第4話 街外れの宿屋にて
窓から差し込む赤に染まった日差しに、目が覚めた。
近くで小鳥の鳴く声が聞こえる。
そうだ。今日は勇者の旅2日目。
待ちに待った、人生初の魔物の狩りに行く日だ。
「んぁ~っ」
ベッドから半身を起き上がらせ、背伸びをする。
家臣はどこかと、辺りを見回して探す。
すると壁沿いの窓の前で、家臣が下枠に肘をつき外を眺めていた。
少し体を動かしてみると、指に一羽の小鳥がとまっていた。
声の主は、多分そいつだろう。
ベッドから降り、家臣の方へ歩く。
足音で気づいたのか、家臣がこちらを向いた。
「ネオ坊ちゃま。お目覚めになりましたか」
「うん……まあね」
寝起きらしい声を上げ、返事をする。
「それ、小鳥?」
そう家臣に尋ねる。
「えぇ。魔物の住処について何か知っていないかと、お聞きしておりました」
セバスチャン・
その名の通り家臣は、動物、あるいは魔物と会話することができるというスキルを持っている。
えっと……名前は……なんだたっけ。
「【
まるで俺の心を見透かしたように話す家臣。
でもこの前、長年の付きだとか言って外れてたから、信用性は低いんだよなぁ……。
「で、何か見つかったの?」
「朝早くの、まだ人々が盛んにならない時間帯に出現するとのことです。噂では北東の森に住処があるとかなんとやら……」
といっても、まだ魔物の詳細を聞いてないから、よくわかんないや。
「お腹空いた~。朝飯食いに行きたい」
「分かりました。ですが、魔物討伐の為、朝ご飯は手早に済ませましょう」
「オッケー」
◆◇◆⚔◆◇◆
「こちらは、遥か彼方の西に広がる巨大森林で採れた〝ママンドル〟の蜜を使ったクロワッサンでございます。こちらは同じく巨大森林で採れた山菜でございます」
昨日、宿屋の受付を担当していたエルフの少女が、食堂で接客を担当していた。
「この山菜の中に、バジルとシェルバはありますか?」
「いいえ。入っておりません。他にご要望は?」
「いいえ。ありがとうございます」
「はい。では」
その会話を見ていた俺は、何だか昨日のレンガ壁に似合わない看板を見ているような、ぞわぞわする気分になった。
「手早に済ませると言いましたが、だからと言って噛まずに飲み込むのは宜しくですよネオ坊ちゃま」
「うっ……」
手元を見ていなかったせいで、山菜を口に突っ込んでいたから、家臣がそう言った直後、飲み込もうとしていた山菜が喉に詰まった。
「ってか、家臣は食べないの?」
隣で俺の事をじっと見つめる家臣に、そう尋ねる。
「わたくしは既に部屋で食事を済ませております。どうぞお気になされずに」
静かにそう返答をする家臣に、おもわず俺は吹き出した。
吹き出した後にも関わらず、俺の顔はまあ随分と渋い顔をしていた。
「どうしましたかネオ坊ちゃま」
いつもとは違う様子の俺に、少し焦った表情を見せる家臣。
そんな家臣に苦笑をする。
家臣は、自分が何か癪に障ることをしてしまったのではないかと思っているようだ。
「俺じゃなかったらその返事、自分が嫌われてるのかと思っちゃうでしょ」
思っていたのと違う言葉に、家臣はすっとんきょうな顔を見せた。
まあ、家臣は家臣なりの敬意を込めて仕事をこなしているのだというのに、逆に嫌われるだなんて想像を越したことだろう。
「さっき、接客にエルフの女の子がいたじゃん?」
あの子も、家臣と同様敬語を使っていた。
客に対して敬語を使うのは一般的であり、何の異常もない。
だけど。
「敬語は大切だと思うけどさ……二人とも、笑ってないじゃん」
そう、二人とも〝ありがとうございます〟と言っているのに、笑っていないんだよ。
笑顔のないありがとうって、マジで怖いよ。見てるこっちがソワソワするわ。
「ってことで。これからありがとうは、笑顔で言うように心がけましょう!」
うんうん、とうなずきながら、しっかりと授業を聞いてくれる家臣。
まるで世話をする家臣と、世話をされる俺の立場が逆転したようだ。
「ところで授業中に大変恐縮ですが、ネオ坊ちゃ………ん"……ネオ先生。お時間でございます」
「え?」
家臣……ではなくセバスチャン君の言葉に、つい食堂の壁についた立派な時計に目をやる。
8時……。
「え、魔物討伐の時間っていつだっけ?」
「7時でございます」
席から立ち、そう冷静に返事をする家臣。
「ちょっと待ったぁぁぁああ‼」
その言葉を聞いた突如、鬼の面を被ったような顔をして、食堂から猪突猛進で飛び出す俺。
何だかデジャヴのように感じるのは、俺の気のせいだろう………。
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