第2章

第1話 同接100万人

「みなさん、こんにちは〜」


 あれから1ヶ月が過ぎた。

 この1ヶ月、得られたことや進展は……0だ。

 何一つとして、なんの解明もされなかった。


 相変わらずダンジョンの上層には似つかわない、SS級以上の魔物が出現する。それによる事故だって、月に2〜3件は生じている。解明の遅れていることに対し、協会が糾弾されることなんて毎日だ。

 

 ただそれでも、可能な限り事故は防ごうと画策している。具体的には、俺がダンジョンの上層部に頻繁に出入りしていることだろう。もちろん、業務の一環として活動し、ついでにダンジョン配信で視聴者を沸かせているのだ。配信でスパチャをもらいつつ、職員としての業務故に給料も振り込まれるなんて……こんなに素晴らしい仕事はないだろうな。


(おぉおおおおおおおおおおおおおお)

(SO吉の配信がスタートしたぞ!!)

(初見です。期待しています)

(↑初見さん、ゆっくりしていってね!!)


(SO吉!! 昨日のデスデーモンの配信見たぞ!!)

(俺も俺も!! 反響スゴかったな!!)

(あのバケモノを容易く倒せるなんて、お前だけだ!!)

(やっぱりSO吉は最強だ!! 無敵だ!!)


 配信をスタートした途端、コメントがブワッと増えた。

 まるで滝のように流れるコメントは、追うのが難しい。

 同接だってあっという間に1万人を突破し、既に10万人にまで達しそうな勢いだ。……あ、そうこうしている間に、10万人を突破した。


(世界トレンドに入ったぜ!!)

(配信してまだ10秒も経ってないのに、スゲェぜ!!)

(さすがはSO吉だ!! 無敵だぜ!!)

(あっという間に同接10万人だもんな!!)


(まぁ……世界トレンドにランクインしたくらいじゃ、もう何も思わないよな。いつものことだし)

(SO吉も別に驚いてないもんな。もう慣れたよな)

(仕方ねェよ。世界トレンドに食い込まない時なんて、もうないんだから)

(世界のSO吉だもんな。俺たちの誇りだぜ!!)


 世界トレンドうんぬんと言われても、もう別に驚いたりはしない。俺が配信を始めれば、確実にトレンド入りするからだ。最初こそ嬉しかったが、今となっては……当然とさえ思ってしまう。


 ……いや、これは悪いことだ。

 最初の謙虚さを忘れてしまっている。

 初心を忘れるなんて、いけないことだからな。猛省だ。


「では今日も今日とて、ダンジョン配信ですよ」


(今日はナルミはいないんだ)

(↑仕方ねェ。現役女子高生なんだから、忙しいんだろ)

(今日はどんな魔物を討伐するんですか?)

(ドラゴン系? デーモン系? はたまた別の魔物?)


「今日の討伐対象は……ギガケルベロス、ですね」


(はァ!? SSS級の魔物じゃん!?!?)

(あのクリスタルゴーレムの装甲さえも、噛み砕くって言われてる最強クラスの魔物だろ!?!?)

(そんなバケモノを……ソロで倒すつもりかよ!?!?)

(無茶だって!! やめた方がいいって!!)


(……今日は初見が多いんだな)

(↑だな。俺たち古参は、もう驚いたりしないよ)

(あの SO吉だもんな。楽勝でなんとかしてくれるだろ)

(SO吉!! いつも通り頑張れよ!!)


 コメント欄が早くて読むのに一苦労だが、心配の声が2割で、そうでないコメントが8割といった感じだ。主に初見の人や俺の配信をよく知らない人は、とても心配してくれている。逆に古参のメンバーに関しては、別に関心を抱いてはいない様子だ。


 ギガケルベロスについては俺も調べてきたが、正直……恐るるに足らずといった感じの情報だった。直接戦ったこと自体はないが、割と楽勝で倒せるだろう。クリスタルゴーレムの討伐なんて、俺も行ってきたからな。


「それじゃあ、行きますよ!!」


 そして俺は、ギガケルベロスを探しに向かった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「──ということで、楽勝でしたね」


 光の粒子となるギガケルベロスの死体を画面に写し、そんな言葉を軽く言う。いつもと同じく、とても楽勝な戦いだったな。苦戦なんて、まるでしなかった。


(ギガケルベロスを……一撃で葬ったぞ!?!?)

(ま、マジかよ!?!? ハンパねェッて!?)

(初見です。かねがね噂は聞いていましたが……まさかここまでとは、驚きです!!)

(驚きました。チャンネル登録します)


(やっぱスゲェな!!)

(これでこそSO吉チャンネルだよな!!)

(規格外の強さ!! さすがはSO吉だぜ!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 身体はデカく、攻撃力もそこそこだったが……それだけだったな。それがいは特筆すべき点もなく、ごく普通に一撃で討伐することができた。まぁ、こんなもんだろうな。


 それが理由かはわからないが、視聴者の反応も若干塩だ。コメント欄で沸き立ってくれているのは確かなのだが、それでも……いつもよりも興奮が薄い気がする。マンネリ、というやつだろうか。


「お、同接100万人だ」


 同接100万人、か。なんだか感慨深いな。

 同接0人だったあの頃が、妙に懐かしい。

 1年も経っていないのに、何年も前みたいに感じる。


 ナルミさんを助け、バズったあの日。

 あの日がなければ、こんな数字を目にすることはなかっただろう。そう考えると……ナルミさんには感謝しても、しきれないな。


「さて、帰るか──ん?」


 帰宅しようとした瞬間、目の前に魔法陣が出現した。

 そこから現れたのは──

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