第30話 感謝

「スゴいですね、宗吉さんは!!」


 業務が終わり、俺はナルミさんと喫茶店に来ていた。

 花の女子高生との喫茶店、緊張するな。

 だが彼女から誘ってくれたのだから、断るわけにもいかなかった。俺も彼女とは、仲良くなりたいと思っていたからな。


「ダークフェンリルを討伐して、協会から賞状をもらって……スゴすぎますよ!! 憧れます!!」

「そんなに褒められても、何も出ませんよ?」

「何もいりませんよ!! スゴいんですから!!」

「あはは……それはどうも……」


 やはり俺は、褒められることに慣れていない。

 ナルミさんに褒められ、胸がむず痒くなってきた。

 頭をポリポリと掻いてしまう。


「ネットでもみんな宗吉さんのことで、話題が持ちきりですよ!! ダークフェンリルを討伐したこともそうですが、SSS級の中でも最強なんじゃないかって、みんなが噂していますよ!!」

「いやいや、過剰評価ですよ……」

「そんなことありませんよ!! 私の学校の友達だって、みんな宗吉さんこそが最強だって話をしていますよ!!」

「あ、あはは……」


 いやぁ、顔が熱くなってきた。

 こんなに話題に上がるなんて、初めてだからな。


「本当に宗吉さんはスゴいですね。チャンネル登録者数も既に500万人を突破していますし、私なんてあっという間に超えられちゃいましたね」

「いやいや、ナルミさんはまだ俺の憧れですよ」

「あはは、ありがとうございます!!」

「本当に……俺の配信のテクニックは全て、ナルミさんから教わったんですから」


 最初は過疎配信だった俺が、ここまで伸びることができた理由。確かに俺の強さも理由の一つだろうが、決してそれだけではここまで伸びることはできなかっただろう。自分で言うのも恥ずかしいが、配信者としてのテクニックがあったからこそ、ここまで成長できたと自負している。


 最初は見よう見まねで適当に始めたが、これではいけないと思い至り、ナルミさんの配信のテクニックを学んだ1年前。そこから徐々に彼女のテクニックを盗むことに成功し、今では500万人の登録者を獲得できた。それに今でも登録者数は伸び続けている。


 これもひとえに、彼女のおかげだ。

 彼女がいなければ、ここまで伸びることはなかっただろう。強さだけでは、人は飽きてしまうからな。


「それに、ナルミさんの協力がなければ、ダークフェンリルを倒すことは難しかったですよ。あの瘴気をナルミさんが払ってくれたからこそ、あんなに簡単に倒すことができたんですよ」

「えへへ、ありがとうございます!!」

「ナルミさんの協力がなければ、もっと時間がかかっていたことでしょう。それをあれだけ短時間に倒せたのは、全てナルミさんのおかげです。本当に……ありがとうございます!!」

「そんな!! 頭を挙げてください!!」


 頭を下げ、感謝を告げる。

 俺1人では、確実にもっと時間がかかっていた。

 だからこそ、深い感謝を述べる。


「単純な強さだけじゃなくて、謙虚さまで限界突破しているなんて……やっぱり、宗吉さんはスゴいです!!」

「いやいや、褒めすぎですよ」

「本当に……私の救世主様はスゴいです!!」

「……救世主?」


 あまり聞き馴染みのない言葉だな。


「一番最初に会った時のこと、覚えていますか?」

「フェンリルに襲われていた時のことですか?」

「はい。あの時私は……ひどく恐ろしい気持ちでした。自分よりも圧倒的に格上のフェンリルに襲われて、私はここで死ぬんだなと……そんな絶望に苛まれていました」

「そう……だったんですね」

「そんな中、宗吉さんが助けてくれたんです。あの時から宗吉さんは私の憧れで、私の救世主様です!!」

「あはは、なんだか嬉しいやら恥ずかしいやら……」


 褒められたり讃えられたりすることは慣れないが、それでも彼女の命を救えてよかったと、今となっては思う。俺があの時、動いていなければ……故空いて彼女と喫茶店で楽しむことだって、できなかっただろうから。


「あ、すみません……。今日ピアノのレッスンがありまして……」

「あぁ、そうなんですね。では、また会いましょう」

「すみません。ありがとうございました!!」


 そして俺たちは、解散した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 帰宅後、俺はベッドに寝転がっていた。


「……こんなに感謝されるとは、思いもしなかったな」


 ダークフェンリルを討伐し、帰還した後に魔法師たちから多大なる感謝を受けた。協会に報告後、賞状をもらうほどに感謝を受けた。そして先ほど、ナルミさんから感謝を受けた。


 今でもネット上では、俺へ感謝を述べる声が多数見受けられる。1日のうちにここまで感謝を受けるなんて経験、生まれて初めてかもしれない。なんというか……悪くはない気分だ。


「魔法師になって……本当に良かった」


 魔法師に覚醒しなければ、こんなに感謝されることなんてなかっただろう。一生社畜として人生を潰し、叱られ続ける人生を歩んでいたことだろう。当時は心が疲弊して何も思わなかったが、今思えば……異常だったな。


 そんな悪辣な日々から抜け出せたこと。

 まずはナルミさんへ感謝だ。

 そして魔法師協会に入植できたこと。

 次に小作さんへ感謝だ。

 最後に俺を応援してくる人々。

 視聴者へ感謝だ。


 感謝したいのは、俺のほうこそだ。

 だからこそ──


「これからも……期待に添えられるように、必死に頑張ろう」


 拳を天井に掲げて、そう誓った。

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