第12話 コラボ【成美視点】

【成美視点】


「やっぱり……スゴい……!!」


 宗吉さんの配信を見ながら、私は一人で呟いた。

 フェンリルを倒したのは偶然でもなんでもなく、彼の実力だったんだ、と。ブラッディオーガとレッドドラゴンを屠る配信を見て、私はそう確信した。


 たった一晩で登録者数が100万人を突破し、今でも天井知らずにグングンと登録者が伸びている。このままだったらいずれ私のチャンネル登録者数も越えられそうだけど、そこに嫉妬はない。むしろようやく彼に正当な評価が下されたんだと、少しばかり嬉しく思ってしまう。


「フェンリルから救ってくれた時、本当に……カッコよかったな……」


 私以外誰もいない部屋に、私の呟きがこだまする。

 こんな独り言、絶対に他人には聞かせられない。

 だけどそれでもなお、呟いてしまう。


 その夜、私は眠れずに宗吉さんの過去の配信を何度も繰り返し見た。《闘気》を使って身体能力を極限まで上昇させた彼は、確実にSSS級以上の実力があるだろう。彼が配信ないや私に言ったように、F級であるだなんてあり得ないことだ。


「このレッドドラゴンのブレスなんて、《闘気》だけじゃ絶対に耐えれないハズなんだけどね。少なくとも私の知る限り、炎耐性の装備をガン積みしないとまず灰燼に帰すと思うんだけど、彼は……普通に耐えているね」


 あまりにも規格外すぎて、思わずため息が出る。

 私も彼のように強くなりたいけれど、彼の配信を見る限り……それは難しそうだ。どう考えたって彼の力は規格外で、人間離れしすぎている。たまに私も『バケモノ』なんてアンチコメントが来るけれど、そんなアンチコメントをした人に彼の配信を見せてやりたいほどだ。


 そして恐ろしいことに、彼はこれ以前にもこんな配信をしていたらしい。アーカイブこそ残っていないけれど、配信中に「以前の配信で倒した黒いデカトカゲは楽勝でしたね」なんて言っていることから、間違いなくこれまでにもS級以上の魔物の討伐を行っているのだろう。


 黒いデカトカゲ、と聴いて思い浮かぶのは1つだけ。

 レッドドラゴンと同格の魔物、ブラックドラゴンだ。

 もちろん、ブラックドラゴンもソロで倒せる魔物ではない。SSS級の魔法師が徒党を組んで、ようやく互角になるレベルの魔物だ。


「本当に……規格外だね」


 そんな彼を正当に評価してほしいから、私はつい昨日、協会に彼の再測定を打診した。まだ返事は来ていないけれど、最悪の場合……このまま流されるかもしれない。


 昨今の協会は腐敗しきっていて、マトモに仕事をしていない。いくら彼のチャンネル登録が100万人を突破して、有名になってきているとしても。いくら私が打診をしたとしても、腐敗している協会は無視してくるかもしれない。PBTuberのことを協会の職員たちは、明らかに下に見ているから。


「スパチャはスゴい額飛んでいるけれど、それとは別に彼には正当な評価をしてほしいな。それに助けてくれた恩返しだって、したいし……そうだ!!」


 彼の配信アーカイブを見続け、夜が明ける頃。

 寝ぼけた私の脳内に、1つの光明が差した。

 A級の私だからこそできる、恩返しを思いついたのだ。


 さっそく、私はDMの文を作成する。

 慎重に、迷惑じゃないように、不快感を与えないよう。

 そして完成した文章を、私は彼に送った。


『初めまして、ナルミチャンネルのナルミと申します。この度、宗吉様には先日の恩返しも兼ねて、コラボを提案させていただきたくDMを送らせていただきました。宗吉様の圧倒的な実力と、私のA級魔法師としての経験を組み合わせれば、視聴者の皆さまに新たな驚きと楽しみを提供できると信じています。もし宗吉様がご興味をお持ちでしたら、ぜひお返事をいただければ幸いです。よろしくお願いします。』


 送信ボタンを押すと、今まで感じたことのないドキドキ感が私を襲った。彼がこの提案をどう受け取るのか、私の提案が宗吉さんのお役に立てるのか、そして、彼と直接話すことができるのか。色々な想いが心の中で渦を巻く。


 返信を待つ間、私は自分のチャンネルでの配信内容を見直し始めた。もし彼とのコラボが実現したら、私たちの合同配信でどのような内容をファンに提供できるか、さらに私自身がどのように成長していくべきかを真剣に考えた。


 30分後、ついに宗吉さんから返信が届いた。


『ナルミさん、こんにちは。宗吉です。提案とメッセージ、ありがとうございます。ナルミさんのチャンネルは以前から拝見しており、A級魔法師としての実力と人柄、どちらも尊敬しています。コラボの件、とても興味があります。ぜひ具体的な話を進めていきたいです。改めて、ありがとうございます。』


 彼の返信を読んで、私の心は安堵と喜びでいっぱいになった。これからの可能性に胸が高鳴る。宗吉さんと共に、新たな挑戦を始める準備が整ったのだ。


 この出会いが、私たちにどんな未来をもたらすのか、今はまだ誰にも分からない。でも、一つ確かなことは、私たちの組み合わせが、これまでにない新しい価値を創造し、多くの人々に影響を与えるだろうということだ。


 私は改めて、彼に感謝の気持ちを込めて返信をした。

 これから始まる冒険に向けて、私の心は期待でいっぱいだった。

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