第13話 コラボ

「お、おぉ!?」


 DMを返信し、心が昂る。

 まさか、本当に、マジで、あり得ないだろ。

 語彙力皆無な興奮が、脳内を埋め尽くす。


 まさか、まさか、まさか、まさかすぎるだろ!!

 あのA級魔法師である、ナルミからコラボの招待を受けるなんて。俺は夢でも見ているのだろうか。そうだ、こんなに嬉しいこと、絶対に夢に違いない。


「いて、夢じゃないな」


 頬をつねり、夢じゃないことを確認する。

 いや、しかし……こんなことあるんだな。

 俺がバズったのは彼女のおかげなのだから、それだけで十分感謝したいのだが……まさかコラボの誘いまでくるとは。俺の人生が彼女と出会ってから、好転をし続けている。


 登録者数100万人を突破し、大人気PBTuberであるナルミからコラボの誘いを受ける。あまりにもハッピースマイルがすぎて、少し恐ろしくなってしまうほど幸せだ。こんなに幸せになってしまって、本当にいいのだろうか。


「と、とにかくだ……今後の話し合いをしないとな」


 俺とナルミはその関係上、確実にダンジョン配信でのコラボとなるだろう。ここで気を衒って商品紹介なんてすれば、せっかく100万人を突破したのに……間違いなく剥がれてしまうだろう。視聴者の期待に応えること、これも配信者として大切なことだ。


 だからといって、どんな配信をすればいいのだろうか。

 俺はF級のため、あまり深い階層までは潜れない。

 となると、浅瀬で配信をすることになるのだが……。


「あまり面白いコラボにはできそうにないのに、どうしてコラボの連絡をしてくれたんだろうな。うーん……じょしこうせいのかんがえることは、イマイチよくわからないな」


 そんなことを呟きながら、俺はナルミさんとやりとりをした。あぁ、当日が楽しみだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 土曜日、俺はいつものダンジョンの前にいた。

 服装はいつもと同じく、緑色のジャージ。

 周りには魔法師たちが、たくさんいる。


 12時23分、待ち合わせまであと7分。

 待ち遠しくて、1時間前には到着している。

 ナルミとのコラボなのだから、楽しみで仕方ないのだ。


「お待たせしました!!」


 と、その時だった。

 バタバタと走りながら、こちらに手を振る少女の姿。

 そう、ナルミがやってきた。


 ナルミの格好は、後衛の魔法師然としていた。

 真紅のローブには、金の装飾が縫えられている。

 皮の手袋には、魔法陣が刻まれている。

 その樫の杖には、紅玉が埋め込まれている。


「ナルミさん、お疲れさまです! す、すごいですね、その装備……!」


 俺は思わず声を上げる。

 彼女の装備からは、A級魔法師の重厚感と威厳が溢れ出ていた。それに彼女の装備は明らかに高額なものであり、目にしただけで……キラキラしている。


「あはは、ありがとうございます。でも、宗吉さんのジャージもカッコいいですよ!それに、今日は特別な日ですからね。少しでも華やかにしようと思って」


 ナルミさんがニコニコしながら返答する。

 あぁ、なんというか……心が救われるな。

 彼女のファンが多いのも、納得だ。

 これまでは勉強のために彼女の配信を見ることが多かったが、今後はガチファンとして彼女の配信を楽しみにしてしまいそうだ。


「え、あれって……ナルミさんじゃない?」

「え、ま、マジじゃん!? 俺、ファンなんだよな!!」

「でも……隣の男は誰だ? 俺、ガチ恋勢だから……殺しちゃうかもしれねェよ」

「お前、知らねェのかよ、最近話題のSO吉じゃん」

「そうそう、ナルミの命を救った恩人だよ」

「だったら……殺さないでおくか……」

「そうじゃなくたって、殺すなよ。犯罪だぞ」


 周りの連中が危ない会話をしている。

 とにかく、命が救われたみたいだ。

 彼らの反応に、ナルミさんも俺も思わず笑みを浮かべる。なんだかとても、嬉しそうだな。


「さて、じゃあダンジョンに向かいましょうか。視聴者の皆さんも、きっと楽しみにしていますから」


 ナルミさんが俺に向かって言った。

 彼女の言葉を受け、思わず嬉しさからはにかんでしまう。彼女とこれから配信をするんだという実感が湧いてきて、心が躍ってしまう。


「はい! でも、浅瀬にしか挑めないですよ……?」

「大丈夫ですよ、宗吉さん。あなたの実力、私はよく知っていますから。浅瀬でも、私たちなら何か面白いことができるはずです」


 ナルミさんの言葉に、俺は胸が熱くなる。

 顔や体型だけではなく、性格までいいんだもんな。

 大人になれば、絶対に魅力的な人になるだろうな。


「ありがとうございます、ナルミさん。こんな機会をいただき、本当に光栄です。」

「私のほうこそ、今日を楽しみにしていましたよ!! 憧れで恩人の宗吉さんと一緒に挑めるなんて、夢見たいです!!」

「それは……こっちのセリフですよ」

「そんな!! 私のセリフですよ!!」


 そんな言葉を交わし、思わず笑みが漏れる。

 あぁ、まるで学生に戻ったみたいだ。

 こんなに楽しい青春など、送ってはいないが。


「今日は精一杯、楽しみましょう!!」

「えぇ、そうですね!!」


 そして俺たちは、ダンジョンに挑んだ。

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