本だぞ。スピード勝負だからな。とりあえず、できている皿でいいからくれ」


「わかりました。では、パンもサービスします」


「ありがとよ。……ん」


 冒険者風の男の人は一口食べると黙り込んでしまった。

 あまり美味しくなかっただろうか?

 だけど、男の人はそのまま無言でむしゃむしゃと食べきってしまう。

 これは好印象か?


「……この、付け合わせの野菜とパンはどうやって食べる?」


「キャベツは肉を食べたあと口の中をさっぱりさせたいときに食べてください。パンは切れ目を入れてキャベツと肉を挟んで食べるんです。タレと油がパンに染みこんで美味しいですよ」


「なんで、そんな大事なことを先に言わないんだ! もう肉を全部食べちまったじゃないか!」


「あー、今回だけ、お肉だけを銅貨6枚で付け足しますが、どうでしょう?」


「よし、焼いてくれ!」


「はい、少しお待ちを」


 生姜焼きを作るのにそこまで手間はかからない。

 肉はあらかじめ切っておくことができるし、焼く時間も結構短い。

 あっという間に生姜焼きの完成だ。


 完成したお肉を男の人のお皿に移すと、男の人はすぐさま肉を口の中に放り込みキャベツも口に入れた。

 すると、目を見開き今度はパンにキャベツと肉を挟んでかぶりつく。

 それを繰り返してあっさり2皿目も完食してしまった。


「ありがとう。すげぇ美味かった」


「いえ、こちらこそ。美味しそうに食べていただきありがとうございます」


「この店、酒はないのか?」


「申し訳ありません。お酒は許可をいただいていないので売っていません」


「くそぉ、それさえあれば完璧なのに……」


 私はお酒を飲まないから知らなかったけど、生姜焼きってお酒にも合うんだ。

 でも、グリッド君とサクラちゃんがいるからお酒は今後も販売なしかな。


「なんだ、ここに居たのか。探したぞ」


「あ、すまねぇ」


 どうやら、冒険者風の男の人のお仲間がやってきたようだ。

 男の人と女の人がひとりずつだ。

 というか、待ち合わせをしていたのにこんなのんびり食べていたんだ。

 いいのかな、それ。


「どうしたんだ、お前が屋台の食事だなんて」


「ああ、今日から始めたっていう屋台を見つけたから、ものの試しと思って食ってみたんだがよ、めちゃくちゃ美味かった」


「お前がそこまでいうほどかよ。……そういえば、すごくいい匂いがするな」


「本当。ねえ、なにを売っているの?」


「はい。オーク肉のさっぱり焼きと生姜焼きですよ」


 私の答えを聞いた女の人が首をかしげる。

 まあ、聞いたことのない料理名だったからだろう。

 私だって生姜焼きはコンロンに出会ってから初めて知った。


「生姜焼きもわからないけど、オーク肉をさっぱり食べることなんてできるの?」


「意外といけますよ。食べてみますか?」


「いいわね。こいつを探していて私たちもお昼を食べていないからちょうだい。おいくら?」


「さっぱり焼きは1皿銅貨6枚です。それにパンをつけると銅貨2枚プラスです」


「じゃあ、さっぱり焼きにパンをつけて。あなたは食べないの?」


 女の人があとからやってきた男の人に声をかける。

 あとからやってきた男の人は、先に来ていた男の人を説教するのに夢中でこちらの様子に気付いていなかったようだ。


「ああ、俺か。この匂いは生姜焼きってやつのか?」


「はい。生姜焼きは1皿銅貨8枚です」


「じゃあ、俺は生姜焼きっていうのを。パンもつけて」


「毎度です。すぐに焼いちゃいますね」


 私はすぐにフライパンで2皿を焼いてしまう。

 ちなみに、生姜焼きとさっぱり焼きは別のフライパンで焼いている。

 生姜焼きのタレがどうしてもフライパンに残っちゃうからね。

 フライパンの数には余裕があったので別のものを使うことにしたのだ。


 ふたりにそれぞれさっぱり焼きと生姜焼きを渡した結果は非常に好評だった。

 先に来ていた男の人が食べ方を教えていたので私たちが説明する必要もなし。

 男の人はもう1皿追加で食べていったし上々かな。


 このあともじゃんじゃんお客様が来てくれると嬉しいんだけど。

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