第13話 犯人探し【小作視点】
【小作視点】
「犯人像が……全然わからない……!!!!」
連日の魔法陣召喚事件、およびダンジョンの上層で不相応な魔物が出現する事案、この二件は同一犯による反抗だと協会は考えている。そこで警察と連携して犯人探しを行なっているのに、全く進展がない。
被害者の方々に不審者がいなかったか聞いても、特にそんな人物は見受けられなかったと言われる。魔力探知で不自然に魔力を解放している人物がいないか調べても、特にそんな人物は見当たらない。
調べても、調べても、犯人が見つからない。
いったい犯人は、どこにいるんだろうか。
そもそもこの事件に、犯人はいるんだろうか。
「……いや、犯人はいる。絶対に!!」
そんな呟きが、深夜の職場に響き渡る。
そうだ、犯人は絶対にいるんだ。
上塚成美さんも、霜野さんも、確信しているんだ。
魔法師の直感は、よく当たるんだ。
だからこそ、余計にわからない。
ここ2週間、国家機関が総力を尽くして捜索しているのに、こんなに見つからないなんてことがあり得るんだろうか。何かトンデモないことを、私たちは見落としているんじゃないだろうか。
「……頭がオーバーヒートしそうだね」
考えれば考えるほど、疲れてくる。
とりあえず、今は少し休憩しよう。
脳のためにも、少しは休んでしまおう。
そう思い、私は立ち上がった。
確か近所のコンビニに、新メニューが追加されたハズだ。とても甘くて、美味しいデザートが追加されたハズだった、それでも食べて、少し休憩しよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ウルゥウウウウウウ!!!!」
私は今、絶望の淵に立っていた。
コンビニで買い物を済ませ、その帰り道。
目の前の地面に、魔法陣が浮かび上がったんだ。
そこから現れたのは、2メートルを超える人狼。
いわゆる、キラーウェアウルフだ。
その強さはS級と、フェンリルに並び立つ。
私のような人間なんて、容易く屠れるだろう。
そんな魔物が、住宅街に出現していいわけがない。
そんな、どうしてこんな時に。
タイミングが悪すぎる。
いや、本当に……最悪だ。
「あ、あ、あ……」
声にならない叫びが、喉から漏れる。
絶望、という言葉はこういう時に使うんだろう。
数々の対策を頭の中で練るけれど、どれも上手くいく未来が見えない。知識だけなら一般人よりも豊かだと自負しているけれど、力がないからどうしようもできない。
キラーウェアウルフは舌なめずりをして、こちらを見つめてくる。そこに敵意などなく、ただ私は獲物として見られている。肉の詰まった美味しそうなご馳走として、私のことを見つめている。
「あ、あ、あ……」
魔法協会の本部で、魔物被害に遭われた方々の対処は行なっていた。亡くなられた方などにはご冥福を祈ったものだけど、その最期の絶望感までは理解していなかった。そうか、こんなにも……無力感で泣きそうになるものなんだね。
何もできない、私は無力だ。
何をしても、きっと無駄だ。
私は今、何もできずにいた。
「ウルゥ……!!」
キラーウェアウルフがその手を伸ばし、私の頬にゆっくりと触れてくる。決して攻撃する意図は見えなかったけれど、その爪が鋭すぎて、頬が少しだけ切れてしまう。一瞬痛みで怯むけれど、そんな痛みはこの恐怖に比べれば些細なものだ。
物色するように、キラーウルフが私の身体を撫でてくる。その鋭い爪は適宜私の身体を傷つけるけれど、そんな痛みで身動きできる状況にはいない。少し痛いくらいでは、今の私は動けない。
「ウルゥ……!!」
ニタァと笑い、キラーウェアウルフはその口を、大きく開いてきた。涎をダラダラと垂らし、焦らしに焦らした機会を堪能するようにして、その口元を私の頭に近づけてきた。
そうか、私はここで死ぬのか。
あぁ、あっけないな。情けないな。
魔法師協会の職員が、魔物に食われて死ぬなんて……なんてツマらないジョークなんだろう。こんなジョークでは、誰も笑ってくれないだろう。
そして、キラーウェアウルフは私の頭を──
──齧ることはなかった。
「《光速拳》」
一瞬、眩い光が視界を占領した。
瞬間、生暖かい液体が、私の頭に付着した。
目を開けると──
「大丈夫ですか、小作さん」
拳を握りしめる霜野さん。
その前には、爆散したキラーウェアウルフの姿。
どうやら私は、彼に助けられたみたいだ。
安堵、そして感謝の気持ちが湧き上がってくる。
過度な緊張が解れ、その場にへたり込んでしまう。
あぁ……よかった。生きていて。
「あ、あ、ありがとうございます……!!」
思わず涙を流して、私は感謝を伝えた。
本当に……彼のおかげで、私は生きている。
そのことがどうしようもなく、嬉しかった。
彼には感謝しても、しきれない。
だからこそ、涙を流して感謝を述べる。
あぁ……本当にありがとうございます。
「いえいえ、どういたしまして。そんなことよりも、スーツを汚してしまいましたね」
こんな汚れたスーツのことなんて、もうどうでもいい。
今はただ、私は彼への感謝でいっぱいだった。
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