第9話 ダンジョン配信 2/2

「オガァアアアアアアア!!!!」


 デカゴブリンは、強烈なパンチを繰り出してきた。

 その破壊力は凄まじく、食らってしまえば流石にひとたまりもないだろう。だがその巨体故か動きは緩慢で、避けることなんて容易い。


 さっと軽く避けると、デカゴブリンの拳は地面に突き刺さった。バゴンっと凄まじい音とともに、地面に大きなクレーターが生じる。


(おいおい……マジかよ……)

(ダンジョンの壁や床って相当硬いはずだろ?)

(核爆弾でも傷ひとつつかないほどって、聞いたことあるぞ……)

(それを殴ってクレーターまで生じさせるって、マジもんのバケモノじゃねェかよ……)


(でも……そんなパンチを難なく避けたよな?)

(あの拳、相当早かったよな?)

(間違いなく、音速は超えていたな)

(それを《闘気》も使わずに避けるって、SO吉もバケモンじゃねェかよ……)


 コメント欄が流れているが、それを追う暇はない。

 いくら相手がゴブリンとは言っても、さすがにコメント返をするほど余裕はないのだ。


「オガァアアアアア!!」


 怒りのままに、デカゴブリンは咆哮している。

 けたたましく、そしてやかましい。

 鬱陶しく、耳障りだ。


 ふぅっとため息を吐き、《闘気》を発動した。

 俺の身体を黄金のオーラが纏う。


(いやいや、とんでもねェ《闘気》だな!?)

(魔力の密度が半端ねェ!?)

(こんな《闘気》、見たことねェよ!?)

(もはやこれは……《闘気》なのか?)


(フェンリルを倒した切り抜き、あれマジだったんだな)

(画面越しでも伝わってくる《闘気》の圧、半端ねェもんな)

(マジで……何者なんだよ!?!?)

(最強じゃん……規格外じゃん!?!?)


 ふぅっと、息を吐く。

 そして──俺は駆けた。


「やぁあああああああああああああああ!!!!」


 瞬く間に、デカゴブリンの懐に潜り込む。

 そして──


「だぁあああああああああああああああ!!!!」

「オ、オガァアアアアアア!?!?!?」

「だぁあああああああああああああああ!!!!」

「オ、オガァアアアアアア!?!?!?」

「だぁあああああああああああああああ!!!!」

「オ、オガァアアアアアア!?!?!?」


 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。


 バゴンバゴンっと凄まじい勢いで、腹部をブン殴る。

 拳は皮膚を貫き、内臓を破裂させる。

 拳は皮膚を貫き、肋骨をへし折る。

 俺の拳は、デカゴブリンを破壊していく。


「オ、オガァア……!?」


 満身創痍、そんな言葉が相応しいデカゴブリン。

 これ以上グロテスクな姿を晒せば、俺のアカウントがBANされるかもしれない。視聴者が多くていつも以上に張り切ってしまったが、そろそろ終わらせよう。


「歯を食いしばれよ」


 拳をギュッと握りしめる。

 そして──


「だぁあああああああああああああああ!!!!」


 強烈なアッパー。

 デカゴブリンの頭部は、吹き飛んだ。


「オガァッ……」


 短い悲鳴をあげ、デカゴブリンは霧散した。


(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)

(SO吉最強!! SO吉最強!! SO吉最強!!)



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ドロップアイテムは……無しみたいですね」


 魔物を討伐すると、稀にアイテムや素材を落とす。

 だが今回はそれらは一切なく、少し残念だ。


(ブラッディオーガを《闘気》だけで倒したぞ!?)

(マジで……何者なんだよ!?)

(規格外すぎるだろ!? バケモノなのかよ!?)

(F級なんてレベルじゃないじゃん!?)


(フェンリル倒したのって……マジなんだな……)

(俺、ファンになったわ!! 一生推す!!)

(俺も!! スパチャするぜ!!)

(ただのスパチャじゃねェぞ。ド級のスパチャ、ドパチャだ!!)

(↑それ、もう意味わかんねェよ)


 スパチャがバンバン飛び交う。

 ドロップアイテムが得られなかったことは悲しいが、人生初のスパチャを得られて最高の気分だ。結果オーライ、と言うやつだな。


 飛び交うスパチャの額は、1万、10万、100万……。

 …………………え?


「え、1億以上……?」


 現時点でスパチャの総額は、1億円を突破した。

 いやいや……え? マジで?

 とてもじゃないが、信じられない。


 たった1匹のゴブリンを倒しただけだ。

 少し身体が大きいだけの、ゴブリンを倒しただけだ。

 たったそれだけのことなのに、1億円を稼ぐことに成功した。こんなこと、少し前まででは考えられない。


「いやいや、ありがたいですけど、やりすぎですよ!!」


(いいもの見せてもらった感謝の印だ!!)

(そうだそうだ!! いいからもらってくれ!!)

(お前の今後の活躍への、先行投資だ!!)

(今後の活躍も期待しているぜ!!)


 これまで何度も、同じように魔物を倒してきた。

 デカゴブリンも、オオカミだって。

 それで稼げた額は、0円だった。


 それが今回は、たった一度の戦闘で1億円だ。

 しかも未だスパチャは止まらず、額は増えている。

 なんと言うか……未だに信じられないな。


「あはは……感謝してもしきれないな」


 感謝を伝えるためにも、さらに配信に重きをおこう。

 こんなに期待してくれる、視聴者のためにも。

 なんだったら、本業の社畜を辞めてもいいな。


 そんなことを考え、俺はさらに配信を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る