第7話 チャンネル登録100万人
帰宅後、俺は泥のように眠った。
あの大人気インフルエンサーにして、配信者であるナルミと連絡先を交換したのだ。あの時は実感が薄くて反応も薄かったが、帰ってからことの重大さが理解できてきた。
たった1匹のオオカミを倒しただけで、ナルミと知り合いになれたのだ。彼女を救っただけで、感謝を述べられたのだ。こんな現実離れした出来事が帰ってきてからようやく実感となってきて、同時に疲労となって押し寄せてきた。
シャワーだけ浴びて、ベッドに横になった。
そして意識が消え失せ──朝になった。
「ふぅ……」
本日は土曜日。
いつもは休日出勤のせいで休みなどないが、本日は珍しく丸一日の休みだ。そのため目が覚めると、12時を超えてしまっていた。昨日は金曜日ということもあり、少し遅くまでダンジョンに潜ってしまっていたからな。
いつものようにググッと背を伸ばし、スマホを開く。いつものルーティーンのように、俺は自分のチャンネルを開いた。すると──
「……え」
見間違いか? 何度も目を擦る。
いや、違う。何度見ても合っている。
だが、え、嘘だろ。あり得ないだろ。
1000389。約100万人。
それがチャンネル登録者の欄に、きちんと記載されている。つい昨日までとは、まるで異なる数字だ。
「え、どうして……何がバズったんだ?」
たった一晩にして、登録者が激増した。
いったい何が起きたのか、理解が追いつかない。きっと何かがバズったのだろうが、一体何がどうバズったというのだろうか。
つい不安になり、自信のチャンネル名で検索をかける。すると複数のネット記事が現れた。
【ナルミチャンネル、何者かに救われる】
【かの者の名は、SO吉】
【フェンリルを身体強化魔法だけで屠った男、特定されるwwwwwww】
「昨日のナルミを助けた動画が切り抜かれて、メチャクチャバズったのか」
たくさんあるネット記事、そしてナルミチャンネルから切り抜かれた動画。どれもが100まんPVを超える記事だし、どれもが100万再生を超える動画だ。
A級魔法師でかつ数百万ものファンを誇る彼女を救ったこと、それは相当センセーショナルなことだったらしい。皆がこぞって俺のことを特定しようとかかり、案の定俺のチャンネルがバズってしまったようだ。
結果として、この100万人もの登録者か。
いやはや、バズってほしいとは思っていたが……想像以上だな。ちょっと気持ちの整理が追いつかず、かえって冷静になってしまう。
深呼吸、1つ、2つ、3つ。
よし、大丈夫だ。
「人生何があるか、わからないな」
こんなことになるんだったら、配信のアーカイブを残しておくんだった。普段はアーカイブを残さずに配信が終わり次第削除していたが、大トカゲや巨人の討伐配信のアーカイブを残しておけば、もっとバズれたかもしれないのに。
まぁ……後悔しても仕方がないか。
とにかく、ようやく夢である万バズを達成したのだ。今はそれを喜ぶとしよう。
「鉄は熱いうちに打て、と言うし……ダンジョン配信と洒落込むか!!」
バズった直後だからこそ、日を開けることは悪手だろう。俺は急いで着替えて、ダンジョンへと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
日本には数カ所、ダンジョンへ入れるゲートと呼ばれる入り口が存在する。俺は電車で1時間ほど揺られて、いつも挑んでいる最寄りのゲートへとやってきた。
「ふぅ、よし」
10メートルを超える巨大な穴が、大きな公園の空間に浮いている。そしてその周りには様々な店が立ち並んでおり、まるでゲートを囲うようにして小さな街が形成されているようだ。
武器を売る店、ポーションを売る店。
仲間を集う魔法師、仲間を待つ魔法師。
人々の数は1000人以上。人がゴミのようだ。
そんなに人がいるにも関わらず、誰も俺に声をかけたりしない。170センチの身長に、65キロの体重。顔立ちもごく普通で、中肉中背のフツメンサラリーマン。服装だってスーツだ。
いくら万バズを達成したからといって、こんなに見た目が普通なのだから、誰も気付かなくとも不思議ではないだろう。少し寂しい気持ちにはなるが、逆に声をかけられても鬱陶しいだけなので……これはこれで構わないか。
「まぁ、それはともかくだ」
ゲートの前には受付用の小さなテントがあり、その前には何人もの魔法師が並んでいる。あの受付を行わないと、ゲートに挑むことはできないのだ。
列は結構長く、受付まで10分はかかるだろう。早く配信したい気持ちは山々だが、ここで割り込みをして皆の心象を悪くすることは悪手だ。変な炎上をして、登録者が減ってしまうかもしれない。
「次の方〜」
大人しく列に並び、自分の番を待つこと10分。ようやく俺の番がやってきた。
受付の元へ向かい、書類にサインをする。
その際、受付の人が小さく「あ」と呟いた気がしたが、すぐに彼女は真顔へと戻った。おそらく俺がバズったことを、存じ上げているのだろう。
「はい、手続きは以上です〜」
そんなこんなで手続きを終え、ゲートの前へと立つ。ふぅっと深呼吸を1つし、俺は──
「挑むか」
小さく呟き、ゲートに足を踏み入れた。
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