第17話 ゲーム【小作視点】

【小作視点】


「くぅ~霜野さん強いですね!!」

「いえいえ、そんなことないですよ」


 土曜日、私は霜野さんの家にお邪魔していた。

 なんでも、新作のゲームを一緒にしたいからだそうで。

 私もそのゲームは楽しみにしていたので、お言葉に甘えてお邪魔させていただくことにした。


 一緒に霜野さんと対戦ゲームで遊ぶ。

 ただそれだけのことが、どうしようもなく楽しい。

 好きな対戦ゲームだから? それとも──


「小作さん、足元がお留守ですよ!!」

「え、あぁッ!!!??!?」


 はしたない悲鳴が、霜野さんの家に響く。

 あぁ、もう……また負けてしまった。

 もっと集中しないと。


「はぁ……また負けちゃいました」

「あはは、少し疲れましたか?」

「えぇ……そうかもしれません」

「疲労に効く紅茶を用意しますね」

「え、そんな!! お構いなく!!」

「小作さんはいつも頑張ってますから。今日くらいはもてなしますよ」


 霜野さんは優しい。どこまでも。

 こんな優しい人が彼氏だったら、と少し考えてしまう。

 でも……どう考えたって、私じゃ不揃いだ。

 多少学歴があるだけの、私なんかじゃ。


 ふと、部屋を見渡した。

 最近引っ越したらしい、霜野さんの家。

 都内の超高層マンションに住む、霜野さん。

 窓から見える景色は、絶景だ。

 

 それに部屋もとても広い。

 1フロアをそのまま借りているらしい。

 だからこそ、メチャクチャ広いらしい。

 どの家具もオシャレで、価格がわからないほどに綺麗だ。


「お待たせしました。粗茶です」

「あ、ど、どうも……」


 私は恐る恐るカップを手に取り、紅茶の香りを楽しんだ。

 香り高く、一口飲むだけで身体がほぐれていくようだった。


「霜野さん、いつもこんな素敵な紅茶を飲んでるんですか?」

「いえ、特別な日だけですよ。小作さんが来てくれた今日みたいな」


 その言葉に、心が温かくなる。

 え、それって……えぇ!?

 た、確かに霜野さんは素敵だし、カッコいいけれど……。

 で、でも……こ、心の準備が……!!


「小作さんみたいに、好きなものを共有できる人……俺、初めてだったんですよ。だからこそ、今日という日を特別なものにしたくて、こういった洒落た紅茶をご用意しました」

「あ、そういう意味ですね」

「え?」

「友達、的な感じですね。はい」


 ……少し期待した自分が、バカみたいだ。

 最初からそう答えることなんて、わかっていたのに。

 はぁ……バカみたいだ。


「え、と、友達……?」

「え、違うんですか?」

「い、いえ!! そうですね……友達ですね!!」

「……?」


 何故かよくわからないけれど、霜野さんは嬉しそうだ。

 友達、へへ、友達……と、先ほどから呟いている。

 よくわからないけれど、霜野さんが嬉しそうならいっか。


「そうだ、晩御飯もここで食べていきますか?」

「え、そんな。ご迷惑ですよ」

「いえいえ、遠慮なさらないでください。友達なんですから!!」

「そ、それでは……御言葉に甘えて……」


 何故だかわからないけれど、霜野さんの圧が強い。 

 友達という響きが、そんなに気に行ったのだろうか。

 うーん……よくわからないな。


「では、さっそくご用意しますね」


 そういって、霜野さんはキッチンへと消えていった。

 ……しばらくの間、何をしておこうか。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「お、おいしい!!」

「それは何よりです」


 霜野さんの晩御飯は、頬が落ちそうになるほどおいしかった。

 特にこのヒツジのステーキ? がたまらない。


 「霜野さん、このヒツジのステーキ、本当に絶品です!どこでこんな料理を習ったんですか?」

「あ、これは趣味で料理を学んでいて。特に肉料理には自信がありますから」


 彼の答えに、ますます尊敬の念を抱く。

 料理が上手で、ゲームが強くて、優しくて。

 完璧すぎて、目が離せない。ドキドキする。


「こんな素敵な料理を作れるなんて、霜野さんって本当に多才ですね」

「いやいや、ただの趣味ですから。でも、小作さんにそう言ってもらえると嬉しいです」


 その微笑みに、心がキュンとする。

 こんなにも素敵な人と一緒に働けて、それに友達として気に入ってもらえているようで、まるで信じられない。


 食事を終えて、私たちはまたリビングに戻り、先ほどのゲームを再開した。

 今度は私が霜野さんに勝てるように、必死に練習した成果を見せようと心に誓う。


「小作さん、今度は僕が負けそうですね」

「え、本当ですか!? やった!」


 私が初めて勝った瞬間だった。

 霜野さんは負けたにも関わらず、嬉しそうに笑っていた。

 その笑顔を見ていると、思わず動悸が激しくなる。 

 

 え、私……まさか、霜野さんのことが!?

 い、いや……うん、薄々気付いていたけれどね。

 だけど……うん、やっぱり驚きは隠せない。


 今に至るまで、私は誰とも付き合ったことがない。

 それどころか、誰かを好きになったことが無かった。

 だからこそ……胸に抱いた感情に、動揺してしまう。


 そっか、私……霜野さんのことが好きなんだ。

 それに霜野さんも……きっと、私のことを嫌っていないハズだ。

 自分の家に、私を招いたのだから。


 ……って、そうだ!! 招かれたんだ!!

 ど、ど、どうしよう……!!

 きょ、今日の水着……地味なんだけど!!


「小作さん?」

「ひゃ、ひゃい!?」


 思わず、声が裏返ってしまう。

 あぁ、何て恥ずかしいんだろう。


「続きをしましょう」

「は、はい!!」


 そして私は、ドキドキしながらゲームを再開した。

 ……結局、その日は夜に返され、襲われなかった。

 ……少しガッカリする自分が、心の中にいた。

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