第19話 犯人発見【小作視点】

「……ん?」


 火曜日、深夜2時。

 その日、私はいつものように残業をしていた。

 ここ毎日のように、市街地へ魔物を召喚している、不届き者を探すために。街中の監視カメラを再生して、怪しい人物がいないかを見張っていたのだ。


 毎日続くハードな残業。

 正直、勘弁してほしい。

 さっさと犯人には自首するか、見やすい場所で召喚を行ってほしい。そんなことを考えている最中、ついに犯人と思わしき人物を発見した。


「これは……犯人だよね……?」


 カメラの切れ端に、その男は映っていた。

 片手に樫の長杖を持ち、杖の先端が光っている。

 ローブで顔は見えないけれど、間違いなくこの男だ。


 ……いや、待て。断定するのは軽率だ。

 これまでに何度も監視カメラを見てきたけれど、今日に至るまで一度も姿を現さなかった。それが今日になって、露骨に姿を現した。どう考えたって、おかしいことだ。


 これは……何かの罠かもしれない。

 あえて私たちのことを、おびき寄せる為の。

 何が目的かはわからないけれど、軽率な判断は危険だ。


「他の映像には……うん、映っているね」


 他の監視カメラの映像を見ると、同じくその男が映っていた。

 別の場所、別の角度からでも、明らかに同一人物であることが確認できる。だが、その動きはあまりにも露骨。あたかも「ここにいるぞ」とアピールしているかのように。


「怪しすぎる……。でも、これを見逃す手はないね」


 他に手がかりもないので、とりあえずこの男について調査することにしよう。そう考え、私は監視カメラの映像をより鮮明に映した。綺麗な画面に映すことで、この男が発動している魔法が何かわかるだろうから。


 映像の粗をツールで取り除き、確認する。

 男が使用しているのは……ごく普通の召喚魔法だ。

 特筆すべき点のない、ごくありふれた召喚魔法だ。


 普通であれば、こんな召喚魔法でSSS級の魔物を召喚するなんて、まず不可能だ。よっぽどの実力者でなければ、そんな芸当は不可能だろう。少なくとも魔法師協会に登録している魔法師たちでは、まずできない芸当だ。


 それ故……悪寒が走ってしまう。

 つまるところ、この男は……トンデモない実力者ということになる。

 SSS級の魔物を、容易く召喚できるほどの実力者ということになる。


「もしかすると……霜野さんよりも強いかもしれないね……」


 考えないようにしていた言葉が、ついつい紡がれてしまう。

 そんなことはない……と断言したい。

 だけど、心の中で……信じ切ることが出来ない。


 大丈夫、霜野さんは強いから。

 だけど、敵はSSS級を容易く召喚できる。

 2つの感情が、胸中でごちゃ混ぜになってしまう。


「……ダメだ。少し落ち着こう」


 席を立ち、私はコーヒーを買いに向かった。

 これ以上、悪い妄想をしないためにも。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

「だけど……どうして、このタイミングなんだろう」


 上長にこの男の報告をし終えた後、私の小さな呟きが職場に響いた。深夜3時。この時間はもう私以外誰もいないので、何を呟いたって誰にも聞かれない。


 あの男が、このタイミングで姿を現した理由を考えていた。

 これまで一度たりとも姿を現さなかったのに、今回は露骨なまでにわかりやすく姿を現している。その理由が何なのか、答えが出なくても私は考えていた。


「何か……重要なタイミングだったのかな?」


 そう考え深めると、ある仮説が頭をよぎった。もしかすると、この男が姿を現したのは、私たち魔法師協会、あるいは霜野さん個人に対する何らかのメッセージかもしれない。単なる魔物の召喚だけではなく、それを通じて何かを伝えたい、何かを促したいという意図があるのかもしれない。


 よくよく考えれば、SSS級を単独で倒せるのは現状霜野さんだけだ。

 だったら霜野さんに対し、なんらかの個人的な恨みを有していても不思議ではない。魔物の出現頻度やマップを見てみると、霜野さんがいる近くにSSS級の魔物がよく出現しているみたいだ。


「もしそうだとしたら……一体、何を伝えたいんだ?」


 ふと、霜野さんのことを思う。

 彼はいったい、誰に何の恨みを売ったのだろうか。

 SSS級の魔物を召喚され続けるなんて、半端じゃない恨みだ。

 それも彼だけではなく、日本中の色々な人を巻き込んでまで……彼を殺害しようと考えている気がする。いったい彼とこの男は、どんな関係があるのだろうか。


 コーヒーを飲みながら、ふとした閃きがあった。

 この男の目的が何であれ、彼の動きを追い続けることで、その意図を解き明かす手掛かりが得られるかもしれない。そして、その過程で霜野さんや協会を守る手がかりが見つかるかもしれない。


「とにかく、今はこの男の動向をしっかりと監視し続けることが先決だ」


 決意を新たにし、私はもう一度デスクに向かった。

 この謎を解明するために、そして何よりも大切な人々を守るために、私はできることを精一杯行う。それが私の使命だと、心に誓ったのだった。


 と、そんな時だった。

 私のパソコンに、一通のメールが届いた。

 こんな時間に、一体誰からだろう。

 

『拝啓、魔法師協会様。並びに霜野宗吉様。

 この度は私のゲームにお付き合いくださいまして、誠にありがとうございます。

 つきましては、この度のメールにて、宣戦布告をさせていただきます』

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