第3話 エルフの商店街



「ねえ、ホントにここで合ってるの?」


思ってたのと違うんだけど、疲れ気味の足を止め、そうつぶやく。

家を出発してから数十分。

家臣には魔物の住処に案内してと言ったものの、一向に住処と思われる場所にたどり着かず。

やっとのことで着いたと思い顔を上げれば、どう見ても人々でにぎわう盛んな商店街。

嶺上までは到底いかないが、都心と違った雰囲気もまたいい。


……って言ってる場合じゃない‼

え、俺、魔物の住処って言ったよね?

言い間違えた?魔物の住処と商店街を?

そんな馬鹿な。

未成年だから酒で酔ってないし、頭おかしいわけでもないし。


………後者は曖昧かも。


けれど、そういう自分に害が起こりうるところはしっかりしてるから、間違えるはずがないんだよ俺が。

家臣は俺の命令に逆らうはずがないし……。もしや途中で道を間違えたのか?

そう思い、家臣に尋ねたところで、冒頭に至る。

その言葉に家臣は、とぼけたような顔をした。


「えぇ。勿論ですとも。そこら中にうじゃうじゃと魔物が歩き回っているではありませんか!ああ恐ろしい……」


……ん?


「ちょっと待てぇぇぇえええ‼」


突如鬼のような形相になった俺に、周りは凝視し、家臣はまたとぼけた顔をする。

これでも冷静さを保てる家臣って凄いと思うわ。

家臣の顔を見るなり、段々と頭の熱が冷めてきた俺は、冷静に家臣に尋ねた。


「家臣はこれの、どこが魔物の住処だと思うんだ?」


家臣の目をじっと見つめ、そう尋ねる。


「……う"ゥ」


数秒間程見つめていると、家臣からうめき声のような声が聞こえた。

そう、これが俺のスキル〝魅了エンチャント

相手の瞳を甘えるように見つめ、脳の機能を低下させ、嘘が付きにくくなるという効果だ。

属性は……光でもあり闇でもありってわけで、詳細は分からず。

まあ、家臣限定の魔法なんだけどね、コレ。


「えぇ………エルフの商店地……モンスター………」


集点の合わぬ目で、途切れ途切れにつぶやく家臣。


エルフ……。

待って、魔物って言ったよね、俺?

確かにエルフも、悪く言えば人外生物だけどさ、それは違うじゃん。


「ごめん、真面目に聞くけど。魔物の住処はどこ?」


魅了エンチャントの効果が消える前に、家臣に尋ねる。


「この道を………真っ直ぐ………突き当り……左………」


物忘れの激しい俺は、忘れないうちにと、すぐさま道を真っ直ぐ進み、突き当りまで歩く。

そして家臣の言ったことを再度思い出し、分かれ道を左に曲がる。


「はぁ?なんだこれ……」


曲がり角を見た瞬間、目の前に飛び出してきた看板に、不満を抱える。

そこには、


【夜間の立ち入り禁止】


洋風なレンガ壁に似合わぬ、そこら辺の岩を無理矢理看板に見立てたようななんとも荒い作りの看板に、そう刻まれていた。

お洒落には人一倍気を遣かっているから、なんていうか……体の芯からぞわぞわ来る感じ。気持ち悪い。

だけれど、その感情をぐっと堪え、視線を他のものへと移す。


夜間の立ち入り……?


疑問に思った俺は、無意識に曲がり角の塀の上を見上げる。

すると奥の方に、生い茂る木々を見つけた。


その木々で何かを閃いたのか、くもり気味だった顔が、ぱっと明るく晴れた。


魔物は日の沈み始め……夕暮れから本格的に活動を始める。

この看板は魔物の住処に近いから、近隣住民が親切心で夜間の立ち入りを禁じているのかもしれないな。


「だからどう見ても、建築士が立てたような看板ではなかったのか」


看板を見つめながら、そうつぶやく。


「ネオ坊ちゃま」


後ろから突如聞こえた静かな声に、はっと振り返る。


「もう夕暮れでございますよ。魔物のお時間でございますので、一度宿屋で休息を取りましょう」


やっべ、冒険に熱中しすぎて家臣のこと頭から抜けてた!


「魔物を倒すのが俺の仕事だよ。魔物を倒さず宿屋で休息するなんて、勇者になった意味がないじゃんか!」


その言葉に家臣は、おっしゃる通りで、と囁くように言う。

分かってるんだったら最初から言うなよって感じだけど。


「ですけれど。残念ながら、ここを拠点とする魔物の活動時間は昼のみと限られております」


「……え、どゆこと?」


昼のみが活動時間?

まあ確かに夜昼どちらも活動する魔物は少なくはないけど……。

もしかして家臣、まだエルフのことを言っているのか?


「魔物の詳細は後程お伝え致します。今日はぐっすりと寝てください。数十分も歩いたんですから疲れているでしょう」


た、確かに眠気が……。

眠いのを家臣に悟られぬよう、眠気を振り払おうと、足に力を入れ、踏ん張る。


「はぁあ」


だけれど、やっぱり眠気には勝てなかった。

あくびが夕暮れの空に響き渡った。

そのあくびに、家臣はふっと笑みを浮かべると、道の奥にちょこんと立った、町外れの宿屋らしき建物の扉を開けた。


家臣につられ、俺も宿屋の中へ入る。


「宿泊をご希望ですか?」


受付口には、長い金髪の髪を結わいた、一人の少女が立っていた。

結わいたところから、尖がった耳が見える。

家臣の言う通り、ここはエルフが暮らす商店街なのであろう。


「えぇ。2名です。一番広い部屋の、朝食付きのプランでお願い致します」


「かしこまりました」


少女が結わいた髪をなびかせながら、テキパキと仕事をこなす。

まるで家臣を見ているみたいな、正確で素早い動き。


こんな奴が、同じ英雄のメンバーだったらなぁ……。


そう心の中でつぶやいていると、家臣が俺の名を呼んだ。


「部屋に移動しましょう」


重い足取りの俺は、家臣に連れられ、階段を駆け上がる。

やっとのことで3階の一番奥にある扉の前まで着き、部屋に入る。


「いや狭ッ」


一番大きい部屋ってコレ?

ちっさ‼

俺の便所と同じ広さじゃん!


「ネオ坊ちゃま。勇者になるには、このような苦痛にも耐え抜いて生きていかなければならないのですよ」


「すげぇ………勇者ってすげぇ……」


勇者の根性と忍耐力にとてつもなく関心をする。

だって、一日中便所で過ごすんだぞ?

魔物と戦うより高難易度じゃんか!


「俺、眠気覚めたわ」


そう家臣にわがままを言うと、


「分かりました。風呂に浸かってから、9時に寝てください」


の、正確な一言。

俺の冗談でも真面目に受け取っちゃうから、ある意味面白いんだよなぁ。

まあ、家臣を遊び道具みたいに使ってるのはどうかと思うけど。


「うん」


俺は家臣に短い一言を残し、風呂場へ駆けつけた。





























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