第8話 ダンジョン配信 3/3

「「「ゴシャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「メジャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「ギジャァアアアアアアアアア!!!!」」」


 5層のボス部屋に突入した途端、様々な鳴き声が聞こえてきた。まるで3つ束ねたような鳴き声が、それぞれ3つずつ発せられるような、そんな奇妙な鳴き声が。


 声の主に視線を送ると──目が合った。

 

 頭から尾まで、おおよそ50メートルを超える巨躯。

 9つある頭には、それぞれ王冠が乗せられている。

 紫色の鱗は、ヌラヌラと光を反射している。

 その口元からは鋭利な牙が伺え、さらに緑色の毒液が滴っている。


 18個の黄金の瞳が、俺を捉えている。

 俺のことを、獲物だと認識している。

 舌なめずりをして、視覚で堪能している。

 ……気分が悪いな。


(こ、これが……キングヒュドラ、か)

(通常のヒュドラが10メートルくらいなのに……デケェ……)

(マジで……大怪獣じゃん……)

(え、こんなのと……戦うのかよ……?)


(確かにヤバそうだけど、SO吉なら楽勝だろ)

(そうそう。俺たちのSO吉だからな)

(いけぇ!! SO吉!! 勝てよ!!)

(勝ったら満額赤スパだァ!!)


 一部の視聴者は怯え、多くの視聴者は楽しんでいる。

 別に赤スパのために戦うわけではないが、ここは圧倒して見せないとな。これまで鍛えてきた力、改めて披露してやろう。


「さて、戦うか」


 そして俺は、拳を構えた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「「「ゴシャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「メジャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「ギジャァアアアアアアアアア!!!!」」」


 巨大な身体をウネらせ、キングヒュドラは噛みつき攻撃を仕掛けてくる。その牙が地面に触れた途端、地面は煙を発しながら、ものすごい勢いで溶けていく。ダンジョンの素材は基本破壊不可、という話は……いったいどこにいってしまったのだろうか。


 何はともあれ、流石にあの猛毒に触れるわけにはいかない。それ故に俺はキングヒュドラの攻撃を、ひたすらに避けていた。その巨体にも関わらずキングヒュドラは俊敏だったが、鍛え抜かれた俺には遠く及ばなかった。


(す、スゲェエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?)

(キングヒュドラの攻撃を、全て避けてるぜ!?!?)

(やれやれ、初見が多くて困るな。この程度で驚いてちゃ、 SO吉ちゃんねるにはついていけないぜ?)

(↑何様だよ)


(でも……キングヒュドラ、やっぱりやばいな)

(身体がデカいから当たり判定が大きいし、何よりもあの猛毒が危険すぎるな。破壊不可のダンジョンの壁を当然のように溶かしているし、いくらSO吉でも触れてしまえば……終わりだろうな)

(それにあの鱗、滑らかだと思っていたが……そうじゃねェな)

(動く時だけ鱗が逆立って、まるでヤスリのように地面を抉っている。あの鱗に掠ってしまえば、皮膚がズタボロだろうな)


 視聴者の考察通り、コイツは危険な魔物だ。

 それ故、早く倒さねばならない。


「《光速拳》!!」


 キングヒュドラの皮膚に、一撃をお見舞いする。

 だが、残念なことに……キングヒュドラは無傷だった。

 その堅牢な鱗は少し凹んだだけで、だめーじはとおっていないように伺えた。以前殴ったクリスタルゴーレムよりも、より堅牢な印象だ。


 それに加え、ダークフェンリルのような物理攻撃への半減耐性も備わっているように伺える。つまり…・・・物理攻撃しか手段のない俺にとって、実にやりにくい相手だということだ。


(え……SO吉のヤツ、大丈夫か……?)

(い、今……殴った……よな?)

(それで……少し凹んだだけ……?)

(ば、バケモノみたいに硬いな……)


(いやいや、これって……ピンチじゃね?)

(こんな相手……初めてだぞ……?)

(なんだかんだ、これまでは攻撃が通じてたもんな)

(それが……ほとんど無傷だって!?!?)


 キングヒュドラから少し距離を取り、考える。

 視聴者たちほど、俺は危機感を抱いていない。

 なんたって俺の手のうちは、まだまだあるからな。


「「「ゴシャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「メジャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「ギジャァアアアアアアアアア!!!!」」」


 攻撃を避けながら、策を考える。

 この状況を打破するには……出し惜しみしている場合じゃないな。別に隠していたわけではないが、ここは少し……視聴者たちを沸かせてやろうか。


「ふぅ……」


 息を整え、集中。

 そして──


「《極闘気》、発動」


 俺が使える究極奥義、《極闘気》。

 その名の通り、これは《闘気》を超えた《闘気》だ。

 つまり──


「「「ゴシャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「メジャァアアアアアアアアア!!!!」」」

「「「ギジャァアアアアアアアアア!!!!」」」


「やぁッッッ!!!!」


 噛みついてくるキングヒュドラを、思い切り蹴り上げる。すると──


「「「ゴシャァ──!!?!?」」」

「「「メジャァ──!?!?!」」」

「「「ギジャァ──!?!?!」」」


 キングヒュドラは天井まで一気に吹き飛んでいき、そして天井に突き刺さった。蹴り上げる瞬間にベキベキと骨が折れる音が聞こえたので、間違いなく致命傷を与えることに成功しただろう。


「さて、終わりにしよう」


 天井に突き刺さるキングヒュドラに向かい、飛翔する。

 そして、拳を握り締め──


「《極光速拳》!!」


「「「「「「「「「ギッ──」」」」」」」」」


 爆散。キングヒュドラは跡形もなく、消え去った。

 光の粒子が落ちてきて、俺を着飾る。

 そんな様子を見て、視聴者たちは──


(((((((((はァ!?))))))))))


 だいぶ、混乱していた。

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