第46話
ハミルトン・田村はある程度広かった会議場が手狭に感じるのを不思議な感覚で眺めていた。
急速に膨れ上がった反チルターク社連合は連合の名に恥じぬものとなり、参加人数はハミルトンの手に負えるものではなくなっている。元クラムリンの傭兵集団、地球の軍人たち、謎の人工人間。パケという商人から武器弾薬と共に送られてきた人工人間は自我を持つものの、ハミルトンの命令に忠実だった。そのため、自然と反チルターク社連合はハミルトン・田村が音頭を取ることとなったのだ。
「よく集めたね」
隣にどっさり座るサーマルに向かって言った。
「偶然ってやつだァな」
白く濁った肌のハミルトンを見ながら答え、にやりと笑う。
「これほど大所帯の前に立つのは久しぶりだよ……遠い昔を思い出す」
彼はガヤガヤと騒ぐ集団を慈しみながら言う。
ハミルトンの目の奥に浮かぶのは、巨大な仕事を控える社員たちだった。起業し火星の黄金時代と共に成長を続けたハミルトンの会社は短い歴史において大きすぎる案件を抱えることとなっており、社員全員で挑むこととなった。
一同は会社で最も大きかった食堂に集まり、若かりしハミルトン・田村の一挙手一投足を凝視した。
「懐かしい……」
彼は皺だらけの拳を握り、盟友たちの枯れた笑顔――彼の想像に過ぎないが――を思い浮かべる。機械と薬剤でここまで生きながらえてきたが、ミーナと同じように体はもうガタが来ている。もう長くはないだろう。つまり、これがハミルトン・田村にとって最後の戦いとなるのだ。
「……さぁ、始めよう」
彼が立ち上がると、会議場の面々は静まり返った。
ハミルトン・田村は両手を机において体を支える。
「今の火星は粛清の嵐が吹いている」
ゆっくりと乾いた唇が上下する。
「ダン・フォーゼンに一矢報いるには、今をおいてほかにない」
彼は金属の机を握る。
「我々が決起しなければ火星に二度と黄金時代は訪れない。あの苦しく、あの刹那の喜びを味わうことは無くなる」
ほんの少し唇が震える速度が上昇する。
「彼らの悪逆非道に沈黙を貫くことはできない」
老いた腕がけいれんし始める。
「すなわち、我々はあのチルターク社に、攻撃する」
両手を机から分離する。
「だが火星を変えるには足りない」
僅かに顔を沈める。
「それでも虐げられる火星に伝えることはできる」
百歳を優に超すとは思えないほど生気に満ちた顔を上げる。
「今、誰かが雨に濡れている」
「今、誰かが血を流している」
「今、誰かが運命に縛られている」
震える腕を突き上げ、拳を握る。
「燃えて、今誰かの狼煙となるため、我々、反・チルターク社連合は――」
声を張り上げ、狭くなった会議場に響かせる。
彼は腕を振り下ろして机をたたき、痛みに耐える。
「――1時間後、深夜の鐘が鳴る前に本社を襲撃する!」
もはや皺枯れた声色だったが、生気は失われていない。
「チャンスは一回限り、目標、ダン・フォーゼン!」
会議場の中心からホログラムが浮かび上がり、ダン・フォーゼンの立体写真が写される。
「最初で最後の土壇場だ、いくぞ!」
静寂を突き破り、烈火のごとく雄たけびが広がった。
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