第7話・現実とゲーム
奥の部屋にはイスト机が並んでおり、おばさんが奥からお茶を持ってきた。
「さて、話していこうかね」
おばさんはお茶を淹れて、こちらに渡した。
「まず、かなは私たちの親戚の子じゃない。空から降ってきたのさ」
「どういうこと?」
サンカは、眉を潜めそう言った。
「いった通りさ、空からすごい勢いで降ってきたんだ。普通なら、ぐちゃぐちゃになるほどの勢いでね。店の前に叩きつけられて、急いで駆け寄ってみたけど。かなは死んでなかった。傷一つ無かったんだよ。」
まさか、本当に死ねなかったのか。
「うん、なんとなくわかったわ」
サンカのあの顔は、分かってない顔だ。
「で、それがかなと何の関係があるのよ」
「かなは頭上の名前以外にプレイヤーに見える傾向がない、っていったら?」
「それは、この世界の住民になりきっているだけじゃ?」
「ここ何年も、ログアウトで消えてないとしても?」
「……見えないところでやってるんじゃ?」
「いや、一回怪しんで確認したのよ。鍛冶師の修行で私とアークでかなをこの世界での三年間、そっちの世界だと一年半くらい一緒にいたけどそんなことなかったね」
アークっていうのは奥にいるおじさんのことかな。
「あと、空から落ちてきた時に、かなが握っていたものなんだが、それにこんなものが書いてあったんだ」
おばさんはそう言って、奥にあるタンスから何かを取り出してこちらに見せてきた。
「これって……スマホよね?」
出されたものはどう見てもスマホだった。
サンカがスマホに触ると、画面がついた。
「あれ?」
しかし、開いたとたんメモの書かれた画面になり動かなくなった。
『絆かな様、あなたはこの世界でケットシーに出会い、この機械のロックを解除する使命があります。さすれば自由になれます』
「え、これだけ?」
サンカがペタペタと触るが、できるのは電源を入れたり、消したりしかできなかった。
「けど、まずはジンに触れさせて、どうなるのか見ましょ」
「え!?触るの?」
「あったりまえでしょ。そうしないと、どうすることもできないんだから」
そうなんだけれども。
説明の一つも無しに、使命を渡されて、自由になれるとか書かれていても、信頼性がない。
けれども、かなを殺そうとしているわけではないとは思う。
「けど、まずはかなと話してからの方がいいんじゃないか?」
「私なら大丈夫」
「「うわ!?」」
いきなり机の下から、ひょっこりと顔を出したかなに、俺とサンカは驚きの声を上げた。
「ちょっと、なんであんたがここにいるのよ!」
「いけないの?」
「だって、明らかにあんたには聞かれたくないような雰囲気だったじゃない!」
「修行で、私がログアウトするか確認してたのは初めて知っただけで、他のは前々から聞いてたやつだし」
混乱した顔でおばさんのほうを向くサンカ。
「いやー、修行のあれも、ついでがてらやってただけっだたし、気を悪くしたりしたら悪いと思って、席を離してもらったんだがね。……かな、悪かったね」
「気にしてない。赤の他人なのに置いてもらってる私が、気にかけていなかったのが悪い」
かなはそう言い、近くにあった椅子を持ってきて、机に置いた。
その間に、おばさんはもう一つお茶を用意して、かなの前に置いた。
「ジン、私なら大丈夫だからそのスマホに触って」
「わかった」
かなに言われ、俺はスマホに触る決心をした。
サンカからスマホを受け取ると、画面が先ほどとは違い、たくさんの数字が流れていき、最終的に装備や、ステータスや、設定などが表示されたメニュー画面が表示された。
「これって……」
「私たちのメニュー画面と同じやつよね。ログアウトと設定の欄がないだけで」
横で覗き込んでいたサンカがそう言った。
そして、いきなりスマホから声がしだした。
『……あー、あー、テステス。聞こえていますかね』
「な、なんだ?」
『お、聞こえていますね』
少し高い、男性の声がする。
しかも、こっちの声が聞こえている。
「だ、誰ですか?」
『それは、後で話します。混乱しているかもしれませんが、落ち着くまで待つ義理もないです。良いですか?』
そう言うと、彼は話し始めた。
『まずは、弊社のシステムを購入していただきありがとうございます。こちらからの再同意条件であるケットシーを見つけていただいたことにより、これからステップ2に移行さしていただきます』
「ステップ2?」
『安心してください。しっかりと説明さしていただきますよ』
こちらの声は聞こえているようだ。
『ステップ2。それは、現実世界にある精神をすべてデジタル化して、こちらの世界に持っていきます』
精神?
「どういうこと?もっと簡単に教えなさいよ」
サンカがそう聞いた。
『ふむ、ではもう少し簡単にいきますね。現実世界の絆かな様の体を削除。まあ、殺すという感じですかね』
周りが動揺した。
「かな、どういうこと!?」
「わ、わからない。さっきの話もよく分からないし。私、死んじゃうの?」
『ん?……安心してください、そちらのかな様は死んだりはしないので安心してください』
「安心じゃないわよ!そんな事しなくても、ゲームの中には入れるじゃない!」
『長時間だと生命維持でコストがかかりすぎます』
「だとしても、今のかなはこの世界に入ってから記憶がないんだ。一旦記憶を戻してからの方がかなも納得するし、どうしてこんな事になったかも分かるし、まずはそっちからなんじゃ……」
『…………』
スマホから声がしなくなり、奥からカタカタとキーボードを叩く音が小さく聞こえた。
「あれ、声がしなくなった?」
サンカは、スマホをジロジロ見た。
『ええっと……。コホン、こちらの不手際があったようで、記憶はログアウトしない限り戻らないようです』
また、とんでもないことを言ってきた。
『しっかりとログアウトの仕方は教えますので、そちらに沿ってもらえれば……たぶん大丈夫ですっ』
「急に自信が無くなったな」
『まあ、何千回、何万回実験したのにミスが発生するなんて……そりゃ、自信もないですよ……はぁ』
そんなこと言いながらため息が聞こえた。
なんか急に気が抜ける感じになった。
「で、ログアウトの方法を聞きたいんだけど」
『おっと、そうでした』
サンカの言葉で思い出したかのように話し始めた。
『まあ、簡単な話、とある場所まで来ればいいです。けど、その場所というのがちょっと難しいところなんですが……』
「その場所は?」
『今の所の最強モンスター、海神レヴィアタンののいる祠ですね』
「あ、あそこね」
『今のかな様のレベルですと、長時間がかかると思いますが、それまでの間かな様の身は、こちらが異常の無いようにします』
「少し急げば今日中に着くわね」
『そうですか、今日中……今日中!?』
「そうよ、あんなとこ何十回の行ってるからすぐに着けるわよ」
『えぇっと、じゃあ、よろしくお願いします』
なんか、危機感がすごい薄れてきたというか、なくなってる感じがする。
『では、また私に連絡する際は、スマホの電話の欄をお使いください』
そう言うと、画面に電話と書かれた欄が現れ、通話が終わった。
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