第7話 ダンジョン配信 2/3

「グルァァアアアアアアアアアアアア!!!!」


 ダンジョンを歩む中、現れたのは……奇妙な魔物だった。これまで幾度もダンジョンに挑んできたが、ここまで奇妙な魔物は見たことがない。それほどまでに、奇怪な魔物だった。


 ライオンの頭と胴体、そこまではいい。

 胴体にコウモリを彷彿とさせる翼、これもまだいい。

 尻尾はサソリのように鋭い、これも許容範囲だ。

 ただその魔物は、3つの頭を持っていた。

 それも全てライオンの頭……ではなかった。


「ゴルァアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 3つのうち、1つはドラゴンの頭部だった。

 緑色の鱗を持ち、黄色い瞳をしたドラゴンの頭。

 呼吸をするたび、鼻から炎が漏れている。


「メェエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


 3つのうち、1つは山羊の頭だった。

 角が捻じ曲がり、不気味な瞳はこちらを見つめてくる。

 ムシャムシャと何かを反芻しているようで、奇怪だ。


「グルァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ゴルァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「メェエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


 3つの頭でそれぞれ、強烈な鳴き声を轟かせる魔物。

 あまりにも奇怪で、あまりにも奇妙な感覚だ。

 その鳴き声を聞いていると、背筋がゾッと冷え込む。


(え、き、き、キマイラじゃん?!?!?!?)

(た、ただのキマイラじゃねェぞ!?!?!?!?)

(翼にサソリの尻尾……マスターキマイラだ!?!?)

(キマイラ1000匹分の戦闘力を有する魔物だぞ!?)


(こんなヤツに……勝てんのかよ!?!?)

(↑まぁ、見てろって。おもしれーからよ)

(そうそう、初見はマジでビビるからな)

(さて、どんな戦いが始まるかな?)


 視聴者たちは楽しんでいる。 

 だったら俺は、盛り上げないとな。

 それこそが、配信者としての責務だ。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「グルァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ゴルァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「メェエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


 マスターキマイラ、とやらが最初に行ってきた攻撃は、強烈なブレス攻撃だった。3つの口先にそれぞれ火球が発生し、それを同時に放ってきたのだ。3つのブレスは重なり合い、強烈な1つのブレスとなった。


 轟々と地面を融かしながら、ブレスが迫る。

 だが、それに対して……俺に不安はなかった。

 何故なら──


「──ふぅッッッ!!」


 思い切り、息を吹きかける。

 その瞬間、マスターキマイラのブレスは消え去った。

 ロウソクの火を消すように、綺麗さっぱりと。


(…………はァ!?!?!?!?!??!!?!?)

(な、な、な、何が起きたんだ!?!?!?!?!?)

(い、い、息を吹きかけた!?!?!?!?!?!?)

(そしたら……ブレスが消えた!?!?!?!?!?)


(え、今……何がどうなったんだ!?!?!?!?)

(だ、ダンジョンの床を融かすほどのブレスだぞ!?)

(それを、一息で消しやがったぞ!?!?!?!?!?)

(ど、どうなってんだよ!! 規格外すぎるだろ!?)


 どうやったも何も、見た通りのことだ。

 肺に《闘気》を宿し、思い切り息を吹きかけた。

 ただ、それだけ。魔法師なら、誰でもできることだ。


 だからこそ、そんなに驚く理由がわからない。

 確かに俺はSSS級であり、《闘気》の質も高い。

 だが肺に《闘気》を宿すことくらい、誰でもできるだろう。この程度の発想なら、誰でもできるだろう。


「グルァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ゴルァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「メェエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


 馬鹿の一つ覚えのように、マスターキマイラは再度ブレスを放つ姿勢へと入った。だが、二度目は……流石にマンネリだ。同じことしかしないのであれば、さっさと終わらせてやろう。


 脱兎の如く駆け、マスターキマイラの懐へ。

 そして、拳を構えて──


「《光速拳》!!」


 ライオンの頭を殴ると、パァンッと弾け飛んだ。

 何故か連動するようにして、残り2つの頭も。

 そしてマスターキマイラは、光の粒子へと変わった。


(……え? い、一撃!?!?!?!?)

(ま、マジで……? き、規格外すぎるだろ!?!!?)

(な、なんか……SO吉つ強くなってない???)

(最初期よりも……格段に強くなってるよな……)


( SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

( SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

( SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

( SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 SSS級として活躍するために、怠けている暇なんてないんだ。毎日身体を鍛え、故に俺は日々強くなっている。最初に比べると、断然。


 以前までなら、一撃で屠るのは……難しかっただろう。

 瘴気こそ纏っていなかったが、マスターキマイラはダークフェンリルと同じくらい物理攻撃に耐性がある様子だった。故に鍛える前の俺だったら、不可能なことを成し遂げられて……すこぶる気分がいい。 


「さ、先を急ぎましょうか!!」


 自分の成長が感じられて気分がいいので、俺はスキップで深層を突き進んだ。……後にそのスキップ映像を切り抜かれ、ネットミームになったことはまた別の話だ。

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