第三章
第22話 アルメリ村
ハザディー村を出発し、次の目的地はアルメリ村。Mystic Mirrorのあるウェイスト村の手前に位置する村だ。
平坦な道のりが続くので、ハザディー村へ向かっていた時程、体力は奪われないが、時間はかかる。
地図を見ると、ここからおおよそ三週間程だろうか。
道中、ジョシュアはルナから引き継いだ力について考えることが多く、休憩中や、就寝前など、力を使えるようにイメージトレーニングを行うようにしていた。
「うーん、なかなか難しいな……。ルナ様、鮮明なイメージをするのがコツって言ってたけど……」
頭を掻きながら唸るジョシュア。隣でじっと見ているリラは、ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「ねえ、ジョシュアは、実際治療してもらってる時って、ルナ様の魔力は見えてた?」
リラに聞かれ、ジョシュアは大きく頭を振った。
「いや、全然。感覚として、温かい何かに包まれていた感じはあったんだけど、何も見えてはなかったよ。リラは何か見えてたの?」
「うん。私は、ルナ様から発せられる魔力は、色のついた光として見えてたわ。ジョシュアの時はオレンジ色。エドモンドの時は青色にね」
それを聞いたジョシュアな何か気づきを得たかのように、手を胸の前でポンと叩いた。
「なるほど! 色か! それと実際僕が感じた感覚を組み合わせれば………」
静かに目を閉じ、頭の中でイメージを膨らませる。
「イメージできそう?」
「うん……! なんか具体的なイメージができそうだよ! ありがとうリラ!」
朗らかな顔で礼を言うジョシュアに、リラも目尻を下げて微笑む。
「お役に立てて良かったわ」
こうして道中ずっと、リラの手も借りながらイメージトレーニングに勤しんでいたジョシュア。
ハザディー村から結構な距離があるにも関わらず、気がついた時には、アルメリ村の入り口まで来ていた。
◇
アルメリ村の中に入るとすぐに二人は今夜泊まる宿を見つける為、村中を歩き回った。
ハザディー村よりもかなり大きな村で、複数の商店や宿屋などが建ち並んでおり、村と言うより完全に町である。
なぜアルメリ町ではなく、アルメリ村となっているのか不思議なほどだ。
しばらく建物を注意深く見ながら歩いていると、とある看板が目に入った。
小さな茶色い木で出来た看板には、宿屋を示す絵が描かれている。
そっと扉を開けて中に入ると、人の良さそうな店主と一人の少女が二人を笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
店主は四十代位の男で、すらっとした長身にブラウンの長髪を後ろで一つに束ねている。特徴的なレンズの分厚いメガネをかけているが、柔和で親しみやすい雰囲気を纏っている。
隣にいる少女は、ジョシュアとリラと同じくらいの年齢で、栗色の長い髪に深い青色の瞳をしている。美人とまでは言えないが、少し垂れ気味の目が儚げな印象を与える。小柄で可愛らしい少女だ。
そしてその少女は、二人が中に入ってくるなり、なぜか愕然とした表情で、リラのことをじっと見つめてきた。
「あの……? どうかしましたか……?」
その視線に気づいたリラが不思議そうに尋ねる。
すると、少女はすぐに表情を引き締め、姿勢を正した。
「あ……! すみません! お客さん、あまりに綺麗なのでつい見惚れてしまって……。大変失礼しました!」
ペコペコと頭を下げて必死に謝られたので、慌てて手を振る。
「あ、いえ、大丈夫です! お気になさらず」
リラの言葉に少女は申し訳なさそうに再度謝罪の言葉を口にした。
「すみません……」
それから思い出したように尋ねる。
「あ! 宿泊希望ですか?」
「はい、今晩泊めていただきたいのですが、二部屋空いておりますでしょうか?」
「ちょっとお待ちくださいね」
そう言って少女は持っている台帳をパラパラと捲っていく。
「はい。大丈夫です。二部屋お取りできます。ただお部屋の準備に少々お時間を頂きますが大丈夫でしょうか?」
空き部屋があることにホッと胸を撫で下ろす。
しばらく野宿続きだったため、そろそろちゃんとしたベッドで眠りたい。
「大丈夫です。お願いします」
「かしこまりました! それではお二人のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「僕はジョシュアと言います。そしてこの子はリラです」
「ジョシュア様とリラ様ですね。本日はご利用ありがとうございます! 精一杯おもてなしさせて頂きます」
少女は明るい笑顔と溌剌とした声で応対する。
そして今度は隣で和かな表情で少女の仕事を見ていた店主がジョシュア達に気さくに話しかけてきた。
「旅人の方ですか?」
「はい。旅の途中でこの村を見つけたので立ち寄りました。今晩泊まって明日の朝には出発しようかと……」
「そうですか。明日の朝にはもう……」
店主はやや残念そうに言う。
「大きな村ですし、時間があれば観光したいなって思うんですけどね」
ジョシュアがそう言うと、店主は愛想の良い笑みを見せる。
「でもせっかく来てくれたので、部屋の準備が出来るまで、少し村の探索でもして来たらどうでしょう? ここから少し歩きますが、季節ごとに様々な花がたくさん咲いている広大で美しい花畑があるんですよ」
『花畑』という言葉に、今度はリラが反応する。
「まあ! お花畑! ぜひ見てみたいです」
弾んだ声で澄んだ瞳をキラキラと輝かせた。
「是非見て行ってください。場所は……。初めての人だと、ちょっとわかりにくいので……。そうだ! フルール。お客様を花畑に案内してあげてくれないか?」
店主にそう言われ、フルールと呼ばれたその少女はコクリと頷く。
「わかったわ。じゃあマシューおじさん、お部屋の準備はお願いします」
どうやら店主の名前はマシューというらしい。
「ああ。任せなさい」
マシューはそう言って勢いよく自分の胸をポンと叩く。
「それではお客様、今から私、フルールが花畑までご案内致します」
「お願いします!」
こうしてジョシュアとリラは、フルールの案内で花畑に向かうことになった。
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