第3話 昼飯【小作視点】

【小作視点】


 翌日、私は霜野さんとランチに来ていた。

 霜野さんのメニューは、ぶっかけうどんだ。

 無骨でいなから、新鮮なうどん。素晴らしいセンスだ。


 対して私は……牛卵ぶっかけうどんだ。

 しかも特盛であり、彼よりもずっと量がある。

 なんだか恥ずかしいけれど、仕方ないだろう。

 だって、お腹が空くんだから。


「昨日は本当に……ありがとうございます!!」


 席に着くや否や、私は彼に感謝を述べた。

 昨日のキングオーガ事変は、彼がいなければきっと……甚大な被害が生じていたことだろう。ギガケルベロスよりもずっと強大な魔物を、我々は感知できなかったのだから。


 彼にはどれだけ感謝しても、とてもしきれない。

 彼のような逸材が協会に入ってくれて、本当に感謝している。重鎮たちは感謝の気持ちを忘れてしまっているようだが、私だけは彼に素直な感謝の気持ちを伝え続けよう。


「いやいや、トンデモないですよ」

「何度でも言わせてください。キングオーガを討伐してくださって、ありがとうございます!!」

「あはは、照れますね」

「本当に我々は……あなたに頭が上がりません!!」


 謙遜しているわけでも、媚びているわけでもない。

 本心から、そう思っているのだ。

 彼には本当に、感謝の気持ちが尽きない。


「キングオーガを討伐してくださった、霜野さんだ」

「昨日の配信は痺れたわね!!」

「協会が感知できなかったキングオーガを、一瞬で東圧してくださったもんな。本当にありがたいよ」

「いや、マジで……マジで感謝だわ!!」


 周りの職員たちも、彼に感謝を述べている。

 彼は職員として当たり前だと言うけれど、決してそんなことはない。本来存在しなかったタスクをついでに終えてくださったのだから、キングオーガ討伐という面以外でも彼には本当に助かっている。


 本来の業務とは関係ないことを終えること。

 そんなこと、普通の人はきっと嫌がるだろう。

 だが彼は当然のように、こなしてくれた。


 ギガケルベロス討伐だけが本来の業務だったのに、それのついでにキングオーガまで倒してくださったのだ。本来は存在しなかったタスクをついでにこなすなんて、そんなこと中々できることではない。

 

「しかし……本当にどうして、あんな急に出現したんでしょうね?」

「そうですね……。昨日のアーカイブは確認させていただきましたが、あの魔法陣から急に出現したんですよね?」

「えぇ、そうですね」

「だとすれば……人為的な可能性が高いですね」


 基本的に魔物は、魔法陣から出現する。

 それ自体は特に問題ないのだが、問題は昨日の魔法陣の形状だ。あの魔法陣は自然発生する魔法陣とは異なり、明らかに人間の編み出した召喚陣だった。


「つまり……誰かが魔物を召喚している、と?」

「えぇ、そうですね。……しかし」

「そうですね。これまでの魔物は最低でもSSランクの魔物ですし、そんな魔物を召喚できるなんて……相当高レベルの魔法師ですよね」

「少なくとも国内において、そんなことができる魔法師は存在しませんね。SS級の召喚系の魔法師であっても、召喚できる限界はA級までですので」


 それ故に、戦慄してしまう。

 これまでに出現した不相応な魔物たち全てが、特定の魔法師の手によって召喚されたものだったら。その魔法師は間違いなく、トンデモない実力者だろう。


 ……悪い想像が頭を走る。

 そんな実力者であれば、もしかすると……霜野さんを超えるかもしれない。彼よりも強い可能性だって、少しは考えられる。いや、考えたくはないけれど。


「大丈夫ですよ」

「……え?」

「たとえ強い魔法師が相手でも、俺が勝ちますから」

「……ふふ、頼もしいですね」


 まるで私の心を読んだかのような、温かい言葉。

 そんな彼の言葉に、思わず笑みが浮かぶ。

 私の心配が、途端に払拭される。


 そうだ、私は何を心配していたんだ。

 彼の規格外の強さは、これまでに何度も拝見してきただろう。ダークフェンリルもキングオーガも、その他の魔物たちだって、彼は打ちのめしてきたじゃないか。


 私たちが倒すべき敵が、トンデモない実力を誇る召喚系魔法師だとしても……彼だったら大丈夫だ。相手がどれだけ強かろうとも、彼なら楽勝で倒してくれるに違いない。彼の強さを私が信じないで、いったいどうするんだ。


「ふふ、よかったです」

「え、何がですか?」

「小作さんの笑顔が見れて、よかったです」

「え──え、えへへ」


 そんなにわかるほど、喜んでいたのか。

 そう思うと、途端に恥ずかしくなってくる。

 重鎮たちに同じセリフを吐かれれば、きっと気色悪さで全身に鳥肌が立っただろうに。何故か彼のセリフを受けると、思わず嬉しくなってしまう。


 ……それに、胸も暖かくなってくる。

 これはいったい……なんなのだろうか。

 私はいったい、どうしたのだろうか。


「小作さん?」

「あ、えっと、な、なんでもないです!!」


 照れ隠しのように、私はうどんを一気に啜った。

 彼の前でこんなにうどんを食べるなんて、少し恥ずかしい。だけど……うん、おいしいな。

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