第11話 レッドケルベロス

「「「グルァアアアアアアア!!!!」」」


 けたたましい鳴き声が、街中に轟いてる。

 コンクリートは震え、ガラスは割れる。

 悪魔のような鳴き声が、轟いている。


 その鳴き声の正体は、3つの頭を持つ赤い犬だ。

 血に染まったかのように、毛は真紅に染まっている。

 牙は鋭く、爪は尖っている。6つの瞳は、どれも黒い。

 まさしく地獄から現れた番犬の如き、邪悪な容姿だ。


「……いったいどうして、ここに現れたんだろうな」

「わかりません。近隣住人の話によれば、公園に唐突に魔法陣が現れ、そこから召喚されるように出現したみたいですよ」

「まったく……意味がわからないな」

「魔物がダンジョンから出てきたという話は聞いたことがありますが、ダンジョンから遠い場所で出現したなんて話は聞いたことがありませんね。それも魔法陣で召喚されたなんて、そんな話は初耳ですよ」


 今回、俺とナルミさんはとある通報を受け、現地へとやってきた。その通報内容とは、住宅街に魔物が出現したというもの。その話を聞いて、このように住宅街へとやってきたのだ。


 通報を受けてから10分後、現地へとやってきたが……なんとも凄惨な光景が広がっていた。数々の家々が崩され、燃やされている。崩された家には人が下敷きになっていたり、ボロボロの道路では子どもが泣きじゃくっていたりする。人によっては、トラウマになりそうな光景だ。


「……許せませんね」

「あぁ、そうだな。だが、落ち着けよ」

「はい、もちろんです。でも……腹立たしいですね!!」

「落ち着くんだ。全力で魔法を放てば、甚大な被害が出るからな」


 ここはダンジョンではなく、ただの住宅街だ。

 故に全力で戦えば、甚大な被害が出るだろう。

 だからこそ、このケルベロスへの怒りは抑えて、冷静に対処しなければならない。


「ナルミさん、今回は俺が対処します。ナルミさんはその間、被害者を助けてあげてください」

「わかりました。確かにその方がいいですね」


 そして俺は、ケルベロスの前へと立った。


「「「グルァアアアアアアア!!!!」」」

「覚悟しろよ。さっさと終わらせてやるからな」

「「「グルァアアアアアアア!!!!」」」


 ケルベロスは3つの頭で、火球を放ってきた。

 3つの火球は俺を追撃してくるが、どうということはない。いつものように瞬きの爆風で火球を掻き消し、高く舞い上がった。そして──


「《光速拳》!!」

「「「グルァアアアアアアア!?!?」」」


 爆発四散。ケルベロスは死んだ。

 飛び散る肉片と鮮血が、皮肉にも燃え上がった家々を鎮火させていく。その代わり、異臭はすさまじが。


「終わりましたよ、ナルミさん」

「い、一撃だなんて……さすがですね」

「いえいえ、たかがケルベロスですからね」

「……あれはレッドケルベロスですよ?」


 レッドケルベロス?

 聞いたことのない名だな。


「簡単に説明すると、ギガケルベロスの上位種です」

「へぇ、だったら大したことないですね」

「……キングヒュドラよりも強い魔物ですよ?」

「……え?」


 そうなのか?


「この間の配信を配信を拝見させていただきましたが、その腕輪の効力はやはり凄まじいですね。あのレッドケルベロスをいとも簡単に、それも一撃で粉砕できるなんて」

「あはは……また何かやっちゃいました?」

「えぇ、宗吉さんは一段と強くなりましたよ」

「あはは……」


 そうか、この腕輪を装着しての初めての実践だったが、キングヒュドラ以上の強さを誇る魔物を一撃で屠れるほど強くなったのか。なんだかとても、感慨深いな。


「さて、そろそろ被害者の救出は終わりです──ん?」


 その時、俺とナルミさんのスマホから同時に通知音が鳴った。スマホを開き、通知を確認すると──


「え!? 西区にもレッドケルベロス出現!?!?」


 ここから役5キロ離れた場所で、レッドケルベロスが出現したことを知らせる通知だった。ナルミさんと目を合わせて、アイコンタクトを取る。


「「行きましょう」」


 俺たちは大急ぎで、西区へと駆けた。

 公共交通機関を用いるよりも、俺たちの場合は走った方がずっと速いから。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「しかし……どうして、こんな短期間に2匹もレッドケルベロスが出現するんでしょうか。それもこれまでに例のない、召喚魔法なんて手段で」


 レッドケルベロスを討伐後、俺とナルミさんは市民の救出を終え、そんなことを話していた。正直、俺にも理由はさっぱりわからないが。


「理由はわかりませんが、間違いなく人為的でしょうね」

「そうですね。ダンジョンのように自然に魔法陣が出現するなんて、まずあり得ませんものね」

「えぇ、そうです」

「しかし、そうなると……犯人は相当な悪人ですね」


 いったいどんな恨みがあって、レッドケルベロスを召喚したのだろうか。いったい何が目的で、レッドケルベロスを召喚したのだろうか。考えども考えども、答えは出ない。


「それに……私、許せません」

「えぇ……そうですね」

「罪のない人々に……危害を加えるなんて!!」

「……度し難いですね」


 俺たちの怒りが、被害地にこだました。

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