第8話 ダンジョン配信 1/2

「みなさん、こんにちは〜」


(お、始まったぞ!!)

(スゲェ!! 本当に始まった!!)

(いえーい!! 見てるゥ!?!?!?!?)

(1コメゲットしたかったなァアアア!!!!)


 ダンジョンに降り立ち、配信をスタートした。

 その瞬間、視聴者が流れ込んでくる。

 コメント欄だって、滝のように流れる。


 視聴者数:1000、2000、3000、1万。

 瞬きをするたびに視聴者の数が、倍々に増えている。

 これまでではあり得なかったことに、口角が上がってしまう。一度バズっただけで、こんなスゴいことになるだなんて。


(昨日はナルミをありがとう!!)

(お前のおかげで、ナルミの配信を今後も見れるよ!!)

(マジで感謝している!! 最高だ!!)

(チャンネル登録したぞ!! お前は最高だ!!)


(昨日のフェンリルの切り抜きって、マジなの?)

(マジだって、俺生配信で見たし!!)

(いやでも、さすがに闘気だけでフェンリルを倒すのは、無理あるんじゃない?)

(今回の配信でその答えが出るって!!)


 ナルミを助けたことへの感謝、昨日のオオカミを倒したことへの疑問視、その他俺への期待。様々なコメントが流れていく。まだ配信を始めて1分も経っていないというのに、すでにコメント数は10万を超過している。


 これまで過疎配信しか行ったことがなかったので、こんな膨大なコメントへの耐性など俺にはない。本当は1つ1つ丁寧にコメ返しをした方がいいのだろうが、テンパってしまってそんな余裕などない。


「あ、あはは……楽しみにしていってくださいね〜」


(マジで楽しみにしているぜ!!)

(フェンリルを倒した男、期待しているぜ!!)

(SO吉の強さ、大期待だ!!)

(フェンリル戦と同じくらいの活躍、期待だ!!)


 高まる期待の中、俺はプレッシャーに押しつぶされそうだった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「──というわけで、あの魔物がフェンリルっていう実感はあまりないんですよ」


 岩肌の目立つ洞窟然としたダンジョンの内部を、配信しながらゆっくりと歩む。昨日のオオカミがフェンリルと言われているが、俺はあの程度の魔物はこれまでに何度も倒している。それ故に、あのフェンリルが強かったという実感はない、というトークを挟みながら。


 会社で何度もプレゼンを担ってきた甲斐があったな。こんな大勢の前でトークをすることは初めてだが、それでも自分でも驚くほどに落ち着いて話すことができている。


(へぇ〜、そうなんだ)

(最近1層にも上級の魔物が出現するって噂あったけど、それは本当なんだな)

(いやいや、実はあのオオカミも本当はフェンリルじゃなかったんじゃない? ただのオオカミだったんじゃない?)

(でもあんなに大きなオオカミ、フェンリル以外に存在しないだろ。それにA級のナルミも苦戦していたんだぞ?)


 俺の発言に対して、コメント欄では論争が行われている。あまり争わないで欲しいので、何度か制止を促したが……言うことを聞いてくれない。もっと配信者としてレベルが上がれば、彼らも言うことを聞いてくれるだろうか。


(SO吉って何歳なの?)

(普段は何やってるの?)

(彼女とかっているの?)

(本当にF級なの?)


 そんな論争の中で流れてくる、質問コメント。

 とりあえず、これらには答えていこう。


「25歳ですよ。普段は会社員しています」


 歩きながら、答える。


「彼女は今はいないです。あと本当にF級ですよ」


 彼女いない発言は、自分で言っていて少し悲しい。

 はぁ……ブラック企業でなければ、俺も今ごろ彼女くらい作れただろうに。クソ、悲しくなってきた。


(25歳、結構若いんだね)

(会社員なんだ。本業で配信者はしないの?)

(登録者100万人以上もいるし、余裕じゃない?)

(そうそう!! 絶対にそっちの方がいいよ!!)


(て言うか、本当にF級なんだね)

(フェンリル倒した切り抜き見たけど、あの動きはどう見たってF級の動きじゃないよ)

(SSS級とかでも、あれは無理じゃないかな?)

(マジで最強かCGのどっちかだよね)


 コメント欄が賑わっている。

 ただ彼女発言に関しては、誰も話題にしていない。

 なんというか……悲しい。



「オガァアアアアアアアアアア!!!!」


 

 と、その時だった。

 目の前の地面に魔法陣が浮かび上がった。

 その魔法陣から現れたのは──


「あ、デカゴブリンか」


 10メートルを超える巨躯。丸太のように太い腕。

 血に染まったかのような、真紅の皮膚。

 雄牛のように鋭い角。こちらを睥睨する血走った眼。


 ダンジョン内に咆哮を轟かせるのは、デカゴブリンだ。

 図体ばかりがデカく、大した実力のない魔物。

 事実、俺は何度もこの魔物を打ち倒している。


(え、ゴブリン!?)

(いやいや、違うだろ!! オーガだろ!!)

(それもオーガの最上位種、ブラッディオーガだ!?)

(え、フェンリルよりも強い魔物じゃん!?)


 コメント欄は大騒ぎしている。

 なんというか、オーバーリアクションだな。

 配信者を喜ばせるための、視聴者なりの優しさなのだろうか。いやぁ、意外と暖かいんだな。


「さて、では倒しますか!!」


 俺はニヤッと、笑った。

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