第41話 鏡の中 明かされる真実⑩ ※残酷描写あり
久しぶりに王宮に戻ってきたリラは、出迎えてくれたメイドにセシルを呼ぶように伝える。
しかし、返ってきたのは……
セシルがアドルフと同日に亡くなってしまったという事実だった。
「どういう事……! どうしてセシルが……! アドルフに何かされたの?」
すごい剣幕で尋ねるリラに、メイドは少々怯えながら答える。
「私たちも詳しいことはわからないのですが……。分かるのは、セシルがアドルフ様の専属メイドになってから、彼女はメイドの仕事全般ではなく、『食事の毒味役』のみ任された……ということです」
この言葉でリラはセシルの身に何が起こったのか理解できた。
……あの悪魔! やってくれたわね……。確かに、独房の中で、セシルに対して、特別な仕事を与えると言っていた……。無能のくせに、自分が毒殺される可能性は考えられたって訳ね。その場合、一番怪しいのがセシル。だから彼女を毒味役にした……。
リラが追放される前、最後にセシルに会った時、リラはドレスの切れ端に自身の血文字で書いたメモを手渡していた。
そこに書かれていたのは、『ルジエナ』というメッセージ。
これは以前セシルに話した、遅効性の毒を持つ美しい花の名前だ。
これを見たセシルは、速やかにリラの意図を理解し、ルジエナを見つけ出し、花から毒の成分を抽出。
毎日一滴ずつアドルフの食事に料理人の隙を見て混入していた。だが、食事の毒味役に抜擢されたことで、最初に自分がその毒入り料理を口にしなければならない。
遅効性で、食べた直後には何の変化も現れないから、アドルフは安心して毒入りの食事を口にしていたことだろう。
セシルは自分も死ぬとわかっていても、リラの最後の命令に忠実に従い、アドルフを死に追いやったのだ。
「セシル……。ごめん……ごめんね……」
リラの瞳から大粒の涙が溢れ出る。
……涙なんて、もう出ないと思っていたのに……。まだ出てくるなんて……。
「リラ様! 大丈夫ですか……?」
メイドが突然泣き出したリラを心配する。
「……ええ」
……裁くべき罪人は大勢いる。そいつらに制裁を加えた後は王宮の体制の改革、国民の税負担軽減など……やることはたくさんある。それが落ち着いたら、セシルのお墓参りに行こう。そして国は良い方向に向かっていると伝えたい。
◇
それから数ヶ月後……
ウェイスト村で、巨大水車建設に従事していた者から、水車が完成したとの連絡が入った。
リラは知らせを聞くなり、口元に笑みを浮かべ、臣下や護衛、兵士などを大勢引き連れてウェイスト村へ旅だった。
長時間の馬車での移動の末、村に到着したリラは、休む間も無く男全員が捕らえられている小屋に足早に向かう。
中に入ると、配属された十数人の監視係が一斉にリラを出迎えた。
「リラ様! お待ちしておりました」
揃って深々と頭を下げる。
「ご苦労様。頭を上げなさい。一人として取り逃してないですね?」
鋭い眼光で、監視係を見渡す。
「はい! これで全員です!」
それから怯える村人達をぐるりと見回す。
憎々しいその顔ぶれに、リラは思わず苦虫を噛み潰したような表情になる。
そしてその中に、アイリスを殺した憎きパトリックの姿も当然あった。
パトリックはリラを見るなり、顔面蒼白になりながら、口をパクパクさせている。
リラは、フッと笑い、パトリックに話しかけた。
「お久しぶりですね。お義兄さま。お元気そうで何よりですわ」
「お……お前、ライラ……! 突然いなくなったと思ったらなんで……!」
「貴様! 何という口の利き方だ! 無礼が過ぎるぞ!」
すかさず臣下の一人がパトリックに怒鳴り声を上げるが、リラはそれを静かに制止した。
「お義兄さま、ごめんなさいね。ライラというのは偽名でして。本名はリラ・ルイーブルと申します」
氷のように冷たく、それでいて宝石のように美しい笑みで語りかけるリラ。
「リラ・ルイーブル……! 王女……様!」
リラの本当の身分が分かり、震える声で反応するパトリック。
「ええ。ですが先日、前国王で兄のアドルフが急逝したことにより、私が女王として即位いたしましたの。以後お見知り置きを……と言ってもお義兄さまとは今日でお別れですが……」
その言葉が何を意味するのか、瞬時に理解したパトリックは、もうこれ以上ないほど顔が青ざめ、全身をガタガタ震わせた。
そんなパトリックに再度、冷酷な笑みを投げかけると、リラは臣下達に向き直り、命令を下した。
「さて……それでは早速ですが開始します。全員を水車小屋へ移動させてください」
「かしこまりました!」
速やかに臣下達が男達を移動させる。
「ああ、それから、村の女性達も一か所に集めて、ことが済むまで外に出さないようにしてください。十分な食事も与え、くれぐれも丁重に扱ってくださいね」
有無を言わせない程の威圧感を伴って臣下達に命令する。
「はっ! 承知いたしました」
水車小屋に移動する途中で、男達は自らの運命を悟ったのか、無謀にも逃げ出そうとした。
「うわあああ! 死にたくない! 俺はまだ死にたくない!」
「助けてくれ! 誰か! お願いだ! 殺される!」
四方八方に走り出す男達。
その光景に、リラは焦ることなく深いため息をつく。
「はあ……。本当に逃げられると思っているのかしら? 愚かな奴ら……」
心配するまでもなく、逃げ出した男達は全員兵士達の手によってすぐに捕まえられた。
捕まった男達は、絶望感に満ち溢れ、脱力するように地面にへたり込む。
「おら! 立て! さっさと歩け!」
兵士達に剣を首元に突きつけられ、無理やり連行される男達。
そして、水車小屋に着くと、リラは設置された巨大な石臼を見上げる。
「あら、素敵な石臼ね……。この大きさなら問題ないわ。一度に四、五人はいけるかしら……。中の仕組みは?」
近くにいた臣下に尋ねる。
「はい、上臼部分に穴が空いていますが、ここからモノを入れます。少し特別な造りとなっていまして、このレバーを引いていくと、天井となる上臼が徐々に下がっていきます。そしてこちらのレバーを引くと、堰き止めていた水が流れ、動く仕組みです」
「わかったわ。それじゃ、早速始めましょうか。第一号は……やっぱりあなたよね? お義兄さま」
リラがそう言うと、兵士達がパトリックの腕を強引に掴み、石臼の穴の方へ引っ張っていく。
「やめてくれ……! お願いだ! ……俺が悪かったから! 二度とあんなことしないと誓うから!」
涙と鼻水で顔全面をグシャグシャにしながら、命乞いをするパトリック。そんなパトリックの様子を見てリラは嘲笑する。
「あら、何を言ってるの? みっともないわね。あなた、アイリスや私が『やめて』と言った時、やめたの? 殴るのをやめなかったわよね? 自分だけ許されると思ってるなら愚かも良い所。潔く死になさい」
必死の命乞いも虚しく、情け容赦無く乱暴に穴に放り込まれるパトリック。
「後の四人は適当に入れて構わないわ」
リラがそう言うと、兵士達は近くに控えている男達をランダムに選ぶと、パトリックと同様、乱暴に穴に投げ込んだ。
「さて、一回目行ってみましょうか」
リラの合図と共に、レバー近くで控えていた臣下がレバーを引いていく。すると、上臼はゆっくりと下がり、中から、男達の恐怖に塗れた悲痛な叫び声が聞こえてくる。
上臼が降り切ると、すぐに回転を始め、ゴリゴリ、バキバキ……と不穏な音が鳴り響く……。
そして中からは、耳をつんざくような男達の断末魔が聞こえてきた。
石臼からは鉄が錆びたような悪臭が立ち込め、ドロドロとした赤い液体が四方八方から流れ出ていた。
あまりにも凄惨な光景に、リラの側に控えている臣下達は、口元を押さえ、こみ上げてくる物を押し込んだ。
顔色を悪くし、今にも吐きそうな彼らの側で……
「フフ……あはは! あはははははは!」
突然、張り詰めていた糸が切れ、壊れたように……狂ったように笑い声を上げるリラ。
周りにいる臣下や、護衛、兵士達もリラの狂気に言葉を失い、唖然としている。
「ああ……良い気味! 最高の気分だわ!」
冷たい瞳を輝かせ、頬は高潮し、その表情はまさに、自身の兄、アドルフがリラを殴った時と同じだった。
「上臼をお取りなさい」
リラに命令された兵士達が中を開けると、思わず目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
赤い液体の海に転がる原型を留めていないそれらは、かつて人の姿をしていたとは到底予想できないものであった。
こうしてリラは意気揚々と、ウェイスト村の男達を次々に処刑していった……。
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