7. ヴァラスダラス大銀貨の買い取り額は

 ガリーンのせいで中断していたヴァラスダラス大銀貨の買い取り交渉だが、イウバさんに代わってからはサクサク話が進んだ。

 この銀貨自体がヴァラスダラス大銀貨であることはすでに証明済み。

 あとは銀貨に余計な細工や傷がないかをイウバさんがチェックしていくだけだ。


 そして提示された鑑定額だが……金貨500枚だった。


「え? こんなに?」


「不満かしら? もう少しなら足せるわよ?」


「え、まだ出るんですか?」


「600枚でどうかしら?」


「じゃあ、それで……」


「はい、決定ね」


 銀貨1枚が金貨600枚に化けた。

 ヴァラスダラス大銀貨ってそんなに貴重品だったのか。


 詳しく話を聞くと、私の持って来たヴァラスダラス大銀貨は恐ろしく保存状態のよいものだったらしい。

 傷も余計な細工も一切なしの純正品で間違いないとか。

 まあ、コンロンの金庫に眠っていたものだし当然かな。


 それで通常査定価格が金貨500枚、私が少し渋った……というか迷ったので100枚上乗せしてくれた形である。

 金貨500枚というのもすごいなぁ。


「ほかの裕福な商家に持ち込めば金貨1000枚も夢ではないわよ? もちろん、金貨が純正品であるかを見分ける目も必要になるけど」


「あ、偽通貨って出回っているんですね」


「金貨だけはね。もっとも、罰の重さから考えると、割に合わないんだけどね」


 イウバさんはあきれ顔で言うが、それでもやろうとする人がいるというのはなんとも罪深いものだ。

 人の強欲さの表れだね。

 私もそうならないように気を付けなくちゃ。


「それで、支払いですがどうなさいますか? 当ギルドとしては、現金で渡すよりも商業ギルドの会員カードを作っていただきたいのですが……」


 ギルドマスターが私とイウバさんの話が切れたところで話を差し込んできた。

 金貨600枚という大金が動く取引ということもあってか、ものすごく下手に出ている。

 でも、私はどうするべきだろう?


「イウバさん、どうする方がいいですかね?」


「そうね、商業ギルドの従業員だからというわけでもないけど、会員になっておいた方がいいわよ。そうすれば商業ギルドネットワークに繋がっているどこの商業ギルドでもお金を下ろせるし、大金を持ち歩く必要もないわ。会員カードを持っている人同士ならカードを使った支払いもできるようになるし、国を渡っても両替手数料がかからない。私としては断然お勧めね」


 なるほど、そこまで利点があるのか。

 それなら作っておいてもいいだろう。


 なにより、大金を持ち歩かなくても済むというのはメリットが大きい。

 小銭は持ち歩くべきだろうけど、大金はコンロンの食材販売機に使う以外はあまり持ち歩きたくない。

 よし、会員カードを作ってもらおう。


「会員カードをお願いします。ルールみたいなものはありますか?」


「そうね。カードを作るのにも少し時間がかかるから私が説明してあげるわ」


「え? イウバさんって特級鑑定師ですよね? 忙しいんじゃ……」


「よほどのことがない限り待機だから暇なのよ。それじゃあ、説明するわね」


 暇だというところで溜息をこぼしたイウバさんにより、商業ギルドの会員カードの説明が始まった。


 まず、この会員カードは登録した者しか使えない。

 他人のカードを拾って悪用しようとしても防ぐことができるらしい。

 ただし、カードを紛失して再発行してもらう場合は最大銀貨5枚の手数料が発生するため注意するように言われた。


 次に、カード同士の金銭受け渡しについて。

 これを行うには専用の魔道具が必要になるらしい。

 その魔道具を使って金銭の受け渡しをするのだ。

 私はすぐ使うことはないかな?


 3番目は金銭の登録方法について。

 カードは専用の読み取り機で残高を調べることができる。

 カードからの引き落とし履歴はすべて残るので、不正使用されればすぐにわかるらしい。

 読み取り機は商業ギルドに設置されているため、こまめにチェックした方がいいだろう。


 最後にカードの有効期限について。

 会員カードの有効期限は最後の使用から20年となっている。

 20年過ぎても読み込みも取引も行われていないカードは一時取り扱い中止となり、取り扱い再開をするためには商業ギルドでの手続きが必要だ。

 それもしないでいるとカードの利用権限が消されてお金が没収されるらしい。

 そうなる前に利用をするようにってことだね。


「あとは、利用者死亡時の引き継ぎ人指定かしら」


「引き継ぎ人指定?」


「そう。これを設定していないと、利用者本人が死んだあとお金が子供であっても引き出せなくなるの。商店を経営している人なら商店名義のカードを使っているから、そんなことは滅多に起こらないんだけど、ミリアさんは個人用のカードですからね」


 なるほど、そんな設定もあるのか。

 でも、引き継ぎ人を指名するには対象者を連れてくる必要があるらしい。

 となると、私の親とかはだめだから、グリッド君とサクラちゃんにお願いするしかないか。


 私はイウバさんに断ってその場を立ち、コンロンからグリッド君とサクラちゃんを連れてくる。

 私の個人用カードも準備が終わっていたようで、すぐに私の利用者手続きとグリッド君とサクラちゃんの引き継ぎ人登録を行い無事完了した。

 これで、私のカードができたらしい。


 あと、私たちの商人ギルドの会員登録も同時に行った。

 私たちの階級は金の商人となる。

 普通、何十年もかけて到達するような場所だけど、イウバさんの全面バックアップでここに落ち着いた。

 こんな高い身分が必要になることってあるんだろうか?


「さて、今日はどうされますか?」


「どうって……?」


「お金、下ろして行かれますか?」


 ああ、そうだった!

 このままだとお金を使えないんだった!


 私はイウバさんに頼み金貨10枚と金貨1枚分を小銭に分けた物を受け取った。

 本当は両替手数料が発生するらしいけど、今回はガリーンの件で迷惑をかけたためお詫びとして無料にしてもらえたようだ。


 とりあえず、しばらくの資金はこれで大丈夫かな。

 それにしてもヴァラスダラス大銀貨がこんな高値で売れるとは。

 あまりヴァラスダラス大銀貨やヴァラスダラス金貨を手放さないようにしよう。


 こうして、無事にお金を受け取りコンロンへと戻ってきた。

 戻ってきたらなにを試すかというと、この国のお金がコンロンの食材販売機でどれくらいの数値、いや、ポイントでいいか。

 ともかく、ポイントになるか調べたいのだ。

 ヴァラスダラス大銀貨は10万ポイントだったから金貨は1万ポイントくらいほしいなぁ。

 それでも高望みなんだけど。


「えい! ……うわぁ!?」


 金貨はなんと100万ポイントだった。

 ヴァラスダラス大銀貨をそのまま入れるよりも10倍高い。

 これ、私の所持金が金貨600枚だから、全部つぎ込めると仮定すると……6億ポイント!?

 ちょっと考えつかないかな。


 ちなみに、その他の貨幣のポイントを調べたところ、大銀貨1万ポイント、銀貨1000ポイント、銅貨100ポイントだった。

 この国でも銅貨10枚で銀貨1枚の計算だから計算は大体あう。

 金貨だけがやたらとポイントが高いらしい。

 大切に使わなくちゃね!

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