第8話・冒険RTA
「さっ、行くわよ!」
通話が終わった途端、サンカが立ち上がった。
「いきなりだな」
「だって、もう考えるのは面倒なのよ。あと、かながどういう心境でこんなプランに入ったかなんて今の所じゃ分からないし……。わかったとしても、そのままほったらかしにはしないでしょ?」
「まあ、そうだが」
会って数時間の相手だし、自業自得といえばそれまでだが。
断っても、後々気になると思う。それに……いや、命がかかってたのにこれは不謹慎かな。
「それに面白そうだし」
「おい」
そんな会話をしていると、かなも立ち上がった。
「あの、本当に頼ってもいいですか?」
こっちは不安そうだな。
「任せなさい、やると言ったらやるわ」
サンカは胸を叩いた。
「かな、いい友達を見つけたねぇ……」
おばさんは、ハンカチで涙拭いている。
なんか奥の方でも泣く声がするぞ……。
「じゃあ、善は急げとも言うし、すぐ行くわよ」
サンカは、かなの手を引いて出ていった。
「わっ」
かなも引かれるがまま付いて行った。
「おい、ちょっと」
俺もその後ろを急いで追いかけた。
扉を開け、外に出ると、サンカの背中には前に見たロケットがついていた。
やっぱり、これで行くんですね……。
「かな、これかぶってね」
サンカは、かなにフルフェイスヘルメットを渡した。
「ちょっと待て、前はそんなの無かっただろ!」
「前に、ジンが風圧でやばそうな顔になってたからあの後買ったのよ」
「そうだったのか、じゃあ……」
「けど一つしか買ってないからジンはこのままね」
「あっ……」
ロケットから少しずつ動く音がしだし、サンカはかなの後ろに立ち腰に手を回した。
「きゃっ!」
「しっかり、掴まっててね」
ん?
「俺はどこに掴まれば?」
そう言ったらかなの背中からアームが出てきて、背中側の襟を掴んだ。
「んじゃ、レッツゴー!」
「ちょっと、まt……」
こうして俺は、また風圧とGにさらされるのであった。
数十分経ったか、数時間経ったのか。
それほど分からないほど風圧とGにやられていた。
目も開けれねぇ……。
瞼の裏から見えるHPバーも、一切減っていない。おかしいだろ。
かなは大丈夫だろうか。
次からは、目を保護するくらいのゴーグル買っとこ。
またいつこうなってもいいように……。
そんなことを考えていたら暖かい感覚が手から感じた。
感覚的に、人の手なのは分かる。
けど、サンカはかなを掴んでるし、かなも距離的に手は届かないはず
……誰だ?
そう思い、必死に目を開ける。
涙で滲んだ視界には、心配そうにこちらを覗き込み、手を握るかなの顔だった。
どいうことだ?
もう少し情報を得るために、少しだけ痛くなり始めた目を凝らしてみる。
かなの背中に、サンカと同じロケットが付いている。
なんとなく察した俺はまた眼を閉じ、かなの手の温かみに涙するのであった。その涙が痛みで出てきたものなのかは気にしない。
しかし、そのあと泣いている俺を見かねてか、少しの休憩に入った。
後で確認したが、飛んでいた時間は30分であった。
降り立った先にあったのは、小さな村だった。
木の柵で周りを囲い、小さな家々が立ち並び、その中央にはレンガ造りの教会が建っていた。
それよりも目立っていたのが……。
「銃?」
それは、柵の内側から外の方に銃口を向けていて、その横には、カメラのようなものが付いていた。
いかにも時代錯誤なものだ。
いや、サンカの装備もこの世界には似つかわしいものだったな。
「あれはね、タレットよ。他プレイヤーが設置したものだと思うけど。何でこんな村にあるんだろ?」
そんな疑問を口にしたサンカが、タレットをまじまじと見つめはじめた。
これは長くかかりそうな感じがする。
昔からサンカ、もとい三花は、何かに集中すると、周りを気にせずに長い間集中する癖がある。
だから俺はサンカに一声かけて、かなと一緒に村を回ることにした。
「サンカは残してもよかったの?」
「ああ、あいつはああなると長くなるんだ」
「へえ」
村人がちらほらいる中、商店を探しつつ歩く。
「ジンとサンカは、どうして一緒にいるんですか?」
「幼馴染だからな」
「ケットシーと幼馴染って珍しいですね」
ん?
「いや、俺も外の世界だと人間だぞ」
「え、この世界の外でもケットシーだからこの世界でその姿になったんじゃないのですか?」
あー、これは少しこの世界が考える外の世界に誤解があるな。
前に学校で三花から、ゲーム内のNPCの学習能力について聞いた。
なんとプレイヤーの専門用語、ログアウトや、ステータスなどの言葉の意味を学習していて。ゲームの外、現実世界のことも大体知っているらしい。
そんな知識は、町の図書館などに本があり、NPCが見て学習しているんだとか、プレイヤーや、NPCが教えたりとかで広まっているらしい。
けど、すべてが正確ではないようだ。
かなに、正確な情報を教えながら店まで歩いた。
小さな店でゴーグルを買い、頭につけてみた。
鏡で姿を見てみる。ふむ、なかなかいいじゃないか。
こうして、サンカの所に戻ってみると、誰かと話し合っているみたいだ。
遠くだから確信ではないが、なんか見たことある気がする。
近づいてみると、その人物が
「あれ、億万がどうしてここに?」
声をかけると、億万がこちらに振りかえった。
「わぁ!かわいい猫ちゃんだ~!」
その声は前に聞いた男の声ではなく、幼い少女の声がした。
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