夜の踊り子
@otura
日没
いつからか起きているのに夢を見るような心地になった。まるですべてが画面の先で起こっているような隔絶感。生きているのかすらわからなくなるような感覚にずっと襲われ続けていた。そんな感覚からあの人は救ってくれた。だからあのひとの計画に協力した。荒唐無稽とも思えるようなあの計画に。
『先月から立て続けに都内の公園に不審物が放置される事件が起きており、警察は愉快犯、組織的犯行の両方を視野に入れ調査を進めています。続いてのニュースです。ついに民間人が月に行ける…』
「先輩はどう思います?例の不審物事件」私はスマホから視線を上げ、机の向こうに質問を投げかけた。
「何をどう思うの?こんなのマスコミが放送していないだけで年に何件かはあるでしょう。」先輩は顔もあげずに答えた。
私は
「そうなんですけど。でも、これだけの回数繰り返していて姿が一回も映らないっていうのはちょっとおかしくないですか?幽霊なんて言われていたりもするんですよ。」
「幽霊なんているわけ無いでしょう。すべての物事には原因があるんだから。今回のことも防犯カメラには映らなかっただけで靴跡とかは見つかったけど公園だから人が多すぎてあまり役に立たないんでしょう。」
「先輩は夢がないなぁ」
「なくて結構。夢なんていう覚めることが分かっている期限付きのものを見るよりも他にやるべきことがあるのだから。いまはそんなことに時間を使いたくないの。」
「いましている勉強ですか?真面目ですね。」
「勉強だけに集中できる学生時代は特別だよ、おとなになったら生きていくために別のこともしなくちゃいけない。というかこれは部活の活動計画だから。誰かさんがスマホを見ている間におおよそは書き終わったけれど。何かやりたい実験はある?」
ここで先輩は初めて顔を上げた。同性の私でもドキッとしてしまいそうな整った顔立ち、才色兼備とはまさに先輩のことでここまで来ると嫉妬よりも憧れを感じる人のほうが多いだろう。
「そうですねぇ...」私は考えた。あまり活動費の多くないこの部活でできる実験は少なくある程度理科室の試薬は使えると言っても限度がある。
「じゃあ。この前見たんですけど回折格子にチョコレートを垂らして虹色のチョコ作るなんてどうですか?」
「回折格子ね。先にガラスとかの厚みの差を見たりたうえでというのであれば問題はないかな。とりあえずこれでしばらくの活動計画は大丈夫ね。今日はもうやることないし先に帰っていいよ。」
外を見るとオレンジ色のきれいな空が広がっていた。
「では、お言葉に甘えて。お先に失礼します。」
化学室を出て下駄箱に向かう。この時間だと部活をしていない人は残っていないし、部活をしている人はまだ練習中だ。諦めて一人で変えることにする。駐輪場に止めていた赤のチャリにまたがり家に帰る。自転車に乗って切る風が気持ち良い季節となり紅い夕焼けも相まって気分も上がる。今日の夕飯は何かなと考えながら帰路につくのであった。
夜の踊り子 @otura
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