第2話 キングオーガ

「オガァアアアアアアア!!!!!!」


 けたたましく轟くのは、10メートルを超える鬼だ。

 皮膚は茶色く、剛腕に虎のような縦線が刻まれている。

 頭に鎮座する角は、トナカイのように立派。

 革の腰蓑に巨大な棍棒と、簡素な装備。


 以前戦ったデカゴブリン……いや、クリムゾンオーガと酷似した容姿をしている。だが皮膚の色がまるで異なり、第一に大きさが全然違う。それに頭の角田って、クリムゾンオーガはここまで立派なものではなかった。


(な、なんだよ……このオーガは!?!?)

(オーガ……なのか? デカすぎないか!?!?)

(腕太ッ、身体分厚ッ、バケモノじゃん!?!?)

(え、こんなやつ……勝てるのか……???)


(SO吉なら大丈夫……だよな?)

(な、なんだかわかんねェけど……ヤバいよな?)

(ダークフェンリルみたいな、ヤバさを感じるよな……)

(↑わかる。これまでの魔物とは違う、もっと深淵的なヤバさ……てヤツかな?)


 コメント欄が混乱に包み込まれている。

 ダークフェンリル並に強い、というコメントが散見されるが……彼らは鋭いな。実際に相対している身として、このオーガはダークフェンリルに匹敵する強さを誇ると直感的に理解できた。


 かつてのダークフェンリルは通常のフェンリル以上の身体能力に加え、瘴気によるダメージ軽減や紫電による光線を備えていた。それ故にナルミさんの炎の魔法で、瘴気を払ってもらう必要があった。


 だが、このオーガは……瘴気を纏っていない。

 おそらく身体能力がクリムゾンオーガと比較にならないほど高いだろうが、ダメージが通常通りに通るのであれば、何も心配する必要などない。結局殴れば、倒せるのだから。


「オガァアアアアアア!!!!」

「うるさいな……。すぐに楽にしてやるよ」


 棍棒を振り回すオーガに、俺は冷たく告げた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「《光速拳》!!」


 脱兎の如く駆け、オーガの懐に潜り込む。

 そして拳を握り締め、放った──


「オガァアアアアアア!!!!」


 だが、予想外の出来事が起きた。

 その巨体に似合わないアクロバットな動きで、オーガは攻撃を避けたのだ。空中で宙返りをして、俺の拳を避けやがったのだ。


(はァ!?!?!??!?)

(嘘だろ!?!?!?!?)

(なんだよ、あのオーガ……体操の選手か!?!?!?)

(なんて軽やかな動き……10点だ!!)


(え、SO吉の攻撃が……避けられた!?)

(マジかよ……。こんなこと、今まであったか?)

(SO吉の《光速拳》は、文字通り光速だ。それを避けるなんて……初めてだぞ)

(つまり……光速以上の動きで動ける、ってコト!?)


 皆が戦慄しているが、最も驚いているのは俺自身だ。

 攻撃が避けられるなんて経験、久しぶりだからな。

 皆は知らないだろうが、俺の《光速拳》が避けられるのは、これで2度目だ。


「久しぶりだな……」


 あれは配信を初めて間もない頃、まだ登録者数が0人の頃の話だ。いつも通り配信をしていた俺は、とある魔物と遭遇した。金属色に鈍く輝く、鋼の如きスライムと相対したのだ。そんなスライムは見たことがなかったので、俺は早速攻撃をしたのだが……そのスライムはべらぼうに素早かった。


 《光速拳》を繰り出しても、容易く攻撃が避けられる。

 さらに命中しても、ガギンッと音が響くだけでダメージがほとんど通らない。そして苦い思い出だが……最終的に、そのスライムに逃げられてしまった。


 あのスライムに関して色々と調べてみたが、結局正体は未だにわからずじまいだ。あれほど速く動き、あれほど頑強なスライム、出会っていれば必ず特徴を記すと思ったのだが……。どうやら、あのスライムと出会ったことのある人物は、俺だけだったみたいだ。


「確かに動きは素早いが──」

「オガァアアアアアア!!!!」

「あのスライムほどではないな。攻撃も避けられる」

「オガァアアアアアア!!!!」

「ほら、ちゃんと狙わないと当たらないぞ?」

「オガァアアアアアア!!!!」


 オーガの攻撃を避けながら、チャンスを探る。

 攻撃に集中している今こそ、絶好のチャンスだ。

 俺は密かに、拳を握り締め──


「オガァアアアアアア!!!!」

「ふッ!!」

「オガァッ!?」


 攻撃の刹那、オーガの懐に忍び込んだ。

 そして──


「《一閃光速拳》!!」


 右拳を突き出す。

 今度はオーガは避けられず、オーガの腹部に拳が命中した途端、パァンっと音が響き渡った。それはオーガの肉が弾け飛び、風穴が開く音だった。


「オ、オガッ……」


 腹部に大きな風穴が生じたオーガは、その場に膝を折って倒れた。そして光の粒子となり、その場から消え去った。最後にどこか、悔しそうな表情を浮かべて。


「ふぅ……」


(スゲェエエエエエ!!!!)

(あんな強そうなオーガを倒すなんて、ハンパねェ!!)

(SO吉はやっぱり最強だぜ!!!!)

(さすがSO吉!! そこに痺れる憧れるゥ!!)


(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 例の如く、コメント欄は俺を称えてくれた。

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