第25話 ダンジョン配信 3/3

【第3層】


「SO吉さんって……どうして、そんなに強いんですか? クリスタルゴーレムを実質一撃で葬るなんて、規格外すぎますよ!!」


(確かに、俺も気になってた)

(クリスタルゴーレムを一撃で屠れる膂力に、どんな魔物の攻撃も容易く避けられる敏捷性。おそらく防御力だって、凄まじいものだろうな)

(身体強化系最強のSSS級魔法師、雷豪剛らいごうつよし以上に強いだろうな)

(《闘気》しか使えないって前に言ってたけど、逆に言えば《闘気》だけで十分ってことだろ? 他の魔法なんて必要ないほど、極まっているってことだろ?)


 ナルミさんからの質問や視聴者からの考察を受け、俺は返答に困っていた。どうして俺が強いのかなんて、そんなこと俺が知るハズもないだろう。それに雷豪剛らいごうつよしさん以上に強いと言われても……正直、あまり実感はない。


 雷豪剛さんは、俺の憧れだった。

 俺と同じく《闘気》しか使えないものの、その拳はどんな敵をも打ち砕く。無骨ながらも最強な彼の姿に、俺はひどく憧れを抱いた。故に使える魔法が《闘気》だけだと知った時だって、悲壮感は皆無だった。


 そんな俺が……今では雷豪剛さん以上に強い、と言われても納得はできない。ついこの間までF級だったのに、今では憧れのヒーローよりも強くなったと聞いて、いったい誰が腑に落ちるというのだろうか。SSS級の力を得たことに対しては、最近ようやく理解できたが……雷豪剛さんよりも強くなったことに対しては、未だに納得していない。


「まぁ……鍛えたからですよ」

「鍛えたって、どのくらいですか?」

「毎日腹筋腕立てスクワット各100回、ランニング10キロ。あと真夏でも真冬でもエアコンは付けなかったな」

「鬼のようなスケジュールですね!?」


(そんなキツいトレーニングだったら、最強だよな)

(SO吉の強さの根幹、理解できたわ……)

(どんな魔物でも、ワンパンで倒せそうなスケジュールだな)

(俺も同じことしたら……最強になれるかな?)


 これは昔、雷豪剛さんがテレビで語っていたトーレニング内容だ。子どもの頃から雷豪剛さんに憧れていた俺は、10歳の頃からこのトレーニングをこなして来た。最初こそキツかったが、今では10分あれば全て終わらせられるようになった。


 コメント欄を見る限り、雷豪剛さんのトレーニングだと気付いている人は……いない様子だ。雷豪剛さん自体が少し年配の方なので、配信を見るような若い世代は雷豪剛さんのことは知っていても、そのトレーニング内容までは知らないのだろうか。少しだけ……悲しいな。


「私も……同じトレーニングをします!!」

「あぁ、頑張ってくれ」


(俺も!! 頑張るよ!!)

(強くなりてェ!! 鍛えるぜ!!)

(俺も!! 最強になりたいからな!!)

(お前みたいになりたいからな!!)


 雷豪剛さんのことを知らない世代が、雷豪剛さんのトレーニングを重ねる。まるで彼の系譜を継ぐものが増えているようで、俺は微かな喜びを抱いていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ついに……着きましたね」


 目の前に聳え立つは、いつもの鉄扉だ。

 だがそこから漏れ出すは、暗黒の瘴気。

 この扉の奥に潜む魔物の強さを象徴するように、禍々しい瘴気が者の隙間から漏れ出していた。


 瘴気に当てられたのか、ナルミさんの顔色は若干悪い。

 だがそれでも、気丈に振る舞い、何とか立っている。

 拳をギュッと握り締め、逃げたい衝動を我慢している様子で。


「ナルミさん……」

「だ、大丈夫です!! 勝ちましょう!!」

「……えぇ、そうですね」


(応援しているぜ!! 2人とも!!)

(俺たちの無念……晴らしてくれ!!)

(勝てよ!! 2人とも!!)

(どんな魔物でも、2人なら楽勝だって信じてるぜ!!)


 コメント欄からの応援を受け、ふぅっと息を吐いた。

 そして、扉に手をかけて──開いた。


「グルルルルル……」


 闇そのものを纏ったかのような、漆黒の毛皮。

 5メートルの巨体は、周囲を圧迫するかの如く威圧的。

 漆黒の身体と対照的に、月を彷彿とする銀色の爪と牙。

 その蒼い瞳は、計り知れない深淵を秘めていた。


 何よりも、その毛皮からは瘴気が漏れていた。

 漆黒の、暗黒の、禍々しい、そんな瘴気が。

 思わず吐き気がする、そんな瘴気が。


(な、何だよ……このフェンリル……)

(画面越しにも伝わってくるぞ……禍々しさが……)

(それに……トンデモなく強いだろ……)

(こないだのフェンリルなんて、目じゃないくらい……)


(え、これ……勝てるのか?)

(だ、大丈夫かな……)

(に、逃げたほうが……いいんじゃないか?)

(そ、そうだ!! 今すぐ逃げてくれ!!)


 残念ながら、逃走なんてできない。

 コイツは確かに、恐ろしく脅威だ。

 だからこそ、逃げれば被害が甚大になる。


 これまで相対してきた、どんな魔物よりも強いだろう。

 だからこそ、逃げることは許されない。

 俺がここで倒さなければ、絶対にならないのだから。


「ナルミさん」

「は、はい……」


 怯えて震えるナルミさんの手を、そっと握る。


「俺に……任せてください」


 できる限りの笑顔を、彼女に向けた。

 彼女の表情は、まだ強張っていた。

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