キッチンカー『コンロン』と行く私の旅料理露店 ~特別な食材でパワーアップ!?~

あきさけ

少女とキッチンカー

第一章 コンロン登場

1. 古代遺跡での邂逅

「あいたたた……ついてないな、ほんと」


 私はお尻についた土を払いながら弱音を吐く。

 どうにも、この古代遺跡に来たときからついていない。

 1階だって言うのにテレポータートラップでどこか別の場所に移動させられるし、移動した先ではモンスターの群れに襲われて荷物を失った。

 最後はヘルハウンドに追われて逃げ回っていたら落とし穴に落ちてここに着いたわけだ。

 本当についていない。


「さて、気を取り直して。ここはどこだろう?」


 今回来た古代遺跡は、およそ3000年前に作られた地下都市だったはず。

 実際、入り口には街の名を示した石碑や門の跡、それにかつての街並みも見てとれた。

 その中にあった比較的立派な一軒家に入った結果、強制移動の罠、テレポータートラップに引っかかってしまったわけだが。


 そして、散々な目に遭ってたどり着いたこの場所は、どうにもこれまでの遺跡と形式が異なる。

 いままでの通路には魔道具によるものと思われる照明が天井に付いていた。

 でも、この場所は床や壁がうっすらと光って道を照らしている。

 こんな遺跡の話は聞いたことがない。

 すっごいお宝があるかも!

 まあ、戦闘になったら武器もなくした私は多分死んじゃうんだけど。


 いまいる場所は小さな部屋のようになっている。

 先ほども述べたが、床や壁が光っていて部屋全体を照らしており周囲はよく見える。

 よく見えるが、続く先は通路一本のみ。

 これはあっちに進むしかないのかな。

 進むしかないのか。


「うーん、この壁の素材はなんだろう? 金属のように見えるけど少し柔らかいし、そこまで冷たくもない。不思議」


 私はあちこちを調べながら通路を進む。

 もう罠にはかかりたくないから、慎重に罠がないかを調べながらだ。

 罠を探す技術なんてあまり知識はないんだけどね。


 通路はほぼ一直線に伸び、罠なども見つからなかった。

 ついでに言えば上り階段も見つからなかった。

 この遺跡から出られるのかな、私。


「あ、下り階段? 螺旋階段になってる。……底が見えない」


 一本道の突き当たりに下り階段を見つけたんだけど、壁にぴったりと貼り付く形で螺旋階段になっており、さらに一番下は真っ暗になっていて見えなかった。

 これ、降りていくしかないよね。

 足を踏み外したら、今度こそ死ねる。


 私は恐る恐る、壁に貼り付きながら一歩ずつ階段を降りていく。

 なにこれ、すごく怖い!

 古代遺跡ってこんな怖いところがあるの!?

 聞いたことないんだけど!


「あ、底が見えてきた。やっぱり底も光ってる」


 どれくらいの間階段を降りていたのかわからないけど、底が見えてきた。

 底も光る床でできており、なにかの影が見える。

 ここからじゃさすがにわからないな。

 もっと降りるか。


 さらに降りることしばらく、ようやく螺旋階段の底にたどり着いた。

 このフロアの中央にはなにか板のようなものが浮いている。

 ほかは見る限りだと壁だ。

 調べてもただの壁と床だった。

 この板を調べてみるしかないのか。


「ほい、《鑑定》っと」


 私には《鑑定》スキルがある。

 スキルは生まれたときから持っているものと、訓練して覚えるものの2種類があって私の《鑑定》は生まれたときからあるものだ。

 効果は『調べようとしたものの情報を調べる』というごく当たり前のこと。

 ただ、私の《鑑定》のすごいところは、自分の知識にないことまで《鑑定》できることなのだ。


 この能力を使えば街のギルドで活躍することもできただろう。

 なにせ、未知の道具ですら調べられるんだからね。

 でも、私はそんなありきたりな人生を拒否して冒険者の道を選んだ。

 まあ、あんまり稼げていないけど、このスキルのおかげで生活できてはいる。

 宝の持ち腐れとか言うな。


「ふむふむ……『名前を答えよ』?」


 私には読めないけど、古代遺跡の板にはそう書いてあるらしい。

 私のスキルがそう判断しているのだから間違いない。

 いままでだって間違えたことはないのだから、間違いないのだ。


「ええと、私は『ミリア』……あ、文字が変わった、『性別を答えよ』? 女性、と」


 なんだかよくわからない板の質問に次々と答えていく。

 名前と性別の次は年齢を聞かれたので16歳と答えた。

 そのあとも次々と出される質問に答えていくと、次のような質問が出た。

 いわく、『料理は好きか』と。


「料理は好き……というか、最近できないんだよなぁ。鍋とかを持ち歩くのは大変だし」


 私が質問に答え、頭をかきながら視線を逸らそうとすると、また板の文字が変わった。

 今度は『アンケートにご協力ありがとうございました』だそうだ。

 アンケート?

 いまのが?


 私は板のことを確認しようとしたが、その前に板が消えてしまった。

 もう、なんなのよ、一体!


「はあ、帰る手段を探さないとなぁ。……って、床の光が強くなってる!?」


 気がついたら床が真っ白く輝きだしていた。

 またテレポータートラップ!?


「……あ、収まった。移動はしていない、って!?」


 気がついたら目の前に大きな魔道車があった。

 魔道車とはモンスターや鉱山などから入手できる魔石を燃料にして動く乗り物のことだ。

 魔石を動力にする馬車、なんて言葉もあるらしい。

 そんなこと、いまはどうでもいいんだけど。


 ともかく、いまの光はどこかからこの魔道車が移動してやってきたということだろう。

 どこからやってきたのかはわからないけど、とりあえずこの魔道車を調べてみるのが大事かもしれない。

 私の勘が告げている!


「見た目は……ずいぶんきれいな魔道車だなぁ。側面とか私の姿が反射して映ってるよ」


 魔道車の側面に映っているのは、茶色い髪と黒い目をした自分の姿だ。

 手を振れば手を振りかえしてくれるから、間違いなく自分の姿が映っているわけである。

 この魔道車、それくらいピカピカなのだ。


 そのまま側面を調べると大きな窓が付いていた。

 窓にはガラスと思われる透明な板がはめられており、開け閉めできそうに見えるんだけどピクリとも動かない。

 ここから中に入ることはできないか。


 箱形になっている側面をたどり後ろ側まで行くとドアが付いている。

 だが、これもびくともしない。

 どうすれば乗れるんだろう?


 反対側の側面は特になにもない壁が続き、最後は魔道車正面に運転席らしき場所がある。

 私も少しだけ魔道車のことを知っているから運転席のことは知っている。

 だが、ここのドアも開かない。

 どうしろと。


「あとは正面だけど……あれ、なにか書いてある。『コンロン』?」


 私が文字を読み上げると、魔道車が光り輝き真っ白に染め上がっていた。

 一体どうしたんだろう?


『お前が我がマスターか?』


「ひゃい!?」


『お前が我がマスター、ミリアかと聞いている』


 なに、この魔道車が喋ってるの!?

 こんな魔道車聞いたことがないんだけど!

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