終幕

 それはどこかの小さな部屋、窓はなく、扉は天然ゴムで蓋をされ消音性に優れ物音は外に響かず、ましてや声など外に聞こえようがない。さらに電波遮断器が三か所に設置されており、有線の受信機以外で連絡の手段を取る方法がない。


 酸素マスクを口に着ける人が二人。その監獄い所の部屋にいる。


「貴重なお話ありがとうございました。契約通り、あなたのお名前は一切口外しません」


 男の声、髪の薄くなりかけ目元に大きなクマを蓄えている。反対には白髪の存在しない艶やかな髪の毛を伸ばす女が座っていた。


「その……」


 恐る恐る、男の顔色を伺いながら声を出す女はその腰に似つかわしくない銃器を携えている。


「この話は、一体なんの役に立つの?」


「歴史を詳しく眺めるための虫眼鏡のようなものです。そうですね、あなたのお話のおかげでパケという人物が具体的により近づきました。彼が何のために戦後、チルターク社と軍の間を取り持ったのか、なぜ木星で起業したのかなど、様々なことが読み取ることができる」


「大変ね、若いのに」


 若いという言葉に男はピクリと反応した。


「私みたいに若く見せることはあっても、年老いて見せる人なんて……はじめてよ」


「……教授の親友として振る舞う必要があったので、ね」


 目を細めて男を凝視する。

 嘘をついているようには見えない。


「ほんと、男ってバカ。あなたもでっかいものが好きなんでしょう?じゃなきゃ珍妙なことしないわ」


「歴史は概念ですが、はい。大きいでしょう」


 男はまだ口に言葉を含んでいる。


「それに知りたい、ただ知りたい。母の語った歴史書に載っていない歴史が、知りたい」


 女は難しいげな顔をして席から立ち上がった。


「はぁ。気を付けてよ、ナレミは、多分まだ生きているから」


「ご忠告感謝します。あなたもお気を付けを……白い部屋から生還した人には蛇足でしょうが」


 男性が扉を出ていく女に言うと、振り向き朗らかな笑顔だけで答えた。


 無音の部屋に、心音だけが響いて消える。男にとってそれが心地よいものなのだろうか、扉の鍵も閉めず、目を閉じて頭の中で思考を繰り替えして眠りこけてしまった。

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