第12話 危険な日々【成美視点】

【成美視点】


「ふぅ……」


 魔物を打ち倒して、私は一息吐いた。

 その辺の瓦礫に腰掛けて、再度一息吐く。

 この疲労を吐露するように、もう一度一息吐く。


 この一週間、毎日のように魔物を倒している。

 別にこれがダンジョンないなら何も思わないけれど、残念なことに私は市街地で戦っている。レッドケルベロスを宗吉さんが倒して以降、毎日のように魔物が出現するからだ。


 幸いなことに、出現する魔物はレッドケルベロスよりも断然弱くて、B級程度の魔物ばかりだ。だからこそ宗吉さんや他の魔法師とは散り散りになり、ソロで全国の魔物を討伐している。今回私がやってきたのも、家から100キロほど離れた別の県だ。


「毎日1000人規模で人が亡くなっているし、このままずっと続くなんて……絶対に嫌だよ……」


 どうして、魔物が市街地に出現するのか。

 その理由に関して、未だに協会は判明できていない。

 早く原因を追求して解明しないと、被害者は雪だるま式に増えていくばかりなのに。魔法師じゃない一般人の方々は、今も震えて眠っているというのに。


 私や宗吉さんは、魔物の出現現場に急行している。

 だけど、どれだけ急いだとしても、やっぱり遠い場所だと10分が現着までかかってしまう。10分もかかってしまうと、被害者はどうしたって免れない。


 私も全力で最善を行った。

 だけど、それでも……助けられない命がある。

 そのことがどうしても、悔しい。


「人為的だとしたら、絶対に……許せないな……」


 この事件を起こしている犯人が誰かは、現状わからない。だけど犯人が特定されたら、私はきっと……その犯人を許すことができないだろう。理性を失い、激昂してしまうかもしれない。


 何人たりとも、命を奪ってはいけない。

 どんな理由があろうとも、それは絶対の掟だ。

 犯人はソレを破った。だからこそ、許せない。


「……あ、またか」


 スマホに通知が届き、確認すると協会からの連絡だった。ここから少し離れた場所に、また魔物が出現したらしい。大暴れしていて、被害が拡大しているらしい。


 私はふぅっと息を深く吐き、現場に急行した。

 一人でも多くの命を救うために。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「みなさん、こんばんは〜」


 その日の夜、私は配信をしていた。

 何故だかわからないけれど、夜の間は魔物は出現しない。だからこそ、私の自由時間は夜だけであり、この時間を逃すと配信できる時間がなくなってしまうのだ。


 配信を始めると、大勢の人々が配信に集まってくれる。

 救助のために活躍していると、大勢の亡くなられた方を見ることになって、どうしても気持ち的に疲弊してしまう。だからこそ、こうして配信を通じて人と話す機会が、私にとってのカンフル剤となるのだ。


(ナルミ!! 久しぶりだな!!)

(おいおい、大丈夫か? 顔色悪いぞ?)

(おじさん、心配ダナ!! ナンチテ!!)

(……ったく、しょうがねぇ女だな。相談に乗ってやるよ?)

(どしたん? 話聞こか?)


(ナルミ、マジで俺心配だよ……)

(俺も……最近ずっと頑張ってるんだろ?)

(お前がいなければ、俺たちは死んでたかもしれない。マジで感謝しているぜ、ナルミ!!)

(だから、お前も無理するなよ!! お前の配信がなくなったら、俺たち悲しいんだからな!!)


 みんなが私のことを心配してくれている。

 その事実だけで、思わず泣きそうになる。

 彼らのためにも、絶対に救助活動は続けないと。


 それにみんなのジョークも、心に沁みる。

 私を心配させまいと、少しでも笑顔にさせようという気概が伝わってきて、ありがたく思う。こんなに優しい彼らを死なせるわけには、絶対に行かない。なんとしてでも、救助活動は続けなと。


「ごめんね、みんな。毎日心配ばかりかけて」


(いやいや、いいんだよ!!)

(むしろ感謝してるぜ!!)

(そうそう!! ナルミのおかげで、俺たちは生きてるんだからよ!!)

(ありがとう、ナルミ!!)


「えへへ、みんな優しいね」


(うッ……笑顔が眩しい……)

(浄化……しちまうぜ……)

(グギギギ……さようなら……)

(あぁ……極楽だ……)


 大袈裟だな、みんな。

 でも、その反応に救われる。

 私を笑顔にさせてくれる。


 この10万人の視聴者の中には、家族を失った人も大勢いるだろう。ソレなのに悲しい雰囲気は一切出さずに、私を励ましてくれる。彼らはどこまでも私想いで、どこまでも優しい。


「それにしても……許せないよね。こんなに毎日魔物を召喚するなんて、人として終わってるよ!!」


(え、人為的なことなのか?)

(↑そりゃ、魔法陣から出現してんだろ?)

(ダンジョン内ならともかく、市街地は召喚術師による人為的なテロだろうな。何にせよ、許せねェよ)

(犯人の顔見たら、ブン殴っちまうぜ!!)


「いやいや、みんなは危害加えちゃダメだよ!! みんなの代わりに、私が成敗するから!!」


(……ったく、勇ましい女)

(そこに痺れる憧れるゥー!!)

(……ったく、カッコいい女)

(ナルミ!! 期待しているぜ!!)

(俺たちの分までブン殴ってくれ!!)


 ……そうだ、悲しんでいる場合じゃない。

 彼らのためにも、一刻も早く犯人を探さないと。


「うん、任せてよ!!」


 そして私は、ピースで彼らに答えた。

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