8. 街を移って料理ギルドへ行こう
さて、お金を手に入れた私が次に向かうところは料理ギルドである。
コンロンで露店を開こうと思ったんだけど、コンロンのサイズになると商業ギルドの管轄では料理の露店を出せないらしい。
代わりにこのサイズの露店は料理ギルドの管轄みたいなので、そちらに行くことにした。
もっとも、この街は空気が悪いから別の街に移動してからだけどね。
夕方の閉門前にマインドキナを出発し、とりあえず距離を稼ぐ。
ある程度走って安全が確認できたら、ようやく路肩に寄せ、木陰にコンロンを隠すように停車した。
あー緊張した。
『心配はいらない。あの街から我々を追いかけて来た連中はいない』
「そっかー、よかった。それで、これからどうするの?」
『ここから森を突っ切るように数日進むと港街に出る。そこは比較的穏やかで暮らしやすそうだ』
「じゃあ、明日からはそこに向かうことで決まり! 今日はもう寝る……」
『寝る前にシャワーを浴びるのだぞ』
私はシャワーを浴びて眠り、翌朝から森の奥に進むルートを取ることになった。
コンロンの地図では、この先の街まで道が繋がっているみたい。
こんな詳細な地図まで作れるなんて、コンロンてばすごい!
コンロンの地図通りに進むことで、目的地である港町『シュメルクナー』に到着した。
ここは貿易港ではなく漁港なので鮮魚もたくさん売っているらしい。
まずは料理ギルドだけどね。
料理ギルドは街の中心部から少し外れたところではあるが、中央通りに面した場所にある。
ギルドの活動内容としては、その名の通り料理に関する技術の育成と継承を目的とし、街の料理店にギルドの許可証を出す権限も有しているのだ。
今回私たちが求めているのは、この許可証の短期版。
比較的楽な審査で数日分の許可を取れると聞いてきたけどどうなんだろう?
まずは受付の人に話を聞くか。
「すみません。少しいいですか?」
「ようこそ、料理ギルドへ。どのようなご用件でしょう?」
「料理店の短期経営許可証がほしいんですけど、どうすればいいんでしょうか?」
「短期経営許可証を貸し出すには、まず料理ギルドの会員になっていただきます。その上で申請があれば貸し出すことが可能となります」
うーん、料理ギルドにも所属しなくちゃいけないのか。
短期経営許可証はこの先何度も借りることになりそうだし、所属するとするか。
「料理ギルドの会員になるにはどうすればいいんですか?」
「一年間の研修を受けていただくか、審査を受けギルド審査員5人のうち4人の合格をもらうかになります。どちらになさいますか?」
一年か……ちょっとつらいなぁ。
ここはギルド審査員の審査を受けるとしよう。
「わかりました。審査を受けます」
「まあ。大抵の方は研修を選ぶのですが……」
「ちょっと旅の途中でして……試験日はいつになりますか?」
「少々お待ちください……明後日のお昼過ぎからとなります。申し込み費用は大銀貨5枚、よろしいですか?」
大銀貨5枚はちょっと高いな……。
でも、許可証のためがんばるしかない!
受付で審査費用を払い、当日の持ち物とルールを確認する。
料理道具などは用意するが持ち込みも許可する。
食材は料理ギルドが用意した物だけを使う。
料理の制限時間は1時間。
よし、覚えた!
あとは当日を待つだけだね。
試験日までは宿に……泊まらず、魔道車の駐車場で車中泊をする。
大型魔道車には宿泊機能が備わっている物もあるため、宿を利用しない客のための専用駐車場が用意されていたのだ。
これなら当日までゆっくり過ごせるね。
そして審査当日の昼ちょっと前、私は包丁やナイフなどの料理道具を持ち、料理ギルドへやってきた。
アシスタントは居てもいいということなので、サクラちゃんにお願いする。
私たちはいったん待合室に通され、試験開始時間を待つことになった。
うーん、不安だ。
「マスター、大丈夫?」
「え、あ、うん。ちょっと緊張してるだけ」
「マスターのご飯、美味しいよ。もっと自信を持って、ね?」
「ありがとう、サクラちゃん」
やがて時間になり試験会場へと通された。
そこは一面ピカピカに磨かれたキッチンだった。
そして、キッチンの向こう側には5人の人が座っている。
若めの人からお年寄りまで、男女あわせて5人だ。
これは味の好みが分かれそう。
「ミリア様、準備はよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それでは審査を開始します。制限時間は1時間、始め!」
まずは食材を確認しなくちゃ。
冷蔵庫に入っているのは……肉、野菜、果物と一通り揃っている。
肉は……オーク肉かな?
それから野鳥の肉らしき物もある。
野菜と果物はいろいろな物が詰められていて迷いそう。
さて、この食材からなにを作るべきか。
タレを持ち込めたらオーク肉の生姜焼きを作れたんだけど、あれって老人には脂がくどいかな。
そう考えると、もっとさっぱりした物がいいけど、若い人もいるということはがっつりした物も食べたいよね。
むーん、困ったな。
野鳥の肉の串焼きじゃ地味だし審査に通りそうにない。
そう考えると、オーク肉を使った料理なんだけど……って、あれ?
オーク肉でも脂身って外側に偏っているんだ。
じゃあ、これを取り除いて……。
付け合わせは……あった!
あと、この果物もあるのか!
試食してみてからだけどいけそう!
私は冷蔵庫から食材を取り出し、野菜と果物をサクラちゃんにお願いしてカットしてもらう。
私の方はオーク肉から脂身をそぎ落として赤身肉になった物を薄切りにし、フライパンを熱して脂身から油をしみ出させてその油で小麦粉をつけた赤身肉を焼く。
両面きつね色に焼けたら火から下ろし、サクラちゃんに切ってもらっていた果物の果汁を搾りかけて一口試食してみた。
うん、さっぱりしていてこれならお年寄りでもいけそう!
確信を持った私は残りの肉も焼き、野菜……キャベツと付け合わせの果物……レモンを一緒に器に盛り付け、それから小さめのパンもおまけにつける。
これで完成!
「はい! できました!」
「あの、食材選びの時間を除き、調理開始から3分も経っていませんが大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 私のお店は屋台スタイルでやっていきますので!」
「そ、そうですか。それでは、審査員の皆様に料理の配膳をお願いいたします」
「はい!」
私はできあがった料理を5人の審査員の前に並べる。
全員、お皿のシンプルさに驚いているね。
だって、屋台で凝った料理は出せないじゃない!
「お嬢ちゃん、この料理の料理名はなんだい?」
「料理名ですか? あまり考えていませんでした。『オーク肉のさっぱり焼き』とかどうでしょう」
「屋台スタイルならではのわかりやすさじゃな。じゃが、儂のような老人にはオーク肉はくどいぞ」
「そうだろうと思ってレモンを添えました。その果汁を搾ってかけてからお召し上がりください」
「レモン果汁を? こうか? ……む、さっぱりしていてうまいぞ!」
よし、第一関門クリア!
お爺さんの言葉をきっかけに、ほかの審査員たちも次々と手をつけ始める。
まずはレモン汁をかけずに食べる者、肉を食べたあとキャベツを食べ口の中がさらにさっぱりすることに驚く者、レモン汁をかけ過ぎて酸っぱくなってしまう者など多様だ。
あ、パンに誰も手をつけていない。
どうしよう?
「……ん? このパンはどうすればよかったんだ?」
「本当なら、そのパンにキャベツとお肉を挟んで食べてもらうつもりだったんですが……」
「肉がなくなってしまったな。追加で焼いてもらえるか?」
「はい、すぐに!」
薄切り肉だから焼くのはすぐだ。
焼き上がった肉を全員に配り、食べ方を説明する。
パンの切れ込みにそってキャベツと肉を挟んでそのまま食べる、豪快だけどそれが美味しいのだ。
実際に試してもらったところ、余計な油がキャベツとパンに吸われて美味しく食べられると評判がよかった。
あとは審査結果の発表である。
「審査員の皆様。ミリア様に料理ギルドの会員資格を与えてもよいという方は挙手をお願いいたします」
その言葉に反応し、全員の手が挙がる。
やった、料理ギルドの会員資格が手に入った!
感想としては、レモン汁をかけるアイディアはよかったがかけ忘れる人がいる可能性も考慮すべきだとか、もう少しがっつり目の味付けもほしいとか改善点や要望が上げられた。
お店が認められれば出すつもりだった生姜焼きの話をすると、ぜひ食べてみたいということだったので、急遽コンロンから生姜焼きのタレを持ってきて振る舞うこととなってしまう。
もちろんというべきか、これも大絶賛だった。
お爺ちゃんも大喜びで食べていたからね。
こうして料理ギルドの会員となった私は早速、明日から5日間の短期経営許可証を貸し出してもらい商売を始めることにした。
目指せ、街一番の食事露店!
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