第5話・もはや人類の敵

現実世界に戻ると、さっきまであった疲れが綺麗サッパリ消え去っていた。

まぁ、精神面は疲れ切ってはいるが……。

まさか、三花もといサンカがあれほどにまで化け物じみてるとは思いもしなかった。

攻撃一発で森一帯を更地にできるなんて、もはや兵器だろ。

ゲーム開始すぐに実力の差を思い知らされるとは……。

まあ、このままあいつに引っ付いてレベルを上げるのが楽かも知れないが、それはあいつのヒモなった感じがして嫌だ。

やはり、一人で近くの森とかで戦うか。

「純ちゃんご飯できたわよー」

などと考えていたら晩飯ができたようなので、その事は後回しにしよう。

階段を降りてリビングに行くと、カレーの匂いが漂ってきた。

「しかし純ちゃん、猫ばっかりだったのに、FDフルダイブゴーグルが来たとたんゲームばっかりになったね」

「三花と一緒にやってるだけだけどね」

ご飯を食べながらそんな話をしていく。

「純ちゃんがそんなにはまるなんて、私達もやってみようかしらね、あなた」

「……ん」

そう小さく頷いたのは俺の父さんの三河 凱みかわ がいだ。口数は少なく、母さんの尻に敷かれている感じだ。

……って。

「そんな二つも変えるお金あるの?」

「さっき、当たった景品一覧でFDフルダイブゴーグルがあったからもう一台はもう手に入れている感じね」

何だろう、自分の母親が化け物じみてきた。

そんなこんなで親がゲームに参戦することになった。

夕飯を食べ終えた俺はまたゲームの中へ入っていった。

NAFではどこからログアウトしたり、強制的にゲームから落ちても大丈夫なように、近くの町の中心にある塔付近に出現する。

ゲームの中ではまだ朝で明るかった。

町に出現したら町の探索したいという好奇心を押し止め、町を出て近くの森へと進んだ。

さて、いざ一人で行くとなるとすこし怖かった。

実際の世界と何ら変わりがないし、視界も一人称だし、背後が振り向かないとわからないのは心もとなかった。

しばらく進んでいると、近くの草がガサガサと音を立てて揺れモンスターが出てきた。

「うわ!」

慌ててそっちを振り向こうとし、足を滑らし転んでしまった。

ここまでリアルにしなくても……。

モンスターとの距離が近い。

ていうか、サンカと一緒の時は近くで見れなっかたけど、モンスターって、可愛らしい見た目してるな。

目の前にいるのは、人間サイズのウサギっぽい見た目をしたモンスター。

けれども口には可愛らしくない牙がびっしり。

このゲームは不親切ながら敵の名前も、HPバーとかも表示されない。

しかもこっちは、遠距離ぐらいしか攻撃手段がない魔法使い。

万事休すか、まさか初戦闘の敗因が転んで襲われましたかよ。

それでも最後の抵抗で持っていた杖をブンブン振り回す。

ウサギには当たるが怯みもしない。

攻撃を食らったら痛いのかな?

たしか調整があるとか言われてけど見てないな。

そんなことを考えていたらウサギの蹴りが飛んできた。

「……っ!」

攻撃を防ごうと両手を覆った。

「ピギィ!!」

ピギィ?

そんな声以外、痛みもこなった。

「君、大丈夫だったか?」

そんな声がして腕をどけてみると。

「は?」

猫耳のメイドが立っていた。

いや、声は男性なんだが女性のような胸がある。

やばい、情報量が多すぎる。

「えーっと、あなたは……億万おくまんさん?」

頭上に表示されているプレイヤーネームを見て、そう言った。

「いかにも、俺は億万!ヒーローだ!」

ヒーローってよりもメイドなんですが?

「えーっと、助けていただきありがとうございます」

「ヒーローとして、困っている人を見つけたら助けるのは当たり前だ」

こんなにも見た目と声があっていないだけで、変な感じになるものなんだな。

「ところで君、位置情報が特定の人物に送られる魔道具を持っているかい?」

「何ですかそれ?」

そういうと、億万は険しい顔になった。

「なら君、最近ストーカー被害とかゲーム内で、あったりはしてないかい?」

何かおぞましい単語が出てきたぞ……。

「えーっと、初めたばかりなのでそういうのは無いですかね」

「じゃあ、最近他の人にアイテムを、特に装備品を貰ったとかは?」

そう言われて、サンカからもらった防具を思い出し、目線を防具に向けた。

「初心者にしては強そうな防具だとは思ったがやはりそれが原因か」

「けど、これは友達からもらったもので……」

「友達が入手した時からもうある場合もあるから少し調べさしてもらえるか?」

そう言うと何かの機械を装備に当てると、警告音と共に装備から何か小さなものが取れて、ボンッと破裂した。

「よし、これで安心だろう」

「あ、ありがとうございます」

「じゃ、俺はもういくぞ!」

そう言って億万は帰ろうとしたが、いきなり飛び出してきたサンカの飛び蹴りを食らい、吹っ飛ばされ木にぶつかり止まった。

え?え?どういうこと?

「反応があっ来て見れば、よくわからないやつに絡まれて……」

サンカはそういうと腰につけていた銃を取り出した。

「私の渾身の蹴りで死なないあたり相当強いわね。ジン!」

「は、はい!?」

「こいつは私が相手するからそこらへんで隠れてて」

そして、声をかける前にサンカは地面を蹴り、億万に近づいた。

一瞬のうちにサンカは距離を詰めようとしたが億万が立ち上がり、横へ飛ぶ。

サンカは銃口をそちらに向けて発砲。

億万はいつの間にか握っていたナックルのようなもので弾く。

弾かれた銃弾は億万の横で爆発。

「うぉ!」

「………」

ふっ飛ばされた億万のスキをサンカは見逃さずに、背中についていたのレーザーとミサイルで攻撃。

爆発音と砂埃が舞い億万は見えなくなった。

間髪入れずにサンカはレーザーをオーバーヒートするまで連射した。

どんだけ武装持ってんだよ……。

「……ふぅ」

サンカは銃を煙の方に向けたまま息を吐いた。

「あれだけの攻撃をしてもまだ耐えるとか、ラスボスよりもラスボスしてんじゃない」

「いやいや、そっちこそ攻撃が桁違いですよ。ストーカーさん」

そんな億万の声がし、砂煙が晴れるとそこに立っていたのは白い特撮でよく見るヒーロースーツだった。

「これこそ、俺の変身姿!さぁ!かかってこい!」

億万は鉄の拳を打ち付けた。

そして第2ラウンドが始まった。

サンカは先程と同じように銃で攻撃。しかし、億万はそれを弾きもせず体で受け止める。

先程とは違い、爆発しても吹っ飛ばされず近づいて来る億万を見て、サンカはブレードに持ち替えた。

「ふん!」

億万のパンチが飛ぶ。

その衝撃は、地面を抉り木々を薙ぎ倒した。

その攻撃をサンカはギリギリの所で、背中のレーザーをブースターに切り替えて回避していた。

「……切り替え『あお』!」

いきなり億万がそういうと億万の姿が見えなくなった。

いや、目を凝らすと青い何かが高速で動いてサンカに攻撃をしている。

けれどもサンカには見えているらしく、ブレードで応戦していた。

速すぎてなにをしているのか分らない。

そんなのを見た俺は良い時間になったのでゲームを終わる事にした。

その後、2人がどうなったのかは知らない。

ログアウトし、機械を仕舞い俺は寝た。

次の日、学校に着くと転校生が来るとの事で教室がいつもよりざわついていた。

三花は昨日の戦闘のせいか、疲れ切った顔をして机に突っ伏していた。

「三花、大丈夫か?」

「途中で帰った純はユルサナイ……ユルサナイ……」

ま、まあ、元気はあるようだ。

そうこうしていると担任の先生が教室に入ってきて、後ろには高身長ですらっとした少年がいた。

周りの女子生徒が少しざわつく。

先生に名前を書くように言われ、少年は黒板に名前を書く。

綺麗な字で書かれたその名前は大絶景

「俺は、大絶景だいぜつけい億万おくまん!よろしく!」

「「はぁ!?」」

三花と俺はそんな声を上げて、周りの注目を浴びた。

え?偶然……?

隣の三花も目を丸くしている。

ホームルームが終わり、俺と三花は億万の席に行く。

「あ、さっき声上げてたけど……何処かで会ったかな?」

「ジン、サンカ、この名前に聞き覚えはない?」

三花は単刀直入にそういうと、億万が眉を潜めた。

「まさか、昨日NAFで会った……ストーカーとその被害者⁉」

「あの後相打ちになったあとしっかりと誤解だったって言ったじゃん!」

「冗談だ、リアルでそんぐらい仲が良ければ信じるよ」

億万はかっこいい笑顔を見せた。

「信じてもらえれば大丈夫よ……ふぅ……」

「……なんか汗出てるぞ三花?」

「だ、だだだ大丈夫よ!ハハハ」

俺がそう言うと三花は腕で汗を拭った。

その後、億万と三花はゲームの話で盛り上がり、昨日のが嘘のように仲が良くなっていた。

その中に俺もいたが、専門用語が多すぎてよくわからなかった。

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