第22話 再開と懇願
「これで……公務員、か」
あれから一週間。
退職の手続きや協会への入職手続きなど、様々なことを経由して、本日ようやく正式に魔法師協会に入職することができた。つまり晴れて、公務員になったのだ。
この一週間の手続きは色々と大変だったが、とにかく入職することができて嬉しく思う。年収3億円の男に、なることができたのだから。それに正式に魔法師カードも、SSS級に更新することができたのだから。
「日本で3人目のSSS級誕生らしいけれど、マスコミなどは取材に来ないな。俺が変に目立ちたくないって前に言ったこと、小作さんは覚えてくれていたんだな」
ネットの世界で有名になることは、別に構わない。
だがテレビなどに取り上げられるのは、個人的には嫌だ。テレビ自体は別に嫌いではないが、マスコミはあまり好きじゃないからな。変な感じで取り上げられるのは、かなり避けたいからな。
何はともあれ、今日の仕事は終了だ。
今日は初日だったから、普通に説明を受けるだけで仕事が終わった。現在時刻は12時。さっさと帰って、昼寝に勤しむとしよう──
「そ、宗吉さん!!」
協会を出た瞬間、聞き覚えのある声が耳に届いた。
声の下方を見ると、そこにいたのはナルミさんだった。
彼女は玉のような汗を流し、強張った顔で──
「た、助けてください!!」
助けを求めてきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「つまりメッチャ強い魔物が出現した、ということですね」
「は、はい。ざ、ザックリ説明すると、そうなります」
ナルミさんの話を要約すると。
・ダンジョンの第3層のボスに、強い魔物が出現。
・ナルミさんを含む数人で挑むも、完敗。
・現在は自主的に第3層への入り口を封鎖中。
・ナルミさんは、このことを協会に伝えにきた。
と、いうことになる。
そして、たまたま出会った俺に、助けを求めたというわけだ。以前までなら善意で助けていただろうが、今の俺は協会側の人間なので、その魔物を助けるのは義務になる。
「見逃すわけには行きませんね」
「え、じゃあ──」
「えぇ、その魔物を倒しますよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「礼には及びません。早速向かいましょう」
本当は協会に報告し、なんやかんや手続きをしなければならない。だがそんな悠長なことをしていれば、魔法師たちがダンジョンに挑める時間が少なくなってしまう。魔法師たちがダンジョン探索で生まれる経済効果は莫大であり、ほんの1分挑めないだけでも経済的に大打撃が加わることになる。
今回は事後報告の方が、結果的によく動くだろう。
とりあえず小作さんにだけは、軽くメッセージを入れておこう。今からダンジョンに現れた、メチャ強魔物を討伐します、っと。
「そうだ、魔物の特徴を教えてください」
ダンジョンへ向かう道すがら、ナルミさんに質問をする。彼女は息も絶え絶えながら、説明をしてくれた。
「く、黒いフェンリルです!!」
「黒いフェンリル……? 前倒したオオカミ……いやフェンリルの毛皮も、黒めでしたよね?」
「いえ、以前のフェンリルとは比べ物にならないほど、文字通り漆黒のフェンリルです!! それに強さだって、比較にならないほど強力です!!」
「そうなんですね……」
SSS級だと判明したあの日から、俺は自身の力が異常に強いことを自覚した。これまでただのオオカミだと思っていた魔物は、フェンリルという強大な魔物だった。デカトカゲはドラゴンであり、デカゴブリンはブラッディオーガだった。
そのため、彼女の言葉の重みが理解できる。
フェンリルは、俺以外の人間ではソロで倒すのは困難だ。それも今回出現したフェンリルは、以前のそれよりも格段に強いらしいからな。
「私は後衛だったので被害は少なかったですが、前衛の方々は瀕死の重体で……他にもいくつかのパーティが挑んだのですが、全て全滅でした……」
「それは……悲惨でしたね」
「はい……」
重い空気が流れる。
彼女の無念が伝わってくる。
「で、でも……本当に大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「今回のフェンリルは、以前の個体よりも強力です!! 闇属性の魔法も使いこなしてきますし、いくら宗吉さんでも……勝ち目はないかもしれませんよ」
「でも俺以外で、倒せる人はいませんよね?」
「そ、それは……」
「大丈夫です。必ず勝ちますから」
そんなことを話している間に、ゲートへと辿り着いた。
ゲートの周りには、何十人もの魔法師たちがいる。
全員が不安げな表情をして、ソワソワしていた。
「ん、あれは……?」
「お、おぉ!? ナルミさんだ!!」
「そ、それにその隣にいるのは!?」
「SO吉だ!! これで勝つる!!」
「お、俺!! ファンなんだ!!」
「俺も!! アンタが助っ人なら、100人力だ!!」
「アンタなら必ず勝てる!! 応援しているぜ!!」
「頼む!! あのクソフェンリルを……倒してくれ!!」
俺たちの姿を見た途端、彼らの表情が明るくなった。
これは……期待を裏切るわけにはいかないな。
「わかりました。必ず勝ちますよ」
できるだけ明るい笑顔で、俺はそう答えた。
彼らの期待や希望を、無碍にはできない。
必ず、黒いフェンリルを討伐してみせよう。
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