第20話 スカウト


「えぇ!?」 


 本業が終業し、帰宅後にスマホのメールを開くと、なんだかトンデモないスカウトが届いていた。魔法師協会から、べらぼうに好条件のスカウトメールが届いていたのだ。


 最初はイタズラメールだと思ったが、メールアドレスを調べると本当に魔法師教会のものだった。つまりマジのガチで、俺をスカウトしにやってきたメールなのだ。


「で、でも……どうしてF級の俺を?」


 理由を考えても、いまいちピンとこない。

 デカいだけのトカゲや蛇を倒したくらいで、スカウトが来るものか? F級の俺が余裕で倒せるのだから、あの程度の魔物は誰だって楽勝で倒せるハズなのに。


 ナルミさんが何も手伝わなかったのは、魔以外なく演出だろう。A級の彼女が手を下してしまえば、映える場面も見どころもなく、すぐに終わってしまう。有名配信者としてそれを危惧した彼女は、ワザと怯える仕草を見せて俺に任せたのだろう。


「だからこそ……どうしてスカウトメールが届いたんだ? ナルミさんとコラボした時に、何かトンデモないことをやらかしたのか?」


 あるいは、トンデモなく良い行いをしたか。

 だがどちらにせよ、心当たりはない。

 うーむ……よくわからないな。


「とりあえず……次の休みに会いに行くか」


 話を聞くとメールし、その日は眠りについた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ようこそ、魔法師協会へ」


 土曜日、10時ちょうど。

 送信後に帰ってきたメールに書かれていた通りの時間に到着すると、職員に協会の最上階へと案内された。そして最上階室の一室を開くと、そこはまるで校長室のような厳かな場所だった。


 そんな部屋には、数名の男女がいた。

 1人を除き、ほとんどが重鎮という言葉の似合う荘厳な雰囲気を醸し出している、ご老人たち。ただ1人だけは、俺とそう年齢の変わらない女性だった。


「お待ちしておりました。霜野宗吉様」

「えっと……小作睦世おざくむつよさん、ですか?」

「えぇ、そうです。こうして出会えて光栄です」

「あはは、それはどうも……」


 手を差し出され、その手を握る。

 おぉ、柔らかいな。マシュマロみたいだ。

 叶うならば、ずっと握っていたい。


 女性の手なんて、小学校時代のフォークダンスの授業以降、握ったことがなかったから、久しぶりの感覚だ。あの頃は手汗がキモいと相手の女の子に断られ、結局は一度だけ踊った後は1人で謎にフラダンスを踊る羽目になったんだったな。……悲しい記憶だ。


「……この男が、そうなのか」

「いや、だが……ごく平凡な男ではないか」

「とても信じられませんわ……」

「だが……動画に偽りは見られなかったのだろう?」

「ならば……」


 彼女の後ろでは、重鎮らしき方々がコソコソと話している。俺に内緒で話しているように見えるので、一体何の話をしているのか、気になってくるな。


「では霜野様、さっそくですがこちらの水晶に触れてもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、はい」


 そう言って彼女が手渡してきたのは、どこにでもありそうな青い水晶だ。なるほど、これは魔力測定用の水晶だな。魔法師として覚醒した時に、この水晶に触れたから覚えている。


 だが……どうして、今渡してきたのだろうか。

 俺はF級の魔法師であり、再測定してもそれは変わらないと思うのだが。これまでの魔法師としての活動中に、再覚醒した感覚なんて一度もなかったのだから。


「霜野様、これはただの魔力測定水晶ではありません」

「ド級の水晶、ド水晶ですか?」

「……なんですか、それ?」

「あ、いえ。なんでもありません」


 年齢が近そうだからといって、ネタが通じるわけじゃないよな。猛省だ。


「純度100%の魔晶石を使用した、最も測定レベルの高い水晶です。並の水晶は3万円程度ですが、こちらは1つあたり1000万円を超えます」

「え、えぇ!?」

「ですので、霜野様の本当のランクを測ることが可能です」

「ほ、本当のランク……?」

「……なるほど、未だ自覚はない様子ですね。それでは説明するよりも、実際に触れていただいた方が説明が早いかと思われます」

「あ、はい」


 あまりの金額にビビりつつも、彼女に促されて俺は水晶に触れた。すると──水晶は眩い光に包まれた。


「うぉっ!?!?」

「ま、眩しい!?!?!?」

「な、なんですの、この反応!!??」

「ま、まさか……これは──」

「そ、そんな……ありえん!?!?」


「あはは……これは……期待を大幅に超えましたね」


 やがて光は晴れ、水晶には数字と文字が記載されていた。そこに書いていたのは──


【名前】:霜野宗吉

【魔力】:1億2000万

【等級】:SSS級


 という、文字列。

 いや、え……嘘だろ?

 とてもじゃないが、信じられない。

 ドッキリだろ、これ。何かしらの。


 そう思い、顔を上げた。


 頭を抱える重鎮、驚愕する重鎮、電話をかける重鎮。

 重鎮たちが様々な反応を見せる中、彼女は笑っていた。

 そして、口を開いた。


「おめでとうございます。今日を持って宗吉様。あなたはSSS級となりました」


 と、嬉しそうに言葉を発した。

 …………………………………………マジで?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る