6. マインドキナの商業ギルド
商業ギルドの中は大勢の人で賑わっていた。
これ、全員が商人なんだろうか?
買い取り申請をするには……この券を持って待っていればいいのか。
番号順の呼び出しみたいだけど、あまり待っていないみたいだからすぐだね。
ちなみに、グリッド君とサクラちゃんはコンロンで留守番をしてもらっている。
コンロンが盗まれることはないと思うけど、念のためね。
「136番の方、どうぞ」
「あ、はーい」
本当にすぐ私の順番が来た。
私は買い取りカウンターへと向かう。
「ようこそ、お嬢さん。買い取ってもらいたい物を出してもらえるかな?」
「はい。これです」
私は担当者の前にヴァラスダラス大銀貨を置いた。
最初はこれがなんなのかわからなかったようだけど、ヴァラスダラス大銀貨に描かれていた模様をみて慌て出す。
うーん、やっぱりレアな銀貨なんだ。
この場では鑑定不可能と言われて別の待合室まで通された。
そこで出されたお茶を飲みながら待っていると、ドアがノックされ、ふたりの男性が入ってくる。
ふたりともスーツを着た、いかにも真面目そうな人だ。
「初めまして。私はマインドキナ商業ギルドのギルドマスターをしているナエザックという者だ。隣は鑑定師のガリーン」
「よろしく、お嬢さん」
「よろしくお願いいたします」
ナエザックっていうギルドマスターはなんだか誠実そうだけど、ガリーンっていう鑑定師は私を見下した目で見ている。
仕事だから嫌々来てやっているってオーラを出しまくりだね。
嫌な感じ。
「それで、今日はヴァラスダラス大銀貨を持ってきてくれたようだが、由来は?」
「はい。元はシラカバ連邦の遺跡に潜っていたんですが、テレポータートラップに引っかかって別の遺跡に飛ばされたみたいなんです。そこがポーラスト平原の奥にあるポーラスト市街の一部だったみたいでこれを見つけました」
「なるほど。……ポーラスト平原にヴァラスダラス時代の遺跡が眠っているというのは本当だったのか。その遺跡の地図は?」
「脱出に必死だったので持っていません。お金は手に入れましたが食料は手に入らなかったので。あと、出てきたあと、周囲を調べても出てきたはずの場所が見つかりませんでした。なんらかの方法で偽装されていると思います」
「ふむ。我々もポーラスト平原には何度も調査団を送っているがなにも発見できていない。それが偽装によるもの、それもヴァラスダラス時代に作られた技術によるものだとしたら見抜くのは不可能か。参考になったよ」
うあ、やっぱり私、試されていたのか。
コンロンが事前にこういう経緯で入手したことにしておけと教えてくれていたからそうしたけど、経緯がはっきりしないとその時点でも疑われるものね。
覚えておこう。
さて、あとは鑑定だけなんだけど、鑑定師の人やる気があるのかな?
ちょっとつまんで眺めて……あれ、一瞬眉を動かした?
そのあと、あからさまな溜息をつき、銀貨をテーブルに戻した。
「ギルドマスター、これは本物のヴァラスダラス大銀貨ではありません。巧妙に作られた偽物です」
「なっ!?」
「やはりそうか」
ギルドマスターも信じていなかったの!?
「ミリアと言ったか。ヴァラスダラス大銀貨は年に1枚歪んだ形で見つかればいいものなんだよ。こんなきれいな形のものが発見されたとなれば大騒ぎだ。さすがにこれはあり得ないだろう」
「そういうことだ。まあ、金に困っているのでしょう。私が特別に銀貨1枚で買い取ってもよろしいのですが?」
こいつ、これが本物のヴァラスダラス銀貨だってことに気付いているな。
それを知っていて偽物だと判断したみたい。
こんなやつに渡すもんか!
「いえ、結構です。私も鑑定スキル持ち、これが本物だと判断したから持ち込んだだけのこと。偽物と判断されるのでしたらこれで失礼します」
私はテーブルの上にあったヴァラスダラス大銀貨をひったくり、部屋を出ようとする。
でも、それを慌てて引き留めたのはギルドマスターだった。
「ま、待ちたまえ! 鑑定スキル持ちと言うが、君の鑑定スキルはどれほどの階級なんだ!?」
「私ですか? 特級ですが、なにか」
特級鑑定師なんて国中を探しても見つかるかどうか怪しいんだよね。
他人を鑑定できる鑑定士は特級鑑定師だけだしさ。
あのガリーンとかいう男なんて、鑑定師といっても初級じゃない。
「ま、待ってくれ! 今度はこのギルドで一番の鑑定師を連れてくる! それまで待っていてくれないか!?」
「ギルドマスター!? 私の鑑定結果が信じられないと!?」
「相手が本当に特級鑑定師だったらこんな見え透いた嘘をつくわけがないだろう!」
内輪もめはよそでやってほしいな。
とりあえず、その一番の鑑定師が来るまで待たせてもらうことにした。
10分ほどしてやってきたのは、高そうなスーツを着こなした女性だ。
年齢は……40代ほどだろうか?
私のことを値踏みするような目で見たけど、どうかしたのかな?
「ミリアさんね。私はイウバ。特級鑑定師よ。まさか生きている間にほかの特級鑑定師と会えると思わなかったわ」
なっ!?
じゃあ、さっきのは、私を《鑑定》してたってこと!?
あんな一瞬で!?
「ああ、心を落ち着けて。相手が動揺しているときほど私たちの鑑定は相手を見抜きやすいの。特級鑑定師同士で鑑定を防ぐには、心を落ち着けて鑑定をはじくことが基本ね」
そ、そうなのか。
全然知らなかった。
「それで、ナエザックの坊や。ヴァラスダラス大銀貨を鑑定するために私を呼んだの?」
「ええ、その、彼女が本物だと言い張るもので……」
「……この街の鑑定師にはヴァラスダラス大銀貨の鑑定方法は教えてあるはずよ?」
「しかし、歪みもまったくないきれいな代物でして……」
ギルドマスターもイウバさんにはかなわないみたいだ。
どんどん詰め寄られてタジタジになってる。
「くだらないわね。お嬢さん、ヴァラスダラス大銀貨を貸してくださる」
「あ、はい」
私はイウバさんに言われるままヴァラスダラス大銀貨を手渡した。
すると、ヴァラスダラス大銀貨が光を放ち始め、周囲が銀色の輝きに満たされる。
なんなの、これ?
「……とまあ、このように本物のヴァラスダラス大銀貨は、特定の波長の魔力を流し込むと光り輝くの。そこのガリーンにもそれは教えてあったんだけど、それは試さなかったの?」
「それは……試してみましたが、なにも起こりませんでしたよ!?」
「そう。じゃあ、あなたはこのギルドの鑑定師失格ね。いますぐギルドを去りなさい」
「なっ!?」
イウバさん、鋭いなぁ。
ガリーンも言い負かしているよ。
イウバさんは冷静な顔をしているのに、ガリーンは顔が真っ赤だね。
「この鑑定方法はギルドに入ってすぐ初歩の初歩として教えるものよ。それができないならこのギルドには不要。いますぐ出ていきなさい」
「そんなこと……少し調子が悪かっただけで」
「それとも、この銀貨を偽物だと偽って引き取り別の場所で転売しようとしていたのかしら?」
「んなっ!?」
ああ、そういえば、この男、『銀貨1枚で買い取る』みたいなことを言っていたっけ。
それをイウバさんに伝えると「やっぱり」とこぼし、改めてガリーンに向き直った。
「ガリーン、あなたのところに持ち込まれたヴァラスダラス大銀貨だけど、再鑑定依頼が私のところに名指しで何件も入っていたのよ。どれもが本物のヴァラスダラス大銀貨で、依頼人からはあなたが銀貨1枚で買い取ろうとしていたと証言も上がっていたわ。今回はギルドマスターの前で公然と放った虚偽申請、言い逃れはできないわよ?」
「くっそがぁ!?」
ガリーンがイウバさんに飛びかかろうとしたけど、ガリーンの足元から影が伸びてきてガリーンをつかみ、縛り上げて床に転がしてしまった。
これって闇魔法かな。
「初級鑑定しかできないあなたの浅知恵だったのでしょうけど、やり方が悪すぎたわね。ギルドの牢獄でじっくりと余罪について聞かせてもらうわ」
鮮やかなお手並みだったなぁ。
それで、私のヴァラスダラス大銀貨はいくらで買い取ってもらえるんだろう?
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