第14話 憧れの人との邂逅

「は、初めまして!! 雷豪さん!!」


 上擦った声で、そんな言葉を叫ぶ。

 多くのカメラが俺を捉える中、緊張が解れない。

 慣れぬ環境で、憧れの人と邂逅しているのだから。


 俺が名を呼んだその人は、優しく微笑んでいた。

 あぁ……やっぱりカッコいいな。

 2メートルを超える長身に、筋骨隆々な肉体。

 あの頃憧れた、雷豪剛らいごうつよしその人が、そこにいた。


「あはは、どうぞお座りください」

「は、はい!! 失礼します!!」


 雷豪さんに促され、ソファーに座る。

 あぁ、なんて柔らかいソファーなんだろう。

 いい素材を使っているんだな。


 その日、俺はテレビ局にいた。

 内容はというと、雷豪さんとの対談だ。

 憧れの人と話す機会を得られたとのことで、俺は二つ返事で了承した。そして今、俺は雷豪さんと対面している。


 雷豪さんは現在、魔法師として活躍する傍ら、テレビ業界でも活躍している。マルチで活躍するS級魔法師として、お茶の間でも大人気の人物なのだ。今回俺が呼ばれたのも、雷豪さんがMCを行っている番組だ。


「SO吉さん、お会いできる日を楽しみにしていました」

「は、はい!! 俺もです!!」

「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「で、でも……憧れの人と、こうして話できるんですから!! 緊張するなという方が無理ですよ!!」

「あはは、嬉しいこと言ってくれますね」


 嬉しいのは、こちらの方だ。

 子どもの頃から好きだった、憧れの人と対談できるのだから。こんなに嬉しいことなんて、もうあまりないだろう。


「僕もとても嬉しいですよ。最強の魔法師とお話しできるんですから」

「最強だなんて、そんな……」

「いえいえ、名実ともに最強じゃないですか。配信もチェックしていますけれど、僕では霜野さんが最初に戦ったフェンリルさえもソロでは屠れませんよ」

「あはは、照れちゃいますね……」


 憧れの人に褒められ、あぁなんて嬉しいんだろう。

 それに……憧れの人に配信を見られている。

 嬉しさ半分、恥ずかしさ半分だ。


「最近ではダンジョン外に出現する魔物の討伐も、率先して行なっているんですよね? さすがです」

「いえいえ、業務ですので……」

「たとえ仕事であっても、人のためになることをしているんですから。なかなかできることではありませんよ」

「あ、ありがとうございます……」


 口角が上がってしまう。


「さて、少し話は変わりますが……昨今のダンジョン外に魔物が出現する事案ですが、SO吉さんはどのようにお考えですか?」

「どのように、とは?」

「たとえばネットでは、人為的なテロ行為なんじゃないかなどと言われています。正直、こちらに関しては、僕も同じことを考えています」

「そう……ですか」

「昨日魔法師協会では、こちらが人為的である可能性を示唆する発表がなされましたが、SO吉さん個人としてはどうお考えですか?」

「そうですね……。俺も人為的な行為だと思います」


 正直、これに関してはほぼ確定だろう。

 あくまでも現時点では憶測なので協会は発表の言葉を濁しているが、実際はほぼ確定事項として話を進めている。ここ最近小作さんの残業が多いのも、その犯人探しに時間を費やしているからだしな。


 最近は忙しくてネットは見ないが、やはり人為的だと気付く人はいたんだな。雷豪さんの口ぶりから察するに、協会の発表前にそんな推測をしている人がいたらしいな。世の中には察しのいい人が、結構いるんだな。


「具体的な犯人像、などはさすがにわかりませんよね?」

「そうですね。ただ間違いなく、召喚系に特化した魔法師だと思います。それも半端じゃない実力の持ち主であることは、ほぼ確定でしょう」

「なるほど、ありがとうございます。ちなみにこちらの犯人ですが、ダンジョンの上層に魔物が出現する事案の犯人と同一視する声も多数上がっているのですが、 SO吉さんとしてはどのようにお考えでしょうか?」

「これは協会の意見ではなく、俺個人の意見なのですが。俺も同一人物だと見ています」


 これに関しては、まだ協会は発表していない。

 ただおそらく、近々発表することだろう。

 ほぼ間違いなく、同一人物なのだから。


「なるほど、ありがとうございます。続いてですが……その犯人は相当な実力者だとSO吉さんはおっしゃいましたが、果たしてSO吉さんは勝てますか?」

「えぇ、勝てます。勝って見せますよ」

「おぉ!! なんと力強い発言でしょう!!」

「魔法師協会として、テロ活動は見過ごせませんから」


 多くの人々の命を奪い、未だ姿を表さない犯人。

 相当な強者だという話だが、そんなことは関係ない。

 俺が必ず、仕留めてやる。


「いやぁ、テレビの前のみなさん!! 日本の未来は明るいですね!!」

「あはは……」

「SO吉さんがいれば、怖がる必要はありません!!」

「あ、あはは……」


 雷豪さんの強い言葉に、俺は笑うことしかできなかった。元々頑張るつもりだったのだが、テレビでそう宣言されると……プレッシャーが半端ないな。これは……頑張らないとな。


「それではみなさま、一旦CMです!!」

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