2. キッチンカー『コンロン』と双子のホムンクルス

 おかしいな、話すとしたらこの魔道車しかない。

 それに私の名前を知っているのはどうしてだろう。


『いい加減、返事をしてもらえるか。我がマスター、ミリア』


 はっ!?

 そうだった。

 私、『マスター』呼びされているんだった。

 理由を聞かないと。


「ねえ……『コンロン』でいいのかな?」


『そうだ。自己紹介がまだだったな。我はキッチンカー『コンロン』よろしく頼む』


「えっと、キッチンカー?」


 話をすればするほどわからない単語が出てきて困惑してしまう。

 いまはとにかく少しでも情報を引き出さないと。


『『キッチンカー』というのは、車内に調理スペースを持ち料理を提供できる車のことだ。我が選ばれたのは、アンケートでマスターが『料理が好き』と答えたためである』


 ああ、そういえばそんな回答をした覚えがある。

 ……って、それで、こんなすごい魔道車をくれるの!?


「ええと、コンロン。私があなたのマスターってことは、あなたは私の所有物ってことになるの?」


『厳密には違うがほとんど似たようなものだ。正確には、マスターは我に力を供給する代わりに我がマスターを守護する、そういう習わしとなっている』


 力の供給……。

 私、そんな特別な力はないんだけど。


 と、考えていたら、コンロンから説明が入った。

 魔力を渡せばいいらしい。


 私、自分を鑑定して知ったんだけど、魔力だけは莫大な量があるんだよね。

 魔法が使えないから宝の持ち腐れだったんだけど。


『それを我に供給してくれれば我もまたマスターの力になれるだろう。あとは……金だな』


「お金?」


『我は『キッチンカー』だ。料理にはどうしても『食材』が必要になる。金さえあれば我がどのようなものでも供給できるが、金がなければそれも難しい』


 お金か……。

 持ち物は途中で出会ったモンスターに投げ付けてきたけど、お金の入った巾着袋はしっかりと持ったままだったんだよね。

 このお金でどれくらいのものが買えるか、ちょっと確かめてみないといけないな。


『それでは、我の機能説明は大体終わった。次に、あの双子を目覚めさせてきてもらいたい』


「双子?」


『これから旅をする上でのアシスタント役だ。双子のホムンクルスでこの先の旅、なにかと力になってくれるだろう』


「はあ」


『彼らのいる場所はあの先だ。行ってみてくれ』


 コンロンが話し終わると、壁の一部が開き通路ができた。

 あそこに行けっていうことなんだろう。

 いまさら罠ではないだろうし、進んでみることにした。


 通路を少し進むと下り階段になっており、そこを降りたところを少し進むと小部屋が出てきた。

 その小部屋にあった棺のように横たわっている石柱には、男の子と女の子が閉じ込められている。

 開けるための蓋はないし、ふたりとも安らかに眠っているので、無理矢理起こすこともないだろう。


 それよりもそのさらに先にある一本の石碑だ。

 そこにはまた不思議な文字で『ふたりの名前を定めよ』と書かれていた。


 これってこのふたりの名前を定めればいいってことかな?

 よしそれなら考えがある。

 コンロンに言われたときから考えていた名前だ。


「男の子の方が『グリッド』、女の子の方が『サクラ』で!」


『識別名『グリッド』『サクラ』、登録完了。初期設定完了、起動します』


 石碑がそう言葉を発すると、私の背後でプシューとなにか空気が漏れる音がした。

 振り返ると、横たわっていた棺のような石柱が開いており、中から男の子と女の子がゆっくりと立ち上がり始めている。

 これってどうすればいいんだろう?


 私が身構えていると、立ち上がった少女が私めがけてタックルを仕掛けてきた!

 早い! そして、痛い!


「わーい、お姉ちゃん。初めましてー」


 私が女の子に押し倒されてもがいていると、男の子がやってきて女の子を引き剥がした。

 全裸なのでよく見えたが、股間にはなにもない。

 見た目だけ男の子ということだろう。


「初めましてじゃないだろう。『サクラ』。それに、お姉ちゃんじゃなくて主様だ」


「はーい。じゃあ、改めまして、マスター。『サクラ』でーす」


「はあ、まったく。改めまして、主様。『グリッド』と申します。今後ともよろしくお願いいたします」


「こちらこそご丁寧にどうも。ミリアです」


 この子たちが『グリッド』に『サクラ』か。

 つまり、私のアシスタント役ってことだよね。


 グリッドは私よりも少し背が低く、ショートカットにした青髪と青い瞳が特徴的な男の子だ。

 サクラの方は、私よりも頭ひとつ分背が低く、桃色のロングヘアーを束ね、緑色の瞳をしている。

 肌はふたりともおどろくほど白い。

 これもホムンクルスの特徴だろうか。


「まず、僕の方から僕たちの役割について話します。僕たちの役割は『主人と魔導車』の保護となります。僕もサクラもこう見えてかなり強いので戦闘はお任せを」


「お任せあれ!」


 サクラちゃんは元気だなぁ。


 そのあともいくつか説明事項はあったけど、要するに『ひとりの人間として扱え』ということだった。

 そんなこと言われなくてもするんだけど。


「それでは魔導車の元に戻りましょう。あちらも準備ができているはずです」


「準備? とりあえず、わかった」


 私たちは3人で来た道を戻っていく。

 すると、キッチンカーのコンロンが様変わりしていた。

 運転席のスペースはそのままに、後部のスペースが大きくなっていたのだ。

 これはどうしたのかな?


『戻ったか。それでは我の機能の説明をする。後部ドアから我の中に乗り込んでくれ』


「あ、うん」


 私たちは言われたとおり、後ろにあるドアからコンロンの中に入る。

 先ほどは開かなかったドアもすんなりと開いた。


 コンロンの中を見ると、ふたつのスペースに分かれて行っているのがわかる。

 ひとつは右手側の階段を上って車両上部へ行くスペース。

 もうひとつは左手側の少し低い部分に行くスペースだ。

 どちらに行けばいいのかな?


『右手側はベッドなどがある寝室兼休憩スペースだ。左手側に進んでくれ』


「あ、はい」


 言われたとおり左手側に進むと、車の側面に取り付けられた大きなガラス戸とその横にあるスペースへとたどり着く。

 よく見るとそこにはプレート上の鉄がひとつと、なにか穴の上に足が付いたものが3つ並べられている。

 あと、足元には白い箱のようなものもある。

 これはなんだろうか。


『そこは調理スペースだ。穴の開いた部分からは火が出て煮炊きができる。試しにやってみろ。やり方は、穴が開いている部分をまっすぐ進み、通路側まで行ったところにあるボタンを押すだけだ』


「ボタンを押すだけ。これかな?」


 私がボタンを押すと、穴の中から火が噴き出した。

 噴き出したとは言ってもそこまで大きなものではなく、穴の周りの足程度の高さだ。

 これで煮炊きができるのか。

 いちいち火起こしをしなくて済むのは便利そう!


『消したいときはもう一度ボタンを押せ。火の強弱はボタンの隣にあるプレートに触れながらイメージすればいい』


 試しに火を強くしろと念じると、もう少しだけ火が強くなった。

 どうやら火の強さはこれが限界らしい。

 弱くするのはかなり弱いところまでできる。

 鍋を焦がさない程度に保温することもできそうだ。


 あと、ボタンを押したら本当に火が消えた。

 どんな仕組みかはわからないが、便利である。


『鉄板の方はプレート部分をさわりながら熱くなるようにイメージすれば熱くなる。具体的な熱さは慣れてもらうしかないな』


 なるほど。

 とりあえず、熱くしても怪我の元だろうしいまはやめておこう。

 あとは、足元の白い箱だね。


『足元の白い箱は貯蔵庫だ。容量無制限のアイテムボックスになっているが食材しか入らない。入れておけば中のものは冷やされるし、凍らせる必要があるものは勝手に凍る。貯蔵庫の中に食材を買う方法は、このあと説明しよう』


 食材関係だけでも容量無制限のアイテムボックス!

 しかも、冷蔵機能付きっていうことは食材が長持ちする!

 なんて便利な道具!


『感激にひたっているところ悪いが、先に進んでくれ』


「あ、うん」


 コンロンに促されて先に進むと、ひょろ長い箱が壁に埋まって立っていた。

 この箱にはなにかを入れるような狭い口と、下には広い口が付いている。

 なんの箱だろう?


『それは『食材販売機』だ。金さえあればどんな食材でも買える。肉も魚も野菜もスパイスもな』


「スパイス……香辛料も!?」


 香辛料といえば高級品の代名詞だ。

 いまではかなり安くなってきてはいるが、それでも庶民の手には届かない香辛料だってたくさんある。

 それが買えるだなんて!


『もちろん、物によって値段は変わる。金がなければなにも買えない。そこは忘れるな』


「うん、わかった!」


『よし、それでは早速調理してみろ。簡単な肉野菜炒めができる食材は貯蔵庫の中に入っている。調理器具は貯蔵庫の横を開ければ一式入っている。それを食べたら今夜はもう休め』


 今夜……ああ、もう夜になっていたのか。

 よし、料理を食べたら寝てしまおう。

 今日はいろいろなことがあった一日だったなぁ。

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