第2話 ニオ・妖精鈴
「え、本気で何言ってんのお前?」
〝勇者になる〟と決意してから数時間後。
俺の願望に焦りに焦った家臣だったが、お坊ちゃまの要望は必ず叶えるのが家臣の役目。
不満気味だったが、俺からの圧………あぁ間違えた。俺のお願い事なら断れまいと頭を下げ許可をくれた。
それから野外ステージ辺りを散歩し、今家に帰って来たということだ。
そう、我が
一流建築士に大金をどっさりと分け与えてやったおかげで、
だけれど、俺の考えが甘かったようだな。
「普通に考えて、世界一の高層マンションに住んでいる俺らが、わざわざアパート住まいのおんぼろ勇者になってまで金と名誉に困ってる訳ないじゃん。世話係も長男のお坊ちゃまだからって甘えさせるなよ」
この家庭では最も恐ろしいと呼ばれた俺の弟、ニオ・
胸を抑えながら苦しむ俺と、そんな俺を呆れるような、馬鹿にするような、見下すような、そんな眼差しで見つめる弟に挟まれた家臣は、どちらを助ければいいかと、その場でオドオドする。
てか、兄弟喧嘩は日常茶飯事なのに、よく家臣は呆れずに助けようとするよな。
家臣って結構ヤバい奴?
そんな家臣についての疑惑を持ちながらも、ニオに歯向かう。
「だ、だから!別に金と名誉が欲しい為にやりたいんじゃなくて、そ、その勇者って
格好いいよな!うん。別に格好いいものを職業にするなんて普通だろ!」
我ながら嘘が苦手なのは知っていたが、もう殿堂入りだよな。この正直さって。
「長年の付き合いのわたくしなら分かります。ネオ坊ちゃまが暇つぶしに勇者の旅へ出ようとしているのが」
家臣の言葉に反応し、ニオが引きつった顔を見せる。
「お前……散歩気分で旅に行こうとしてるのか?待って真面目にヤバいよ俺の兄貴」
ガチで引かないでくださいニオ君。胸が傷つきます。
「あ~………うんうんやっぱバレた?長年のお付き合いの効果ってえげつないなァ。
そうそう、暇過ぎて勇者の旅にでも出ようかな~って……」
長年の付き合いというけれど、残念ながら全くの不正解ですよ家臣さん。
まあ、そっちの方が通用しそうなので、全力で使わせていただきますけれどもね。
「んじゃそういうことで、明日の朝には出発するから、留守番頼むねニオ」
ニオに留守番を押し付けて、準備は家臣らに任せてっと……。
朝5時は魔物が拠点に帰る時間だから、襲われる心配は少ない。
うんうん。我ながら完璧な計画だな。
そう関心をしていると、隣で静かな怒声が聞こえた。
「はぁ?お前の都合で俺に留守番を押し付けるなよ!」
ニオが何気に不満そうな顔で俺に怒鳴った。
そんなニオの言葉に良いことを思いついた俺は、不敵な笑みを浮かべる。
その笑みを見たニオは、俺から一歩後退りをした。
「あれれ。ニオ君たら一人ぼっちになって寂しいのカナ?あ、でもニオ君はもう11才でちゅもんね?一人でお留守番、できまちゅもんねぇ?」
いや……僕ちゃん鈍感なもんでね。
ニオ君が顔と耳まで真っ赤になってるけど、どういう意味かよく分からないなァ~。
煽りの恒例、ニヤ顔で顔をつつき、豪快に煽り散らかすと、ニオからの冷たい視線
が、刃物のように俺の顔面に直撃した。
「ぐへッ」
その冷え切った視線に、俺は奇声を上げ、その場で死んだふりをする。
「タスケテ………」
「ネオ坊ちゃま!やはり旅はお止めになられたら………」
家臣の本当に心配している言葉に、倒れこんだ体制からスッと、華麗に立ち直った。
そうだった。こんなにヘタクソな演技でも、家臣は坊ちゃまのことなら何だって信じちゃうタイプなんだった。
「うん。その心配はないよ家臣。あと荷物の準備宜しく頼むね」
そう旅する前提のことをスラスラと言う俺に、家臣はため息を付いて頷いた。
「分かりました。明日の朝までには準備を整えておきます」
そして俺は、気分良くスキップをし、自分の部屋に戻っていった。
「準備すら自分でしないお坊ちゃまが、本気で魔物倒せると思うのが凄いわ」
「それがネオ坊ちゃまの誇りです」
そんな会話をするニオと家臣の声は、勿論ネオには聞こえていなかった。
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