第24話 ダンジョン配信 2/3

【第2層】


「ゴオォオオオオオオオオオ!!」


 配信をしながらダンジョンを歩いていると、目の前に魔法陣が出現した。そして現れたのは、クリスタルで出来た人形のゴーレムだった。


 キラキラと煌めく、蒼い水晶のような身体。

 身長は3メートルほどだろうか。分厚い体つきも相まって、見かけ以上に大きく見える。その大樹を彷彿とさせる巨腕も、大きく見える要因だろう。


 ゴーレムは顔面部分の一部分が、赤く光っている。

 こういうのは……モノアイ? というんだったか?

 詳細や名称はうろ覚えだが、とにかく爛々と輝く紅瞳が俺たちのことを捉えていた。まるで宿敵を発見したかのように、敵愾心に満ちた眼差しでコチラを睨みつけていた。


「く、クリスタルゴーレム!?!?!?!?」


(マジかよ!?!?!? SSS級じゃん!?!?!?)

(噂だと、1匹で軍隊に匹敵する戦闘力らしいぞ!?)

(ゴールドサーペントよりも、強いって聞いたぞ!?)

(ドラゴンを一撃で屠れるって、聞いたことあるぞ!?)


(そんなバケモノが……どうして、こんな上層に?)

(↑わかんねぇけど……これ、マズいだろ!?!?)

(SSS級でもトップクラスの頑丈さを誇る魔物……勝てるのか?)

(でも……SO吉なら勝てる!! 信じようぜ!!)


 俺はこの魔物のことを知らなかったが、コメント欄の説明で概ねの概要は理解した。とにかくこんな上層に、出現してはいけないレベルの魔物ということだろう。SSS級上位の実力を誇る、めちゃくちゃ強い魔物ということだろう。


 得られた情報によれば、以前倒したヘビ……いや、ゴールドサーペントよりも強いらしい。だが俺にとってゴールドサーペントは雑魚同然だったので、正直……より強いと言われても、あまりピンとは来ない。


「何はともあれ……倒すしかないな」

「わ、私も……頑張ります!!」


(2人の共闘が見れるぞ!!)

(うぉおおおおおおおおおお!!)

(これを見るために、この配信を廻始めたんだよな!!)

(頑張れ!! 必ず勝ってくれ!!)



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ゴオォオオオオオオオオオ!!」


 ゴーレムの攻撃はその巨体に違わず、 緩慢だった。

 殴る動作、叩きつけてくる動作、全てが遅い。

 攻撃を避けることなど、とても容易いことだった。


「《上級の焔矢ブレイズ・アロー》!!」

「ゴオォオオオオオオオオオ!!」

「《上級の焔撃波ブレイズ・キャノン》!!」

「ゴオォオオオオオオオオオ!!」

「《最上級の赫灼砲ボルケーノ・ブラスター》!!」

「ゴオォオオオオオオオオオ!!」


 だがクリスタルで構成された肉体の防御力は本物で、ナルミの魔法攻撃はほとんど効果がなかった。クリスタル部分は熔解することもなく、未だキラキラと輝きを放っている。彼女の魔法も強力なものなのに、これは……相性が悪すぎるみたいだな。


(ナルミの魔法が全然通じてねェ!?!?!?)

(上級魔法と最上級魔法まで使っているのに、全くの無傷とは……驚いたな。ちょっと強すぎるだろ!?!?)

(ゴールドサーペントよりも強力なSSS級、ソレも硬さだけならトップクラス……勝ち目ないだろ!?!?!?)

(どうするんだよ!? これじゃ……負けちまうぞ!?)


 視聴者たちも絶望に瀕している。

 ナルミの表情にも、焦りが生まれている。

 そんな状況を嘲笑うかのように、クリスタルゴーレムのモノアイは爛々と輝いている。


 状況は悪い。

 このままでは、勝ち目はないだろう。

 そう──俺がいなければ、勝ち目はないだろう。


「《光速拳》!!」


 軽くジャンプし、クリスタルゴーレムの腹部を殴る。

 メギャッと音が響き、クリスタルゴーレムは吹き飛んだ。キラキラとクリスタルの破片を撒き散らし、ゴム毬のように何度も地面をバウンドしながら、やがて壁にメリ込んだ。


 拳に伝わってくるのは、微かな鈍痛。

 《闘気》まで纏ったのに、拳が痛い。

 文字通り、硬いものを殴ったからだろう。

 

 こんな経験、初めてだ。

 ドラゴンの鱗も、ゴールドサーペントの鱗も、ブラッディオーガの皮膚だって、全てが軟いものだった。拳が痛んだ経験なんて、これまでしたことがなかった。


 だが……それだけだ。


 少し痛いが、骨折したわけではない。

 机を軽く殴った時くらいの、大したことない痛みだ。

 逆に言えば……SSS級最硬を殴っても、この程度の痛みなのだ。これからどんな魔物が出現しても、俺の攻撃は通じることが証明できたと、むしろ嬉しく思うべきか。


「クリスタルゴーレムの身体が……欠けた!?」


(す、スゲェエエエエエエエエ!?!?!?)

(そ、SO吉やっぱ最強じゃん!?!?!?)

(俺は信じてたぜ!! お前ならやってくれるって!!)

(お前は最強無敵だ!! お前こそナンバーワンだ!!)


(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 皆が喫驚しているが、勝負はまだ終わっていない。

 砂埃が立ち込める中、クリスタルゴーレムのモノアイがいっそう輝いているのが窺える。これは……マズい!?


「ナルミさん、避けて!!」

「え──ッッッ!?!?!?」


「ゴォオオオオオオオオオ!!!!」


 刹那──世界が赤く染まった。

 刹那──大気が熱を帯びた。

 刹那──爆発音が轟いた。

 刹那──爆風が身体を打った。


 何が起きたのか、理解するのに少し時間がかかった。

 背後を見て、その理解が確信へと変わった。

 俺たちの背後、ダンジョンの壁や床は熔けていた。

 ドロドロのマグマのように、融解していたのだ。


(あ、あれ……レーザーか?)

(今の……ナルミの魔法よりも高火力だよな?)

(ダンジョンの壁って……基本的に破壊不可だろ?)

(ソレを熔解させるって……バケモノかよ……)


(あれが直撃してたら……SO吉でもヤバかったよな?)

(あ、アイツ……バケモノすぎるだろ!?!?)

(……早く倒さねェと、ヤバいって!?!?)

(SO吉!! 何とかしてくれ!!)


 視聴者の言う通り、アイツのレーザーは少しマズい。

 直撃すれば、きっと凄く熱いだろう。

 だからこそ、拳を握り締め──俺は駆けた。


 脱兎の如く駆け、クリスタルゴーレムの懐へ潜り込む。

 拳を強く握り締め、《闘気》を凝縮する。

 そして──


「《鋼壊拳》!!」


 刹那、クリスタルゴーレムは爆せた。

 キラキラ輝く水晶の破片となり、その場に散った。

 たった一撃で、クリスタルゴーレムは死に絶えたのだ。


「う、嘘……一撃!?」


(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)


 ダンジョンにナルミさんの声が、響いた。

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