第18話 初コラボを終えて【成美視点】
【成美視点】
「本当に……スゴいなぁ……」
私以外誰もいない部屋の中、静かに呟く。
昨日の配信での興奮や驚愕、余韻が抜けない。
宗吉さんの強さが、あまりにも凄まじすぎて。
フェンリルから救ってくれたことから、その強さは知っていた。配信で見せた数々の業績から、その勇ましさは存じ上げていた。だけど──
「……想像を絶していたね」
フェンリルの時は私もいっぱいいっぱいだったこともあって、彼の凄まじさをまだちゃんと理解できていなかった。だけど今回のコラボ配信を経て、彼の凄まじい強さを再認識した。
今回のコラボで倒した魔物、それは。
・ゴブリン×5匹
・コボルト×3匹
・スライム×2匹
・フェンリル×1匹
・ブラックドラゴン×2匹
・タイガードラゴン×1匹
・レッドドラゴン×1匹
・ウルフドラゴン×1匹
・ゴールドサーペント×1匹
「ゴブリンやコボルト、スライムは第1層でも元々出現する魔物だけど……それ以外は出現するはずのない魔物だよね。私でもソロで倒すのは無理なのに、宗吉さんは楽々倒して……規格外すぎるよ……」
彼が使える魔法は《闘気》、そしてその応用の魔法だけだ。そこだけ聞けば凡庸な魔法師だけど、彼の場合は……その練度が凄まじい。
例えば、ゴールドサーペントに発動した《光速拳》。
あれは《闘気》を拳に集中させて、放つ技だ。
凄まじい破壊力と速さを備えた技だけど、彼の場合はそれだけじゃなかった。
普通の魔法師の《光速拳》はその名が関するような、『光速』のスピードに達することはない。あくまでもその名前は比喩であり、とにかく速い拳という意味合いしか持たないのだ。
だけど、彼は違った。
その名が関するように、文字通りの『光速』だった。
A級魔法師で動体視力が極まった私でも、彼の攻撃を目で追うことはできなかった。一瞬でゴールドサーペントの前に現れ、次の瞬間にはすでに一撃を加えていた。
「あんなこと……誰にも真似できないよ……」
文字通り人間離れした力。
そんな彼の姿に私は、思わず釘付けになった。
四六時中、コラボが終わって1日が経過した今でも、彼のことを考えているほどに。あまりに強すぎる彼に、私は……惹かれてしまったみたいだ。
だって、仕方ないじゃない。
煌々と光り輝く星に願いを託すように、彼の強さはあまりにも眩しかったんだから。私がこれまで見てきた光景の中で、もっとも強烈に輝いていた人なんだから。
だけど……気にしているのは、私だけみたいだ。
画面に映らないように手を握ったけれど、宗吉さんは一向にこちらに何の反応も見せてくれない。大人の余裕なのかはわからないけれど、もう少し何かしらの反応を見せてほしい。こちらは配信中に映れば炎上確定なのだから、ちょっとはドキッとしてほしい。
……って、これは勝手すぎるね。
うん、猛省だ。少しワガママが過ぎた。
「憧れちゃうな。みんなもそうみたいだしね」
SNSや掲示板を見る限り、彼に憧れを抱いたのは私だけじゃないみたいだ。SNSのトレンドは彼に関連するものばかりだし、インフルエンサーは彼に対しての考察ばかりをしている。掲示板でも人々は彼に対しての考察など、みんなが釘付けみたいだ。
私だけじゃない。みんなが惹かれている。
彼が人気になってくれて、私も嬉しい。
……嬉しいんだけど。
「……なんだか、胸が痛いな」
ズキズキと胸が痛む。理由は……わかっている。
心不全じゃない。病名をつけるなら、恋だろうね。
フェンリルから救ってもらったあの日から、私は宗吉さんに惹かれてしまっているみたいだ。恋愛的な意味で。
「何はともあれ、これで協会も思い直してくれるかな」
様々なSS級魔物の討伐に加え、ゴールドサーペントまでソロで倒したんだ。アーカイブという証拠まで残っていることだし、さすがに協会だって言い逃れは出来ないだろう。ネットを見るに協会は相当国民から不満を募らせているし、ここで適当な対応をすればたちまち大炎上だ。ソレだけは避けたいだろう。
彼が何故F級だったのかはわからないけれど、もうじきようやく正当に評価される。その事実が私は嬉しく、思わず笑顔になってしまう。万が一これで協会が不誠実な対応をすれば、大暴れしてやってもいいかもしれないね。
「……またコラボ、したいな」
彼の知名度貢献がしたいと思い、助けられた恩を返すために行ったコラボ配信。結局今回のコラボで私は何もできなかったけれど、それでも多少は知名度アップに貢献できたと思う。実際にコラボ前と比較して、彼のチャンネル登録者数は50万人以上増えているから。
最初こそ恩返しのつもりだったけれど、今は……彼と純粋にコラボがしたいと考えている。彼と仲良くなって、彼と一緒にダンジョンに挑みたい。今度は私もちゃんと活躍して、彼に褒めてもらいたい。そんな欲が私の心に渦巻いている。
「今度もSS級の魔物が出現したら怖いけれど、宗吉さんと一緒だったら……驚きはすれど楽しかったもんね。また一緒に冒険がしたいな」
私の小さな呟きは、部屋にこだました。
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