第9話・偶然の出会い
可愛らしい猫耳メイド。
だが、声は男性声でかっこいいヒーロー好き……だった。
今の俺は、そいつに幼い少女の声でかわいいと言われ、抱かれ撫でられている。
「おい、サンカどういうことだ?」
「本人に聞いてみたら……くくく」
この理由を知っているサンカに声をかけたが、撫でられている俺を見て笑いを抑えている。
「えっと、億万なのか?」
俺がそう言うと、撫でていたのをやめて、思い出したかのような顔をした。
「そうだ、自己紹介がまだでした!私は、億万の妹の、
俺を下ろして、そう元気よくあいさつした億万妹。
「なんで、同じアバターなんて使ってんだ?」
まずは、一番の疑問を聞いてみた。
「わたし、戦闘とか好きじゃなくて、だけどこんな感じでかわいいキャラクリをするのが好きなんです」
そういって、メイド服のスカートをつまみ上げ、くるりと回った。
「けど、戦いとかは苦手で。お兄ちゃんに任せてもらってるんです」
なるほど。戦闘メインで行動する億万と、キャラクリメインの妹か。
「けど、アイテムやメダリンの譲渡なら、アカウントをもう一つ用意して共有倉庫を使えばいいのに」
「そんなのあるの?」
サンカと億万妹がわいわい会話をしている。
その内容は聞いてもわからない。
……後で調べてみるか。
「あの、ジンさん。あの方は誰なんですか?」
隣で一部始終を見ていたかなが聞いてきた。
俺は、億万との出会いの話をかなに教えた。
かなに話し終わるとあっちの会話も終わるころだった。
「……さて、そろそろ行きますか」
会話に一区切りついて、サンカはそう言った。
「学校でお兄ちゃんによろしくおねがいします!」
礼儀よくぺこりとお辞儀をする億万妹。
そうして、俺たちは億万妹と別れた。
もちろん俺はアームで体を掴まれて。
……ん?
「ちょっと待て、そのジェット。俺にも使わせてくれてもいいんじゃないか?」
「あ、気づいちゃったか」
サンカは、俺がそう言うのを待っていたかのように、俺の背中にジェットを付けた。
「操作は、感覚で覚えてね」
「え?」
そう言ったサンカの言う通りで、ジェットはボタンの操作ではなく、自身の頭の中でイメージする感じで動かすようで、いつもとは違う頭の使い方をしないといけない。新しく出来た体の器官を動かす感じで、とても難しかった。
かなはそういうのは相当慣れているようで、すぐにマスターしたようだ。
後から気づいたのだが、どうして億万妹があの村にいたのか聞くのを忘れていた。
俺という荷物が無くなり、サンカは目的地に向かいながらジェットでアクロバティックな動きをしてまで慣れていなくて、のろのろと飛ぶ俺を煽っていた。
そんなこんなで、段々と目的地に近づいていくと、遠くに何か大きな建物の集まりが見えてきた。
「なんだあれ?」
「来たわね」
サンカは気を引き締めた顔をした。
「あの先になんかあるのか?」
「まあ、散々な思い出がね……」
しっかりと見えてくると、それがそれぞれが十数階あるビル群だった。
そしてその中心には、大きな穴がぽっかりと開いていた。
「あの穴の先にレヴィアタンがいるのよ」
「じゃああの先に行けば、かなをログアウトできるのか」
飛んで来たとはいえ、ずいぶんあっさりと来れたな。
「さて、さっさと入るわよ。襲われる前に……」
サンカがそう言うと、ビル群から光がこちらに伸び。そして、手前で透明な壁に阻まれるかのように弾けた。
「な、なんだ!?」
「はぁ……やっぱ来るかぁ」
サンカはいろいろな武装を付けたアームを出した。
するとビルの方から何人もの人影が出てきた。その人たちの頭上にはプレイヤーネームの画面がついていた……のだが、サンカの攻撃で消滅した。
「ふう、今回は雑魚だったか」
「さ、サンカ。あれはいったい?プレイヤーだったと思うんだが……」
「こんなところで奇襲を仕掛けてプレイヤーを襲う哀れな奴らよ。まあ、あのビル一帯そんな奴らで構成された町なんだけどね」
「あれただの廃墟じゃないのかよ!?」
「24四時間365日レヴィアタンの討伐に来る奴らから、物資を奪って資金稼ぎにして。まさか、穴の周りにこんな町まで作るなんてね。その根性をどこかに使えなかったのかしら」
サンカはそう言いながら、次々とくるプレイヤーをレーザーで倒していた。
「何だあいつ!次々とやられていくぞ!てめーら気をつk」
一人のプレーヤーがそう言い終わる前に焼き切られ、消滅した。
そいつのネームは、ピザカッターサトウ。持っていた武器も、大きなピザカッターのようなのだった。
「すごいいいところで倒すけど、まさか狙ってた?」
「さぁ、どうでしょうねー」
ニヤニヤとしている、ありゃ狙って倒したな。
「くそ!なかなかに強いプレイヤーだぞ!増援部隊を呼べ!今いる奴らはこいつらを穴の中にいかせるな!」
そう、プレイヤーたちは穴と俺たちの間に立ちはだかった。
「ふん!増援部隊か何だか知らないけどね、あいつさえいなければあんたらなんてイチコロよ!」
そう言い、サンカは突っ込んでいった。
攻撃力、機動力はサンカが圧倒的であったが、相手もなかなかできるようで、陣形を組みつつ、被害を最小限にしつつ、サンカと渡り合っていた。
「す、すごいな……」
「すごいですね……」
呆気にとられている俺とかな、相手はこちらには一切襲ってこず……いや、サンカの対応でこちらに手が回せないのだろう。
どれだけ強いんだよあいつ。
「ちょっと、ジン!かな!そんなとこでぼさっと見てないで援護しなさいよ!」
「え!?援護って何すればいいんだよ!」
「考えろ!バカ!」
そう言って、サンカはレーザーで数人焼き払った。
……て言われてもな、どうすればいいかなんてすぐには思いつかない。
少しだけ考え、適当な魔法を撃つことにした。
確か、チュートリアルの時のソールさんの説明だと、頭の中で魔法を発動させる動きをイメージするとか。
魔法は、基本的に元からすべて覚えていて、魔法を発動する動きや掛け声などを行い、所持しているMPがその発動する魔法の消費量以上なら発動できるようだ。
さて、いまおれのMPは…………4。
MP4、えみぴーよん……、動画ファイル……。
「はぁ!?」
俺がいきなり驚きの声を上げたので隣のかなが、びくっと肩を震わせた。
あれ?前サンカと経験値採取したよな。あれ?ジョブ魔法使いですよ。MPをとても必要にする職業ですよ?
それがなぜこんなにも少ないのか。
何かある、絶対に何かある。
が、今は考える時間が無いので適当に撃てる魔法を撃っておこう。
魔法リスト画面から、適当な魔法を選ぶ。
すると頭の中に動きとセリフが浮かぶ。
あとはそれを真似して動くだけ。
腕を伸ばし、撃ちたい方に人差し指を向けて。
「ファイ」
すると指先から小さな炎が発射された。
それはフヨフヨと進んでいき、プレイヤーに当たり消えた。
あれ、当たったよな?
当たったプレイヤーを見ても無反応。
「ちょっと!ジン!何ヘボイ攻撃してるのよ!?あんたのレベルならもっと強い魔法撃てるでしょ!」
「なんかMPが4しかないんだが……」
「はぁぁぁぁあああああ!」
俺が伝えると、サンカは大声をあげて驚いた。
その反動でサンカのレーザーが一斉に火を噴いて、周りの敵を消し飛ばした。
「ななな、なんでよ!ジョブが魔法使いなのに剣士以下のMPなんて、どういうことよ!」
「知るかよ!こっちが聞きたいわ!」
そんな会話をしつつも、一向に手を緩めないサンカ。
「絶対なんかのバグだわ!そんなの聞いたことないし今すぐにカスタマーセンターに報告してやる!」
サンカは、敵を一掃しつつ傍らで画面を動かしていた。
「そんなことしなくても、サンカだけでも勝てるんじゃないか?」
「なによ、私だけで戦わさせるつもり!?」
「だって、俺は足手まといだし……」
今、この中で戦力で飛びぬけて強いのがサンカだ。
「私も鍛冶仕事とかしたことが無くて戦闘はちょっと苦手です」
かなもおずおずとそう言った。
「もう!なんで大ボス手前で、戦闘できるのがあたししかいないのよ‼」
それはお前が、異常なほどに強いからだ。
「はぁ……。おっ!カスタマーサービスから返信がもう来た。どれどれ…………あ。」
サンカは画面を見たまま固まった。
「おい、なにやらかしたような顔してんだよ」
「今から係の人がこっち来て、説明してくれるらしいよ」
サンカがさらっとそんなことを言った。
「けど、今って……」
「そうですよ、まさかこんな乱戦中に、苦情のメールを送ってくるなんて、どれだけ器用なんですか」
「!?」
俺のすぐ後ろで声がし、驚いて振り返るとそこには、見覚えのある姿があった。
「そ、ソールさん?」
「まさか、こんなに早く再開できるとは思いませんでした。チュートリアルぶりですね、ジン様」
ソール・ブラックはそう言ってぺこりとお辞儀をした。
俺より仲間の方が強いんですけど!? 秋猫シュガー @sikiaki22
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