第12話 朝ごはんタイム
翌朝、目が覚めたリラが身支度を整えてジョシュアがいる部屋に向かうと、既にルナがいた。部屋の中からは何やら温かいスープの優しくほっとするような良い香りが漂ってきた。
……わあ、良い匂い……!
食欲がそそられるような匂いに、リラの頬がつい緩む。
部屋に入って来たリラを見てルナは爽やかな笑顔を向けた。
「あら、リラちゃん、おはよう! 昨日はよく眠れたかしら?」
ルナの笑顔にリラもつられて微笑む。
「ルナ様。おはようございます! はい、おかげさまでぐっすり眠れました」
「それは良かったわ。ジョシュア君はまだ眠っているみたい。簡単なものだけど、朝ごはんを作ったから一緒に食べましょう」
そう言ってルナはリラを木製のテーブルに手招きする。
リラがテーブルにつくと、そこには、大きなライ麦パンにチーズ、豆と野菜を煮込んだスープ、果物が置かれていた。
どうやら部屋中に漂う良い匂いの正体はこの野菜スープのようだ。
出来立てなのか、ほくほくと湯気がたち、その度に煮込まれた野菜のほんのり甘い香りが鼻をスッと通り抜ける。
「わあ! 美味しそう!」
トロトロに煮込まれたトマトや人参、キャベツなど色とりどりの野菜スープを見てリラの表情がまたもや緩む。
「お口に合うといいんだけど……」
一口食べると、野菜の他に豆の味と香りも口いっぱいに広がっていく。よく煮込まれている為か、人参などは軽く噛んだだけでほろっと崩れ、強めの甘みが口の中全体を包み込んでいく。
緑色の野菜等も、独特の苦味は消え、ほのかな甘みを感じられるので食べやすい。これなら野菜が苦手な人でも美味しく食べられるだろう。
「このスープ、とっても美味しいです! こういうスープ、今まで食べたことない気がします」
リラは記憶をなくしているので、実際に何を食べたことがあるというのはわからないが、感覚的に初めて食べる物と感じられる。
目をキラキラさせて美味しそうに食べるリラに、ルナも作った甲斐があったと言わんばかりに満足げな表情を浮かべている。
「良かったわ! あと、このライ麦パンはかなり硬めだから、一口サイズに千切ってスープに浸して食べるのがオススメよ」
ルナにそう言われ、リラは早速試してみる。
実際に千切ろうとすると、ルナの言う通り確かに硬い。
少々強めの力を加えなければ、引き千切れないのだ。
小さい一口サイズでライ麦パンを小分けにし終わる頃には、リラの手は疲れ切っていた。
「確かに、硬いですね……!」
そして小分けにしたパンを一つ掴むと、ゆっくりとスープに浸していく。
するとパンは水分を吸収し、柔らかくほぐれていった。
頃合いを見てそのパンを引き揚げ、口の中に入れる。
野菜スープの優しい甘みがパンにしっかり染み込んでいて、柔らかくとても美味しい。相性抜群の組み合わせだ。
硬いパンをそのまま食べると顎が疲れてしまうので、こういう食べ方がオススメかもしれない。
「わあ! 本当にパンを浸して食べると美味しいですね!」
美味しい食事に舌鼓を打っていると、どうやらジョシュアが目を覚ましたようで、うーんと小さく唸るのが聞こえた。
「あら、ジョシュア君、おはよう」
それに気づいたルナがジョシュアの方に顔を向けた。
「おはよう、ジョシュア!」
リラもジョシュアに目を向け、微笑みかける。
「おはようございます。ルナ様、リラ」
ジョシュアは目を擦りながら、ゆっくり身を起こそうとする。
昨日は全く起き上がれなかったが、一晩眠ったらゆっくりだが上半身だけは起き上がれるようになっていた。
「少し起きれるようになったわね。待ってて、少し魔力を流し込むから」
ルナはそう言うとジョシュアに近づき、彼の体に手をかざす。
すると、手の内側から温かみのあるオレンジ色の光が発せられ、ジョシュアの体を包み込んでいく。
「すごい……」
リラは美しく輝きを放つオレンジ色の光に目を奪われ、瞬きをすることなく、じっと見つめている。
「これがルナ様の魔力……」
ジョシュアには光が見えていないようだが、自身の体が何か温かいものに包まれていく感覚はあった。
「温かい……」
まるでぬるま湯に全身浸かっている心地良さ……。
このまま目を閉じて眠りに落ちてしまいそうだ。
「体の内側から細胞を活性化させて治癒力を高めてるの」
光が消えた後、ジョシュアは昨日よりもずっと体が軽くなったのを感じた。
「すごいや……、ありがとうございます!」
ルナはジョシュアの体の具合を見て、こくりと頷く。
「どういたしまして。この後も力を使うから、一日一回しか治癒できないけど、日を追うごとに完治へと近づくわ。後は全力で安静にしていれば、もしかしたら五日もかからないかもしれないわね」
その言葉にジョシュアは満面の笑みを見せた。
「本当ですか! それじゃあ全力で安静にします!」
「そうね、そうしてちょうだい」
ルナもリラもクスっと笑う。
「ジョシュア君、朝ごはんを置いておくから食べられそうだったら食べてね」
ルナはジョシュアが食べやすいようにベッド近くに朝食を置いた。
「何から何まですみません……。ありがとうございます!」
「いいのよ。それじゃ、私とリラちゃんはそろそろ行くから、ジョシュア君は安静にしててね」
「はい」
ジョシュアを残し、ルナとリラは領主の治癒と村人達のケアへと向かう。
「さて、午前中は領主の治癒に行くわ。昨日少し話したけど……権力にモノを言わせているような人物で、とても傲慢だから嫌な思いをするかも……。私一人で行って、リラちゃんは村の様子とか見てきても大丈夫だけどどうする?」
ルナは心配そうな面持ちでリラに尋ねた。
「いえ、私も領主の所へ一緒に行きます」
ルナの心配をよそにリラはキッパリと言う。
「わかったわ。領主の所には、リラちゃんは私の見習いという体で行きましょう……」
この時、ルナは何やら胸騒ぎがしたのだが、それを振り払うように無理やり笑顔を貼り付けた。
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