第4話 カフェ

「スゴかったですね!! 宗吉さん!!」


 次の日、俺はカフェにいた。

 目の前にはいつものように、ナルミさんの姿。

 制服は夏仕様になったようで、半袖になっている。


 彼女とこうしてカフェに来るのも、なんだか久しぶりな気がする。最後に一緒にお茶をしたのは、二週間前だったか? 詳しくは覚えていないが、久以前は一週間に2度していた時もあったので、久しぶりだな。


「一昨日の配信のことですか?」

「はい!! あんなに大きくて強いキングオーガを、一瞬で倒すなんて……規格外ですよ!!」

「いやいや、褒められても何も出ませんよ」

「何も入りませんよ!! 宗吉さんはスゴいってことを、言いたいだけです!!」


 ……なんだか、この会話デジャブだな。

 以前にも、似たような会話をした気がする。

 ……まぁ、それはいいか。


 そんなことを話している間に、店員さんが注文した品を持ってきてくれた。俺はショートケーキとクリームソーダを、ナルミさんはホールケーキとオレンジジュースを。彼女も小作さんと同様に、スレンダーな割にめちゃくちゃ食べるタイプらしい。


「わぁ!! おいしそうです!!」

「へぇ、いちごのホールケーキですか」

「……あげませんよ?」

「いやいや、自分のがあるから大丈夫ですよ」


 それにそんな量、食べられないしな。

 25歳を超えて、胃腸に限界がやってきている。

 昔ならともかく、今はもう無理はできない。


 それにしても……本当によく食べるな。

 一口一口が大きく、とても美味しそうに食べている。

 なんか……見ているだけで元気がもらえるな。


「そうだ。同接100万人、おめでとうございます!!」

「あ、あぁ。ありがとうございます」

「スゴいですね!! 私もまだ達成していませんよ!!」

「100万人突破は、素直に嬉しかったですね」


 とは言っても、あれが初めてではないが。

 毎回というわけではないが、、たまに同接100万人を超えているからな。まぁ普通に同接100万人を超えて、嬉しいのは事実なのだが。


「そういえば宗吉さん、今登録者何人ですか?」

「ざっと……5000万人ですね」

「ご、ごせ……!? 日本人口の3分の1ですか!?」

「ざっくりと、そうですね」


 改めて言われると、感慨深いな。

 少し前までは、登録者0人とかだったのに。

 いやぁ……高みまで上り詰めたな。


「本当に……私なんて、簡単に超えられましたね」

「いやいや、ここまで成長できたのは──」

「私は何も教えていませんよ。全て宗吉さんの実力です」

「……はい」


 なんだか圧の強い回答に、思わずそう答えてしまう。

 今でもナルミさんのことを、尊敬しているんだけどな。

 

「でも、珍しいですね」

「え?」

「宗吉さんからお茶をしたいだなんて、連絡をいただけるなんて。私、素直に嬉しかったですよ!!」

「おっと、そうだ」


 本日カフェでお茶をしたいと連絡したのは、俺からだ。

 ナルミさんには、昨日の小作さんとの話を伝えたかったから。本当はまだ情報公開されていないのだが、彼女にだけは先んじて伝えておきたかったからな。小作さんの許可も降りているし、何の問題もないだろう。


「実は──」


 そして、俺は説明した。

 昨今の不相応なレベルの魔物が出現する理由は、誰かが召喚している可能性があること。そしてSSS級の魔物も召喚できる実力者なので、相当強いということ。そんな魔法師を発見しても、危険なので絶対に戦ってはいけないこと。


 わかりやすく噛み砕きながら、説明した。

 彼女の顔はみるみるうちに真剣みを増していき、やがて眉間に深く皺が刻まれるほどになった。そんな表情でも、元が美人なので可愛らしいな。……女子高生に欲情しているみたいで、気持ち悪いな。


「なるほど、よくわかりました」

「本当に危険だから、注意してくださいね」

「もちろんです。それに……宗吉さんが守ってくださりますよね?」

「……えぇ、もちろん」


 彼女は俺にとって、大事な師匠だ。

 何が起きたとしても、必ず守ってみせる。

 どんなに強力な敵でも、必ず。


「それにしても……迷惑な人ですね!!」

「えぇ、全くその通りです」

「いったい、何が目的なのでしょうか?」

「……全く見当もつきません」


 SSS級の魔物を召喚し、上層に解き放つ。

 そんなことをする理由も、理屈もわからない。

 犯人は、いったい何を考えているのだろうか。


 いや、そもそも……犯人がいることの証明もできていないのだが。あくまでもこれは仮説であり、真実ではない。犯人が実は存在せず、普通に野良で出現している可能性も無くはないのだ。


「……本当に謎ですね」

「そうですね。協会として、早急な解明を急ぎます」

「……その情報、まだ一般公開されてないですよね?」

「えぇ、そうですね」

「……どうして、私に教えてくれたんですか?」

「どうしてって、ナルミさんが大事な人だからですよ」


 彼女は俺にとって、師匠も同然だからな。

 そんな彼女には無事でいてほしいと思うのは、当然の摂理だろう。


「えへへ……大事な人ですか……!!」


 何故か顔を赤らめて、嬉しがるナルミさん。

 ……? 早めの夏バテか?


「えへへ、ありがとうございます!!」

「え、えぇ、どういたしまして……?」


 そして彼女は、バクバクとケーキを平らげた。

 ……若いから消化が早いんだな。

 ……おじさん、羨ましいや。

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