第27話 ダークフェンリル 2/2

「グルォオオオオオオオオオオオ!!」

「はっ」

「グルォオオオオオオオオオオオ!!」

「ふっ」

「グルォオオオオオオオオオオオ!!」

「ほっ」


 この黒いフェンリルの攻撃は、以前戦ったフェンリルよりも格段に速い。爪を振るうたびに風を切り、噛みつく速度は一瞬だ。それでもなお、俺は容易く避けらえるが。


「あのフェンリルの攻撃を……全て避けてる!?」


(す、スゲェエエエエエエエエ!?!?)

(動画的にはかなりブレてるから、あのフェンリルの攻撃は相当速いんだろうな。それを容易く避けるなんて、トンデモねェな!?!?!?)

(やっぱり、SO吉って……バケモノくらい強いな!?)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 フェンリルの攻撃は確かに速いが、正直この程度なら楽勝で避けられる。熟練の戦士ではなく獣だからこそ、攻撃に隙も多いしな。無駄な動きが多いからこそ、簡単に避けられるし──


「《流星拳》!!」

「グル──ッッッ!?!?」


 ──カウンターもできる。

 フェンリルの攻撃を避けながら、俺は強烈な拳をお見舞いした。青白い光を纏った拳はフェンリルの顎を砕き、そのまま思い切り吹き飛ばした。


 先ほどと同様にゴム毬のようにバウンドし、やがて壁にめり込むフェンリル。先ほどと違う点を挙げると、漆黒の瘴気を払ったが故かダメージが通常通りに入ったことだろう。先ほど以上に血反吐を吐いていることから察するに、瘴気に遮られていた分のダメージも、十分に喰らわせることができたみたいだ。


「SO吉さん……勝てますよ!!」


(SO吉の攻撃……さっき以上に効いているぞ!!)

(ダメージもメチャクチャ通じてるな!!)

(勝てるぞ!! このフェンリルに!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 勝利を確信する皆の中、おそらく異変に気付いたのは俺だけだった。砂煙で詳細は見えないが、壁にメリ込んだフェンリルの口内でバチバチと紫電が発生しているように伺えた。


 俺の本能が、警鐘を鳴らす。

 きっと俺なら耐えられるだろうが、ナルミさんはそうではない。それにフェンリルが発動しようとしている魔法は、俺だけを狙った者ではなく……ナルミさんまで被害が加わる全体攻撃だ。


「SO吉さん、今なら──」

「ナルミさん、俺の後ろに隠れてください」

「え──」

「──必ず守りますから」


 そして俺は、ナルミさんの前に立ちはだかる。

 ナルミさんは困惑しているが、説明している暇はない。

 やがて、フェンリルは──


「グルォオオオオオオオオオオオ!!」


 フェンリルが放ったのは、紫色の破壊光線。

 バチバチと紫電が放電し、大気が痺れる。

 光よりも早く迫る光線に、背後から息を呑む声が聞こえた。それと同時にナルミさんの、「あっ」という短い悲鳴も聞こえてきた。


 短く息を吐き、魔力を集中する。

 拳にこれまで以上の、《闘気》を集中する。

 一瞬で右拳は黄金色に輝き──光線に拳を放った。


「《一閃光速拳》!!」

 

 拳と黄泉がぶつかり──

 ──部屋が光に包まれた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



(え、何が起きたんだ?)

(光線とSO吉の拳が交錯して……光に包まれたよな?)

(その後に砂埃で何も見えなくなって……)

(今に至る、ってわけか)


 光と砂埃が晴れ、広がっていたのは凄惨な光景だった。

 壁や床は大きく傷が生じ、今にも崩れそうに。

 壁に備えられていた燭台も、灯を灯すのは僅か。

 薄暗い部屋の中、照射と歯医者の命運は分けられていた。


「さすがに……痛いな」


 薄暗い中でよく見えないが、拳がメチャクチャ痛い。

 血などは出ていないが、少し痺れている。

 あぁ……突き指くらいはしたかもしれないな。


 軽くブンブンと手を振り、痛みを飛ばそうとする。

 突き指なんて、学生以来久しぶりだ。

 あぁ。痛いな。思わず涙がこぼれそうなほどに。


「そ、 SO吉さん!? だ、大丈夫ですか!?!?」

「あぁ、意外なほどに平気です。頑丈だったみたいです」

「そ、それなら……よかったです……!!」

「ナルミさんの方こそ、無事ですか?」

「 SO吉さんが守ってくれたおかげで、問題ありません!!」

「それは何よりです」


 次にフェンリルに目を向ける。

 どうやらヤツは、満身創痍みたいだ。


「グ、グルゥ……」


 魔力を含めた生命エネルギーの大半を使い果たしたのか、一気に年を取ったかのようにフェンリルは憔悴していた。身体はプルプルと震え、その目に灯る光は濁っている。放っておいても、やがて限界を迎えることだろう。


「……そろそろ楽にしてやろう」


 左拳を伸ばし、手刀のように構える。

 そして《闘気》を纏い、刃のようにした。


「グルゥ……!!」

「お前はスゴいぞ。お前ほど強い奴なんて、初めて見た」


 悠然と歩く。

 フェンリルは怯えている。


「グルゥ……!!」

「だからこそ、憔悴の後に死ぬなんて……そんな最後は迎えるな。最後はキッチリと俺が終わらせてやる」


 悠然と歩く。

 やがて、フェンリルの元へ。


「グルゥ……!!」

「さぁ──終わりにしよう」


 左手を掲げ──


「《光速刃》!!」


 フェンリルの首を、落とした。


「グゥ──」


 ゴトッと落ちる、フェンリルの首。

 それはやがて、光の粒子へと置換した。

 そして──帰還用のゲートが出現した。


「そ、SO吉さん!!」


(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 俺は皆に、ピースで答えた。

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