第16話 ダンジョン配信 3/3

「へぇ、小さな蛇ですね」

「ち、ち、、小さいですか!?!?」

「えぇ。前倒した蛇は、これよりも大きかったですよ」

「そ、そうですか……って、そうじゃないです!!」


 声を荒げて、ナルミさんは叫んだ。


「どうして……ゴールドサーペントがいるんですか!?」

「え、そんなに変なんですか?」

「だ、第1層のボスはトロールです!! ゴールドサーペントは50層以下にしか出現しない、強敵ですよ!?」

「そうなんですね。抜け道でもあったんでしょうか」

「いくらSO吉さんでも……無理ですよ……」


(SO吉、めっちゃ呑気じゃんwwww)

(↑笑い事じゃないだろ。まずい状況だぞ)

(ゴールドサーペントはドラゴンを主食にしている魔物だぞ。頭が悪いからSS級に属しているが、戦闘能力だけならSSS級に匹敵するバケモノだぞ)

(そんなバケモノが……どうして、こんな上層のボスをしているんだ?)


(2人とも、今すぐ逃げろ!! 死ぬぞ!!)

(そうだ!! 今すぐボス部屋から出ろ!!)

(↑いや、もう遅い。ボス部屋に入ったら最後、ボスを倒すまで帰還はできないからな。帰還石などのアイテムだって使えないし、もう完全に詰んでいるよ)

(おいおい……これで配信最後かよ……クソッ……)


 ナルミさんも視聴者も、どうしてそんなに悲嘆に暮れているのだろうか。あてはただの蛇に過ぎないのに。


「ギシャァア……!!」


 ダラダラと紫色の涎を垂らし、蛇はこちらを睥睨している。下に見られているような気がして、気分はあまりよろしくない。普通に腹立たしい。


「ナルミさん、それに視聴者の皆さん」


 ひと息吐き、続きの言葉を言った。


「俺が倒しますよ、こんな雑魚」


 そして──俺は駆けた。

 瞬く間に蛇の懐に潜り込み──


「だぁああああああああああああああ!!!!」


 全力パンチを浴びせる。

 メリメリと腹側の白い鱗が剥がれていき、俺の拳は蛇の腹に突き刺さる。温かい血の感触と仕上がった筋肉が、拳に伝わってくる。ヌルッと柔らかい感触は、内臓だろうか。


「ギ、ギシャァアアアアアア!?!?!?」


 勢いよく吹き飛んでいく。

 バゴンッと壁に激突し、血反吐を吐いた。

 だがこちらを睨む眼の力強さは健在であり、蛇はまだ死んでいない。


「う、嘘……!?」


(あ、ありえないだろ!?!?!?)

(ご、ゴールデンサーペントを、一撃でダウン!?!?)

(は、半端ないパワーだ……規格外すぎるだろ!?!?)

(こんなこと、信じられないぜ!?!?)


 皆は驚いているが、そんなに変なことでもないだろう。

 確かにボスなだけあって身体は少し頑丈みたいだが、それでも所詮は蛇だ。さっき倒したデカいトカゲとかに比べれば、動きも単調で倒しやすい。


 この程度の蛇だったら、頑張れば誰でも倒せるだろうに。いったいなぜ、みんな驚き戸惑っているのだろうか。俺にはさっぱりわからない。


「ギ、ギ、ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「鬱陶しいな」


 蛇は牙を剥き出しにして、噛み付いてくる。

 だがやはり動きは単調で、さらにノロマだ。

 どこに攻撃が来るかかもわかりやすく、避けることなんて楽勝だ。


「あ、あんなに速く避けられるなんて……スゴい!?」


(ひ、光よりも速いんじゃね!?!?!?)

(↑それは盛り過ぎ。でも……めっちゃ速いな!?!?)

(攻撃を全て軽々と避けているぞ!?!?!?)

(いくら《闘気》を発動しているからって、異常だろ!?!?!?)


 皆が驚いているが、その理由がわからない。

 もしかして……この蛇の動きは速いのか?

 ……いや、それはないか。F級の俺が避けられるのだから、きっとみんなも余裕で避けられるハズだ。


 ……いや、なるほど。そういうことか。

 ダンジョン内は電波が届くとはいえ、それでも地表に比べれば若干ながら電波が弱くなってしまう傾向がある。そのために彼らが見ている映像は、若干ながらラグが発生しているのだろう。それ故に蛇の動きが、機敏に見えてしまっているのだろうな。


 ナルミが驚いているのも、そんな視聴者への配慮なのだろう。ラグっていることに気付かないように、わざと同調した発言をしているのだろうな。そこまで計算しているとは、彼女が超人気な理由も頷けるな。


「何はともあれ、そろそろ飽きてきたな」


 このまま避け続けていれば、配信に映えがない。

 そろそろ蛇を片付けて、視聴者を喜ばせないと。

 できるだけ派手で、できるだけ一撃で、倒さないと。


 俺は深く息を吸い込み、《闘気》を全身に集中させた。

 それから、俺の体は光を纏い始める。これは俺の特技、《光速拳》だ。一瞬のうちに相手に接近し、光よりも速い一撃を加える技だ。


「ナルミさん、ちょっと離れててくださいね。今から決めます」


 ナルミさんが安全な距離まで後退すると、俺は瞬時に蛇の前へと姿を消した。驚いたことに、蛇の反応はそれに間に合わず、ただ呆然としているだけだった。


「これで終わりだ!」


 俺の声が響くと同時に、全力の《光速拳》が炸裂した。

 爆発的な光と音が一瞬にしてボス部屋を包み込み、蛇の体はその衝撃に耐えきれずに、粉々に砕け散った。


(何それ!? マジで光速だった!?)

(SO吉……ヤバイよ、マジでヤバイ……こんな技、初めて見た……)

(ゴールデンサーペントが、ただの蛇じゃなかったのに、一撃で……信じられない……)

(俺たちが知っている物理法則、全部ひっくり返った感じがする……)


「あはは……規格外がすぎますよ……」


 ナルミさんが戻ってきて、目を丸くしている。

 そして、驚きつつも、満面の笑みを浮かべていた。

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